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【書籍】2倍より簡単?10倍成長を可能にする視点と戦略

 ダン・サリヴァン 、ベンジャミン・ハーディ著『10倍成長 2倍より10倍が簡単だ』(ディスカバー・トゥエンティーワン、2024年)を拝読しました。

 本書では、「2倍成長」と「10倍成長」という異なる考え方を比較し、「10倍成長」がむしろ簡単であることを説いています。従来の「2倍成長」の考え方では、現状の延長線上で改善や努力を重ね、成果を積み上げる方法を取ります。
 しかし、これは一般的には効率的である一方で、労力がかかり、限界があり、時に疲弊を招くものです。これに対し「10倍成長」では、新しい視点や戦略に基づき、質的に飛躍することを目指します。これは単なる量の増加ではなく、考え方そのものを変えることで達成される非線形的な成長プロセスです。成長スピードをどう捉えていくかについては、企業目線でも重要な課題です。深掘りをしたいと思います。

「10倍成長」とは?

 「10倍成長」とは、物事を量的に増やすことではなく、質的な飛躍を指します。例えば、現在の状態を延長したような小さな改善ではなく、視点や基準を根本から変えることによって、圧倒的な成果を生み出すことです。そのためには、「より多く」ではなく「より少なく」を意識し、本当に重要なことに集中することが必要です。この点で、「10倍成長」は従来の「2倍成長」のアプローチとは対極にあります。
 例えば、ミケランジェロの言葉に「ダビデ像は、ダビデではない部分をすべて削り取った結果生まれた」というものがあります。これは、余計なものを排除し、本質だけを追求するという「10倍成長」の考え方を象徴しています。

 さらに著者は、「質の問題」が中心であると強調しています。具体的には、「10倍成長」を実現するには、より高い次元での視点や能力が必要です。この考え方を基にすれば、ミケランジェロが伝説的な芸術家になった理由も説明がつきます。彼は多くの作品を制作したことで評価されたのではなく、作品の一つひとつが持つ驚くべき質の高さによって、後世にまで影響を与えたのです。

心理的柔軟性と変容

 「10倍成長」を実現するうえで重要な要素の一つが、「心理的柔軟性」です。これは、自分の感情や現在の状況にとらわれすぎることなく、未来の目標に向けて進む力を意味します。心理的柔軟性を持つことで、困難な感情や状況に直面してもそれに圧倒されることなく、自らのビジョンに基づいて行動を続けることが可能になります。具体的には、「感情や考えそのものに縛られるのではなく、それを背景(コンテクスト)としてとらえ、柔軟に対応する能力」が重要とされています。

本書では、ミケランジェロの彫刻制作のプロセスがこの「心理的柔軟性」の具体例として挙げられています。彼はヘラクレス像を完成させるために、人体解剖や高リスクな行動を取るなど、当時の彫刻家が行わなかったことを積極的に実践しました。その結果、彼のスキルは大きく向上し、自信と技術の両方で飛躍的な進化を遂げました。このプロセスは、自己の成長や能力の拡張に対する強いコミットメントと、それを可能にする心理的な柔軟性が必要であることを示しています。

「10倍成長」の基準と実践方法

 「10倍成長」を実現するためには、まず自分自身の「唯一無二の能力」に気づき、それを最大限に発揮することが求められます。この能力は、他者には真似できない、自分だけが持つ特別な才能やスキルです。その発見と発展は、自分の人生や仕事の目標を形作る基盤となります。

 また、著者は「必要だからやる」のではなく、「本当に望むからやる」ことの重要性を強調しています。多くの人が「~すべきだ」という社会的な期待に縛られていますが、これを乗り越えて、自分の欲求に正直になることが「10倍成長」の鍵です。例えば、ミケランジェロが人体解剖を決意したのも、「本当に素晴らしい彫刻を作りたい」という欲求に基づいていました。欲求に従って行動するには、誠実さと強い意志、さらにはリスクを取る勇気が必要です。

時間の使い方と自由の拡張

 「10倍成長」では、時間をどのように使うかも重要なポイントとなります。従来の効率性重視の時間管理ではなく、時間の質を重視し、フロー状態を活用することが提唱されています。フローとは、仕事や活動に没頭し、最大限のパフォーマンスを発揮できる理想的な心理状態を指します。この状態を作り出すことで、生産性を向上させるだけでなく、より充実した人生を送ることが可能になります。

 さらに、著者は「時間の自由」「お金の自由」「人間関係の自由」「人生の目的の自由」という4つの自由を拡大することを提案しています。これらの自由を拡張することで、自分の人生をより主体的にコントロールし、より高いレベルの自己実現を達成できるとされています。たとえば、ミケランジェロは芸術活動を通じて、これらの自由を拡大し、自己実現を果たしました。

「10倍成長」の組織運営とリーダーシップ

 本書では、個人だけでなく組織レベルでの「10倍成長」も論じられています。リーダーが「変容の指導者」として、組織内に自律性と創造性を促す文化を築くことが重要とされています。これにより、従業員一人ひとりが「唯一無二の能力」を発揮し、組織全体が高い成果を生むことが可能になります。


 本書では、現状を打破し、より大きな成果を目指すための新しい視点を提供してくれます。「10倍成長」の考え方を取り入れることで、自分自身の可能性を再発見し、人生や仕事に革命をもたらすことができるでしょう。

人事の視点から考えること

 本書のコンセプトを人事の視点で捉え直すと、従来のアプローチとは異なる新しい価値観を組織や従業員に浸透させるヒントが多く含まれています。本書が説く「10倍成長」とは、単なる線形的な進化や効率化ではなく、質的な飛躍を目指すものです。この視点を取り入れることで、従業員個人や組織全体の潜在的な能力を解き放ち、組織の成長を加速させるための戦略を再構築できるでしょう。

1. キャリア開発と「10倍成長」の統合

 従業員のキャリア開発は重要な課題の一つです。本書が提示する「10倍成長」の考え方を導入することで、従来のスキル向上や昇進を目的とした「2倍成長」型のキャリア開発を超え、より大きな飛躍を目指す新しい枠組みを作り上げることが可能になります。
 従業員が現在の役割や業務の延長線上で成長するのではなく、個人の強みや興味に基づいて全く新しい可能性を追求できるようサポートする必要があります。
 具体的には、従業員一人ひとりが持つ「唯一無二の能力」を特定し、それを最大限に活かせるキャリアプランを提供することが重要です。例えば、従業員の創造性を引き出すためのメンタリングプログラムや、従業員が自身のスキルを新しい分野に適用できる機会を提供することが挙げられます。

 また、非線形的な目標設定を推奨することで、従業員が自らの可能性を再発見し、成長意欲を高めることができます。たとえば、単なる役職の昇進ではなく、業界内での影響力を高めることや、新しい技術や市場に挑戦することを目指す目標を提案することで、従業員の意識をより高い次元に引き上げることが可能です。

2. 心理的柔軟性を育む組織文化の構築

 本書で強調される「心理的柔軟性」は、現代の職場環境において特に重要なスキルです。従業員が変化や課題に直面した際、自分の感情や現在の状況に支配されることなく、目的に向かって行動を続けられる力を持つことは、個人の成長だけでなく、組織の成功にも直結します。この心理的柔軟性を育むための取り組みを設計し、組織全体に浸透させることが重要でしょう。

 具体的には、マインドフルネスのトレーニングや感情マネジメントの研修を通じて、従業員が自分の感情をコントロールし、冷静な判断を下せる能力を養うことが効果的です。また、失敗を許容する文化を醸成することも重要です。たとえば、失敗したプロジェクトを評価の対象外とするのではなく、そこから得られた学びを明確にし、組織全体で共有する場を設けることが考えられます。

 さらに、心理的柔軟性を強化することで、従業員は新しいチャレンジに対する抵抗感を軽減し、未知の分野に進む勇気を持つことができます。このような柔軟性を備えた従業員が増えることで、組織全体が変化に強く、より高い成長を遂げられる環境が整います。


3. 「10倍成長」の基準を組織目標に反映

 組織全体の目標設定も重要です。本書の考え方を取り入れることで、従来の目標設定にとどまらず、組織が共有するビジョンそのものを「10倍成長」の基準に基づいて再定義することができます。例えば、組織のビジョンを明確化し、全社員がその方向性に向けて自らの役割を再認識できるようにすることが重要です。

 また、人事評価制度においても「10倍成長」を反映させる工夫が求められます。従来の業績評価では数値的な成果に重点を置きがちですが、「10倍成長」では個人の創造性や挑戦への取り組み方、非線形的なイノベーションの成果を評価する指標を導入することが有効です。これにより、従業員は長期的な視点で自己の成長を捉え、短期的な業績に縛られることなく、真に価値ある貢献を目指すようになるでしょう。

4. 時間と自由を尊重する働き方の設計

 「10倍成長」を支える重要な要素の一つに、従業員が自由に時間を使える環境が挙げられます。本書では「時間の質」を重視する考え方が説かれており、これを人事が働き方改革に取り入れることで、従業員の生産性と満足度を大きく向上させることができます。

 たとえば、リモートワークやフレックスタイム制を導入し、従業員が自分の最も生産的な時間帯で仕事に集中できるようにすることが考えられます。また、「深い作業時間」を確保できるような業務環境の整備も効果的です。これにより、従業員は短時間で質の高い成果を出すことができ、さらに自分のキャリアや成長のために時間を活用する余裕を持つことが可能になります。

5. リーダーシップ育成と「変容の指導者」の概念

 本書では、リーダーが従業員の成長を支援する「変容の指導者」として機能する重要性が強調されています。人事としては、このようなリーダーを育成するためのプログラムを設計し、組織全体のリーダーシップの質を向上させる必要があります。

 リーダー研修では、従業員一人ひとりの「唯一無二の能力」を引き出し、適切な目標設定を支援する方法を学ぶ場を提供することが考えられます。また、自律的な組織文化を育てるためのスキルを習得する機会を設けることで、リーダーが単なる管理者ではなく、組織の進化を促す変革者としての役割を果たせるようになります。

6. 従業員モチベーションの源泉に基づく支援

 従業員が「必要だから行動する」のではなく、「望むから行動する」ようにサポートする必要があります。このためには、従業員が自分の本当に望むキャリアや働き方を明確にできるよう、適切なカウンセリングや支援を提供することが重要です。

 具体的には、パーパス(目的意識)を明確化するためのワークショップを実施し、従業員が自分自身の目標や価値観を再認識できるようにすることが効果的です。また、定期的なキャリアカウンセリングを通じて、従業員が自身の欲求に基づいた意思決定を行えるよう支援することも必要です。

 このように、企業組織でも、「10倍成長」の考え方を活用することで、個人と組織の両方に質的な飛躍をもたらすことができます。従業員一人ひとりの可能性を最大限に引き出し、組織全体を進化させるための取り組みを設計・実施することが重要でしょう。

「10倍成長」のコンセプトを象徴する未来的で活気あるワークスペースです。多様なバックグラウンドを持つチームが、先進的な環境でブレインストーミングを行い、革新的なプロジェクトに取り組む様子が表現されています。デジタルスクリーンには斬新なアイデアや戦略が表示され、上昇するグラフや輝くノードが、成長とつながりを象徴しています。

全体的な雰囲気は、野心的でコラボレーションを重視し、質的な飛躍を目指すエネルギーに満ちています。広々としたレイアウトや自然光が、開放感と集中力を高めるデザインとなっており、まさに「10倍成長」の精神を体現した職場風景といえるでしょう。


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