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【書籍】鎌田善政と鍵山秀三郎ー凡事徹底を通じた経営理念の共鳴

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp178「5月25日:「凡事徹底」の祈り(鎌田善政 鎌田建設社長)」を取り上げたいと思います。

 2002年9月、鹿児島県霧島市にある鎌田建設社の敷地内に「凡事徹底」と刻まれた石碑が設置されました。この石碑は、同社社長である鎌田善政氏が、経営者としての指針とするため、尊敬するイエローハット創業者・鍵山秀三郎氏に依頼して制作されたものです。鍵山氏はこの依頼を快諾し、書かれた文字は故人となった兄によるものである、と伝えました。

 石碑の設置後、鎌田氏は入魂式を執り行うため、友人の僧侶を招きました。その僧侶は、石碑の文字から特別な力を感じ取り、その不思議さを探るために、書の達人である堀智範大僧正に鑑定を依頼しました。堀氏からは、凡事徹底の「凡」の字が商売の繁栄を願う心から書かれた、との評価でした。

すると彼は石碑を眺めながら「理由は分からないが、この文字の力に体が思わず反応する」と言うのです。不思議に思った彼は、書の達人として有名な堀智範大僧正(京都・元仁和寺門跡)に碑の写真を送って鑑定を依頼。間もなく書を讃える内容の返事が届きました。「凡の字はバランスを取るのが難しく、どうしても縦長になりがちです。ところがこの凡の字は横にどっしりと広がっています。このとつとつ字を書いたのはおそらく商売をなさってい方でしょう。商売が末広がりであるように祈りを込められたのだと思います」

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p178より引用

 この話を鍵山氏に伝えると、同氏は喜び、自身の兄についての思い出を語りました。鍵山氏の兄は、同氏の事業が困難な時期にも支援を惜しまず、イエローハットが増資した際には自らの給料から出資し、亡くなる時には所有していた株が数十億円の価値になっていました。しかし、その遺産は鍵山氏に全て譲られ、兄の息子は一切を受け取らずに全てを鍵山氏に渡しました。

 このエピソードは、凡事徹底という四文字に、兄が弟への深い愛情と成功を願う心が込められていることを示しています。鎌田氏にとって、この石碑はただの記念物ではなく、経営者としての誓いを新たにし、顧客や従業員の幸福を願う守り神のような存在です。毎日、この石碑を拝むことで、鎌田氏は自らの経営理念を確固たるものにしています。

凡事徹底という四文字には、弟の成功と幸せを願う兄の無心の祈りが込められていたのです。当社にとってこの石碑は単なる石碑に止まらない守り神そのものであり、私もこの碑を拝んではお客様や社員の幸せを願い、経営者の誓いを新たにするのを日課にしています。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p178より引用

 この物語は、ビジネスの世界における精神的な価値と、人間関係の深さを象徴しています。また、「凡事徹底」という言葉が持つ意味の重さと、それを体現する人々の生き様を通じて、目標達成のための粘り強さと継続の大切さを教えてくれます。鎌田氏と鍵山氏の物語は、成功への道は単に努力や才能だけでなく、人との繋がりや支え合い、そして心からの願いが実現することの重要性を示しています。

人事としてどう考えるか

 「凡事徹底」という言葉は、どんなに小さな仕事でも最後まで丁寧に行い、あらゆることに全力を尽くすという精神を表します。この哲学は、ビジネスだけでなく、私たちの日常生活においても大切な価値観となり得ます。鎌田建設の鎌田善政社長がイエローハット創業者・鍵山秀三郎氏の座右の銘であるこの言葉を社の石碑に刻んだことは、経営者としての彼の深い洞察と情熱を示しています。この石碑は、単なる記念物ではなく、組織の文化や価値観を象徴するものであり、社員や関係者に大きな影響を及ぼしているでしょう。

 人事の観点から「凡事徹底」を考えるとき、この精神は従業員一人ひとりの業務に対する姿勢において極めて重要であるといえます。細部にまで気を配り、仕事に対して真剣に取り組むことで、高品質の成果を生み出すことができます。このような姿勢は、個々の成長はもちろん、チームの協力や組織全体のパフォーマンス向上にも貢献します。

 人材開発の視点でみると、「凡事徹底」の精神は特に重視されるべきです。新入社員教育やリーダーシップ研修を通じて、この価値観を伝え、具体的な行動や習慣として身につけさせることが、組織の持続可能な成長には不可欠です。例えば、目標設定、タスク管理、時間管理のスキルを習得させることによって、「凡事徹底」の実践に必要な基盤を構築することができます。

 さらに、組織文化として「凡事徹底」を根付かせるためには、トップダウンでこの価値観を示し、積極的に実践することが重要です。経営陣やリーダーが模範となってこの精神を体現することで、社員も自然とこの姿勢を身につけていくようになります。また、評価・報酬のシステムを通じて、この精神を持って仕事に取り組む社員を適切に評価し、報いることも、組織文化を育てる上で効果的な手段です。

 「凡事徹底」の精神は、日々の業務を通じて絶えず実践されるべきものであり、その継続的な実践が、組織や個人の成長、そして最終的な成功に繋がります。どのような仕事も軽視せず、最後まで責任を持って取り組むことで、仕事の質が向上し、それが積み重なることで大きな成果を生むことができるでしょう。

 この精神はまた、チームワークや組織の一体感を高める上でも重要です。一人ひとりが「凡事徹底」の精神で仕事に取り組むことで、相互の信頼と協力が深まり、より強固なチームワークが築かれます。これは、特に困難なプロジェクトや目標に取り組む際に、組織としての強さを発揮する上で不可欠な要素となります。

 組織が直面する様々な課題や変化に対しても、「凡事徹底」の精神は大きな力を発揮します。変化を恐れず、常に最善を尽くし、どんな状況でも品質を落とさずに仕事を完成させる姿勢は、組織が持続的に成長し続けるための鍵です。また、この精神は、組織のレジリエンス、つまり逆境に強い組織を作る上でも重要な役割を果たします。

 最後に、「凡事徹底」の精神を社内で広め、根付かせることは、組織のブランド価値を高めることにも繋がります。顧客やクライアントは、そのような価値観を持つ組織からのサービスや製品を高く評価します。これは、組織の競争力を高め、市場での成功を確実なものにするために、非常に重要な要素です。
 「凡事徹底」の精神は、ビジネスの成功、個人の成長、組織の健全な発展のための根幹をなす考え方であり、この精神を持つことで、どんなに小さなタスクであっても、最高の品質と成果を目指すことができるのです。これが積み重なることで、大きな成功へとつながっていくわけです。


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。


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