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「成長と挑戦の文化」:オリコが実践する包括的人材戦略:Aoba-BBTリカレントサミット2024ー松岡英行氏、政元竜彦氏

 Aoba-BBTが毎年開いている経営者・人事向けの「リカレントサミット」。2024年10月23日に、「オリコが取り組む変革への挑戦~イノベーティブな先進企業に向けた人財戦略の取り組み~」というテーマで実施されました。登壇者は松岡英行氏(株式会社オリエントコーポレーション、常務執行役員 人事・総務グループ長)と政元竜彦氏(株式会社Aoba-BBT 取締役副社長)でした。

 人事の立場として、種々考えさせられるところがあり、応用すべきところもたくさんあります。

https://www.bbt757.com/business/recurrent-summit2024autumn

 オリエントコーポレーション(オリコ)は、2024年の創業70周年を機に、「イノベーティブな先進企業」への進化を目指し、これまでにない包括的な人材戦略を展開しています。この取り組みは、従来型の人材育成の枠を超え、組織全体の変革を促進する戦略的なアプローチとして設計されています。特に注目すべきは、デジタルトランスフォーメーション(DX)、女性活躍推進、キャリア開発支援など、現代の企業が直面する重要課題に対して、統合的なソリューションを提供している点です。

革新的なキャリア形成支援制度の確立

 人材戦略の第一の柱となるキャリア形成支援では、従来の受動的なキャリア支援から、社員一人ひとりが主体的にキャリアを構築できる能動的な支援体制へと大きく舵を切りました。全社員を対象とした体系的なキャリア面談制度の導入に加え、専門のキャリアコンサルタントによる相談窓口の設置、独自開発の「キャリアコミュニケーションシート」の活用など、きめ細やかなサポート体制を構築しています。特に注目すべきは、上司を「伴走者」として明確に位置付け、適切な研修プログラムを提供することで、より効果的なキャリア支援を実現している点です。

多様な就業経験機会の創出と成果

 第二の柱である就業経験機会の創出では、社内公募制度、スタートアップ企業へのレンタル移籍、週1回の社外副業など、多様な経験機会を通じた人材育成を積極的に推進しています。2021年度にわずか17人だった参加者は、2023年度には146人まで劇的に増加し、その効果は組織全体に波及しています。特筆すべきは、単なる制度設計にとどまらず、参加者の体験談を社内イントラネットで積極的に共有し、「挑戦する文化」を醸成している点です。実際に、参加者からは「スピード感の違い」「新しい視点の獲得」など、具体的な学びが報告されており、これらの経験が組織変革の触媒として機能しています。

Orico Women's Networkによる女性活躍推進

 女性活躍推進の要となるOrico Women's Networkは、従来型の社内ネットワーキング組織の枠を超えた、戦略的な人材育成プラットフォームとして機能しています。2024年に開催された異業種交流会では、22社もの企業が参加し、業界の垣根を超えた知見の共有と相互学習の機会を創出しました。全6回のシリーズプログラムは、キックオフミーティングから社外フィールドワーク、経営層との情報交換会まで、段階的に学びを深める構成となっており、参加者の約半数が「社外ネットワーク形成とキャリア形成支援の両方に寄与した」と高く評価しているとのことです。

Aoba-BBTと連携したDX人材育成プログラム

 DX人材育成においては、Aoba-BBTとの戦略的パートナーシップにより、独自の三層構造プログラムを展開しています。初級レベルでは全社員必須のデジタル基礎知識の習得、中級レベルでは専門的なデジタルスキルの向上、上級レベルではビジネス変革を実現できる人材の育成を目指すなど、段階的な育成アプローチを採用しています。特に上級プログラムでは、約30時間におよぶ動画コンテンツによる知識インプットに加え、RTOCS(Real Time Online Case Study)による実践的なトレーニングを実施し、現実の経営課題に即した問題解決能力の養成を図っています。

革新的な学習手法RTOCSの詳細

 RTOCSは、従来型のケーススタディとは一線を画す革新的な学習手法として注目を集めています。現在進行形の経営課題に対して、受講者自らが情報を収集・分析し、経営者視点で戦略を立案するという実践的なアプローチを特徴としています。約3ヶ月間にわたるプログラムでは、グループディスカッションを通じた多様な視点の取り入れ、情報収集から解決策の立案・検証まで、実務に直結する実践的なスキルを段階的に習得していきます。実際に、受講者からは「視野の拡大」「全体最適の視点の獲得」など、具体的な成長が報告されています。
 私も、BBT大学大学院時代に、さんざんやりました(笑)。

中核管理職の変革リーダー育成

 部室長・支店長クラスを対象とした中核管理職ミッション開発プログラムは、変革リーダーの育成を目的とした包括的なプログラムとして位置付けられています。2023年度には全197名の対象者が受講し、その9割が「主体的に学び続け、挑戦し続ける意識・行動様式」を実践できていると報告しています。「その道のプロをめざす」というユニークなコンセプトのもと、参加者は自身の興味分野や極めたいテーマを設定し、役員メンターの支援を受けながら、約4ヶ月間にわたる実践的な学びを進めています。

組織全体への波及効果と今後の展望

 これらの多面的な取り組みの成果は、組織全体に着実に浸透しつつあります。DX上級プログラム受講者からは具体的な業務改善提案や新規事業アイデアが生まれ、それらは社内イントラネットを通じて共有され、組織全体の学習と成長を促進する好循環を生み出しています。さらに、これらの取り組みは定期的な評価と改善のサイクルに組み込まれ、環境変化に応じた柔軟な対応を可能としています。

戦略的人材育成の将来展望

 オリコの人材戦略は、個々のプログラムの充実度と、それらの有機的な連携による相乗効果を特徴としています。今後は、デジタル化の加速や働き方改革の進展など、ビジネス環境の急速な変化に対応しつつ、持続的な企業成長を支える人材基盤の更なる強化を目指していきます。特に、社員の自律的な成長を促進する仕組みづくりと、組織全体の変革を推進できるリーダーの育成に重点を置き、日本企業における人材育成の新たなモデルケースとして、さらなる進化を続けていくことが期待されています。

人事の視点から考えること

 現代の人事戦略において、オリコの取り組みは「人的資本経営」の実践的モデルケースとして高い注目を集めています。従来型の人材育成プログラムの枠を超え、人事部門が直面する「人材育成」「組織開発」「エンゲージメント向上」という3つの本質的課題に対して、統合的かつ革新的なソリューションを提供しています。特に、個々の施策が相互に連携し、組織全体の変革を促進する触媒として機能している点は、人事戦略の新たな地平を切り開くものと感じます。

人事施策の戦略的設計と実装プロセス

 キャリア形成支援においては、個人の自律性を最大限に尊重した「伴走型」支援モデルを採用し、従来型の一方向的な育成アプローチからの脱却を図っています。特筆すべきは、上司のキャリア面談スキル向上のための体系的な研修設計や、キャリアコンサルタントの戦略的配置による専門的支援体制の確立です。さらに、定量的・定性的な効果測定の仕組みを構築することで、継続的な改善サイクルを確立しています。

 社内外の経験機会創出では、人材ポートフォリオの最適化を意識した配置戦略を展開し、リスクマネジメントを考慮した社外派遣制度を精緻に設計しています。投資対効果(ROI)を重視したプログラム選定や、経験学習の組織内還元の仕組み化により、個人の成長が組織の発展に直結する好循環を生み出しています。

 女性活躍推進においては、パイプライン形成を意識した段階的育成アプローチを採用し、メンタリング・スポンサーシップの戦略的活用により、持続的な成果創出を実現しています。業界横断的なネットワーク構築支援や、定量的な成果指標の設定と進捗管理により、実効性の高い施策展開を可能としています。

人事制度設計の革新的アプローチ

 評価・報酬制度との連動では、チャレンジを促進する評価基準の設定や、新しい経験への挑戦を適切に評価する仕組みの構築が特徴的です。専門性の高度化に対応した処遇制度の整備により、持続的な成長意欲を引き出すインセンティブ構造を実現しています。

 タレントマネジメントでは、戦略的なサクセッションプランニングとハイポテンシャル人材の早期発掘・育成を通じて、組織の持続的成長を支える人材パイプラインを構築しています。クリティカルポジションの明確化と後継者育成により、組織の脆弱性を最小化する取り組みを展開しています。

 組織開発の視点では、部門間連携を促進する仕組みづくりや、イノベーション創出のための組織風土醸成に注力しています。心理的安全性の確保と挑戦を促す文化づくりにより、持続的なイノベーション創出の基盤を形成しています。

人事部門の戦略的進化

 戦略パートナーとしての機能強化において、経営戦略と人材戦略の統合や、データドリブンな意思決定支援の充実を図っています。組織変革の推進役としての位置づけを明確にし、より高次の価値創造に貢献する体制を構築しています。

 プロフェッショナル人材の育成では、人事部門内のDX推進や高度な専門性を持つ人事スタッフの育成に注力し、外部知見の効果的な取り込みを通じて、組織の変革力を強化しています。

 効果測定とROI分析においては、投資対効果の可視化や定量・定性指標の設定を通じて、継続的な改善サイクルを確立しています。これにより、施策の実効性を高め、経営貢献度の向上を実現しています。

未来志向の人事戦略展開

 今後の展望として、短期的にはプログラム間の連携強化や効果測定の精緻化、参加者フォローアップの体系化が課題となります。中期的にはグローバル人材育成との統合や新しい働き方への対応、組織構造の柔軟化が焦点となり、長期的には持続可能な人材育成エコシステムの構築や企業文化の進化への貢献、社会的インパクトの創出を目指していきます。

 このような包括的アプローチにより、人事部門は従来の管理機能から脱却し、組織変革を主導する戦略的パートナーへと進化を遂げつつあります。特に、データとテクノロジーを活用した意思決定支援機能の強化や、多様な人材の活躍を促進する仕組みづくりが、今後の競争優位性を確保する上で重要な要素となっていくでしょう。

 人事部門の変革を通じて、組織全体の持続的成長と社会的価値創造の両立を目指す取り組みは、日本企業における人材マネジメントの新たなモデルとして、今後も注目され続けることが期待されます。人事部門としての今後の役割を検討するにおいて、多くの示唆を与えてくれるものでした。

「社員のキャリア支援と多様性推進」をイメージしています。左側には、キャリアデザインのミーティングが進む具体的な場面、中央にはハイテクなDXトレーニング、右側には女性リーダーたちが積極的に交流するネットワーキングセッションが描かれています。温かみのある色調と現代的なデザインが、成長と革新の企業文化を引き立てています。


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