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【書籍】人事部員たちの本音:採用難と現場とのギャップをどう乗り越えるかー日経ビジネス記事より

 日経ビジネス2024/9/12の記事「人事担当4人、トップに物申す「制度だけでは機能しない」座談会で本音」を拝読しました。

 この記事では、4人の現役人事担当者が、それぞれの職場で直面している人事業務の課題や問題点について、率直な意見を述べています。経営層との間にある温度差や採用、人材配置の難しさ、人事業務に対するモチベーションの違いなど、多岐にわたる問題が議論されています。

 私も現場に立つ身として、頷かざるを得ない場面が相当にありました。内容から考えられることを展開してみたいと思います。

1. 経営層との認識のギャップ

 まず、経営層が近年、人事施策に対して関心を持ち始め、具体的なアプローチを求めるようになった点が指摘されています。例えば、ある商社に勤務するAさん(30代)は、上層部から「現状の人事施策に対するニーズは何か?」と頻繁に聞かれるようになったと述べています。これ自体は前向きな変化と捉えつつも、具体的なデータを求められるたびに困惑することが多いといいます。社内のニーズをくみ取ることは重要ですが、それをデータで裏付けることは容易ではなく、社内アンケートを繰り返すことが手間となっている現状を吐露しています。

 IT業界のBさん(40代)は、経営幹部が人事施策に強い関心を示すようになったことは感じているものの、制度を作っただけでは実際に機能しないことを経営層が理解していないと指摘しています。特に、会社に根付いた文化が簡単には変わらない点や、親会社のジョブ型人事制度を導入しても、現実には全く機能していない状況が明らかにされました。Bさんの経験からは、ジョブディスクリプション(職務定義書)が明確に定義されておらず、それが原因で異動も効果的に行われていないという現実指摘されます。これらの問題により、経営層が制度導入を進めても、現場でその効果を実感できないことが頻発していることが示唆されました。

 さらに、ITベンチャーのCさん(30代)は、自身が営業から人事部に異動してきた際に、周囲の人事部メンバーが現場経験のない総務畑出身者ばかりであることに驚いたと述べています。「作ったルールは守られるべき」と考えているが、実際の現場ではルールを破ることが前提で動いているという現実が存在します。この認識の差が、現場と人事部との間に大きなギャップを生んでいると指摘しました。

2. 採用や人材配置における困難さ

 次に、採用や人材配置に関する話題です。IT業界のBさんは、ジョブ型のポスティング制度(社内公募制度)を導入しているものの、実際には制度がうまく機能していないと述べています。人材の異動があるたびに波風が立ち、特に「余った人材」や「戦力にならない人材」を他のグループ会社に送り出す仕事は非常に精神的に負担が大きいと感じているとのことです。また、異動を説得する際には個々の社員の人生や家族に関わるため、非常にプレッシャーを感じることが多いと語られています。

 採用業務に関しては、Bさんは以前は採用が比較的容易であったと感じていたものの、現在では状況が変わり、優秀な学生は複数の内定を持っており、自社に来る可能性が低くなっていると述べています。特に、中途採用では30代の人材が奪い合いになっており、優秀な人材を確保することが非常に難しい状況にあるといいます。

 ITベンチャーのCさんも同様に、中途採用に苦労していると述べ、毎月5人の採用目標があるものの、全く人が集まらない現状を吐露しています。特にエンジニアの人材不足が深刻で、在籍しているエンジニアにはキャリアアップの機会を提供したいと考えているが、リスキリング(学び直し)や研修にはコストがかかるため、なかなか実施に踏み切れない状況にあると述べています。エンジニアからの相談にも「少し待ってくれ」と対応せざるを得ない状況にあり、現実的な解決策が見えていないことを嘆いています。

 さらに、商社のAさんは女性活躍推進のため、女性の採用に力を入れているものの、「商社は転勤やハードワーク、飲み会が多い」といった固定観念が根強く残っており、そのイメージを変えることが課題であると指摘しています。こうしたイメージを払拭するには、幼少期や学生時代からの意識改革が必要で、一朝一夕には解決できない問題であると述べています。

3. 人事部で働くことへの本音

 最後に、人事部で働くことへの本音やキャリア観が語られました。ITベンチャーのCさんは、現場に戻りたいという本音を明かし、人事の仕事は成果が見えづらく、あまり評価されないと感じているとのことです。特に、新卒で人事部に配属されたDさんは、同期100人中1人が人事部に配属されるという慣例があるものの、自分のキャリアが想像していたものとは違い、配属当初は大きなショックを受けたと述べています。また、通常3年で異動があるものの、異動できなかったことで転職を余儀なくされた経験を語っています。彼女の知る限りでは、彼女の前後2年間に人事部に配属された新人は全員が転職しているとのことです。

 一方で、商社のAさんは他部署での経験を経て人事部に戻った後、人事施策に対して他部署の人が興味を持つようになったことがやりがいになっていると述べています。しかし、仕事量が多すぎることに悩んでおり、デジタルスキルのリスキリングを進めてDX(デジタルトランスフォーメーション)を行わなければならないと感じつつも、具体的に何をどうすべきかが分からず戸惑っている状況です。

 IT業界のBさんも、人事の仕事に面白さを感じていると述べています。特に、会社の人材戦略を考えることにやりがいを見出している一方で、事務作業を担当する同僚との間に温度差を感じており、待遇が同じであることに不満を抱いているとのことです。

 この記事は拝読すると、人事部における現場の課題や経営層とのギャップ、採用や人材配置の困難さ、人事部員自身のキャリア観やモチベーションに関する問題が指摘されます。人事の役割がますます重要視される一方で、現場ではさまざまな矛盾や困難が存在しており、それが人事担当者たちにとって大きな負担となっていることが分かります。

考察

 この記事を拝読し、企業の人事部が直面している課題や現状から、慮すべきポイントをいくつか挙げてみます。人事部は組織の成長と変革を推進する役割を果たすべき立場にありますが、現場の実態や経営層とのギャップ、採用や配置の難しさ、そして人事部自身のスキルやモチベーションの課題に直面している現状が分かります。私も感じているところが多々あります。

1. 経営層と現場の橋渡し役としての人事の重要性

 まず重要なのは、経営層と現場の橋渡し役としての人事の役割を再確認することです。経営層は人事施策に対してデータや具体的な結果を求め、迅速な対応を望む一方で、現場は実際の業務に追われ、施策の効果を実感できないというギャップが存在します。人事部は単に経営層の指示を実行するだけでなく、現場の実情を的確に理解し、経営層に対して現場のリアルなニーズを伝える役割が求められます。

 記事で述べられているように、ジョブ型人事制度が機能していない場合、それを単に現場の問題と片付けるのではなく、経営層に対して「現場の文化や慣習を踏まえた制度変更が必要だ」というフィードバックを伝えることが重要です。経営層が求める短期的な効果と、現場が必要とする中長期的な育成や支援のバランスを取ることが、重要な役割です。

2. 採用戦略の再考と柔軟性の確保

 採用に関する課題も、企業人事の視点から考えるべき大きなテーマです。中途採用での優秀な人材の獲得が困難であることや、エンジニアの人材不足は深刻な問題です。現代の企業環境では、採用活動の柔軟性と創意工夫が求められていることが分かります。伝統的な採用手法に固執するのではなく、社内外のネットワークを活用し、タレントプール(潜在的な採用候補者のリスト)を広げたり、リモートワークやフレックスタイムといった柔軟な労働環境を提供することで、優秀な人材を引き寄せる工夫が必要です。

 また、リスキリング(学び直し)やキャリアアップの支援が、採用戦略の一部としてより重要になるでしょう。既存の従業員に対して、エンジニアや専門職のスキルを向上させるための教育や研修プログラムを充実させることで、新たな人材を外部から確保するだけでなく、社内での人材育成を強化することも有効な戦略です。

3. 人事部員自身のスキル向上とモチベーション維持

 企業の人事部員自身も、自分たちのキャリア開発やスキルアップを意識する必要があります。特にデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い、ITスキルやデータ分析能力の向上が不可欠です。人事部門がデータに基づいた人材戦略を策定できるようになるためには、リスキリングやDXの知識を深めることが必要です。また、AIを活用した人事業務の効率化や自動化が進む中で、デジタルツールの活用法を学び、適切に運用する力を持つことが、人事部員の付加価値を高めます。

 さらに、人事部員自身のモチベーション維持とキャリアパスの明確化も重要な課題です。人事部はその特性上、他の部署に比べて成果が見えにくく、評価されづらい面があるため、内部でのスキル向上や成果の可視化が欠かせません。また、新卒で配属された人事部員がキャリアに不安を感じて転職するケースも多いことから、組織内でのキャリアパスを明確にし、人事の仕事にやりがいを持てるような環境を整えることが必要です。

4. 企業文化とダイバーシティ推進の重要性

 最後に、企業文化とダイバーシティ(多様性)の推進についても重要な視点です。商社における「ハードワーク」や「飲み会」のイメージが根強く、女性の採用が難しいとされる点は、企業文化自体を見直す必要があることを示しています。企業文化を変えるためには、単なる制度の導入に留まらず、組織全体の価値観や行動規範を見直し、従業員一人ひとりにその変革を浸透させることが必要です。

 また、ダイバーシティ推進のためには、女性活躍の推進だけでなく、他の多様な属性(年齢、国籍、障がい、性的指向など)を持つ人材が働きやすい環境を整えることが求められます。これにより、企業全体のパフォーマンスや創造性が向上し、結果として持続可能な成長につながるでしょう。

まとめ

 人事部は経営層と現場の間に立ち、両者のニーズをバランスよく取り入れた施策を実行する必要があります。また、採用や人材配置の難しさに直面している中で、柔軟で創造的なアプローチを取り入れることが求められます。同時に、人事部自身のスキル向上とキャリア開発を図り、社内での存在感を高めることも重要です。さらに、企業文化の改革やダイバーシティの推進を通じて、持続可能な成長を実現するための戦略的な人事施策を展開することが、これからの人事部にとって重要なテーマとなるでしょう。一方、これらは経営陣の理解・協力も必要であり、働きかけは必要です。

人事部が経営層と現場の間に立ち、双方のニーズをバランスよく取り入れつつ、柔軟で創造的な施策を実行する様子が描かれています。経営層が戦略を議論する姿や、従業員が協力して働く姿が対照的に配置されており、中央の人事部は柔軟なアプローチを象徴するグラフやアイデアを掲げています。上空にはキャリア開発、企業文化改革、ダイバーシティ推進を表すアイコンが浮かび、未来志向の人事戦略を示唆しています。穏やかなパステルカラーが、建設的で落ち着いた雰囲気を強調しています。

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