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「Z世代」ならぬ「Z人間」の理解と育成:企業競争力を高める新たなアプローチ:川上真史氏

 川上真史ビジネス・ブレークスルー大学教授の「企業と心理学 トピックス #20 Z世代」というテーマを取り上げます。

 Z世代とは、一般的に1995年以降に生まれたデジタルネイティブ世代を指し、彼らはデジタル技術を活用することに慣れており、インターネットが常に身近にある環境で成長してきた世代です。
 一方、川上氏は「Z人間」という新しい概念を提唱しており、これは単なる世代の枠を超え、デジタル環境を中心に仕事や生活を営む人々全体を指しています。このような「Z人間」の特徴を理解し、企業がいかにして彼らを効果的に活躍させるかが、今後の企業競争力の基本的な要素となると述べています。
 具体的には、「Z人間」の特徴に適した職場環境やマネジメント手法を導入することで、企業は彼らの持つ潜在的な能力を最大限に引き出すことができるとされています。ここで取り上げられている「Z人間」の特徴を、さらに掘り下げ、また、どうしていくべきなのかを考察してみます。

Z人間の主な特徴

 Z人間の特徴は、従来の世代とは異なる独特な思考パターンや行動傾向に見られます。これらの特徴を理解することで、企業はZ人間が持つ能力を最大限に引き出し、効果的に活用できる可能性が高まります。

タイムパフォーマンス重視
 
Z人間は、時間を非常に貴重なリソースと考え、時間内にどれだけの情報を得ることができるか、またはどれだけの価値を生み出せるかを重視します。彼らにとっては、成果を出すことよりも時間を効率的に使うことが重要であり、短期間で最大の効果を上げることを目指す傾向があります。
 例えば、ビジネスにおいては、彼らは迅速な意思決定や即効性のあるアプローチを好むため、タスクが具体的かつ短期的であることが彼らのパフォーマンス向上に繋がります。
 また、Z人間は情報収集の速度にもこだわりを持ち、リアルタイムでの情報更新や迅速なフィードバックを求めることが多いです。そのため、企業側は、プロジェクトの進捗状況を定期的かつリアルタイムで共有し、迅速な対応ができる体制を整えることで、Z人間の生産性を高めることができます。このように、Z人間の時間意識を理解し、効果的なマネジメントを行うことで、より良い成果を期待することができます。

「実」を重視する傾向
 Z人間は、名誉や肩書きよりも、実際の成果や結果に基づく評価を重要視する傾向があります。彼らは、空虚な評価や形式的な褒賞には価値を見出さず、具体的な成果や事実に基づくアプローチを好みます。このような実を重視する姿勢は、採用活動においても顕著であり、企業が自社の魅力を過剰にアピールすると、逆にその誠実さに疑念を抱かれることさえあります。Z人間は情報収集能力に優れ、自ら積極的に必要な情報を探し出し、評価の信頼性を独自に確認することができます。そのため、企業は透明性の高い情報提供を行い、具体的な実績や評価基準を示すことで、Z人間の信頼を獲得することができるようになります。また、彼らは自分の能力や成果が公正に評価されることを強く望んでおり、そうした環境を提供することで、Z人間のモチベーションを高めることができます。

多様性の重視
 Z人間は、他者との違いを積極的に受け入れ、個々の多様性を尊重する姿勢を持っています。これは、彼らが成長してきた社会環境が、多様性やインクルージョンの重要性を重視してきたことに大きく影響されています。Z人間は、自分自身の個性を大切にし、他者と異なる価値観や文化を持つことを重要視しています。
 例えば、チームワークにおいても、彼らは異なる意見や視点を持つ人々と協力することに価値を見出し、それによって新しいアイデアやイノベーションが生まれることを期待します。このような多様性を重視する傾向は、企業が柔軟な働き方を導入する際にも有効であり、Z人間にとって働きやすい職場環境を提供することが求められます。具体的には、リモートワークの導入やフレックスタイム制度の活用など、個々のニーズに合わせた働き方が必要です。

権威主義を嫌う
 Z人間は、従来の権威や上下関係に対する抵抗感が強く、上司や年長者からの一方的な指示には従わない傾向があります。彼らは、自分が納得できるかどうかを重視し、論理的な説明や合理的な根拠がある場合にのみ、行動を起こす傾向があります。このような姿勢は一見「頑固」と受け取られがちですが、実際には自身の価値観や考えに忠実であるということを示しています。Z人間に対する効果的なマネジメントは、指示をする際にその理由や背景を丁寧に説明し、彼らが納得できるようなプロセスを提供することが重要です。そうすることで、Z人間は自発的に行動し、より良い成果を上げることができます。

ライフ・ワーク・セパレーション
 Z人間にとって、仕事と生活は切り離されたものであり、従来の「ワークライフバランス」とは異なる「ライフ・ワーク・セパレーション」を重視しています。仕事の達成感やキャリアアップよりも、生活全体の質を向上させることに重きを置いています。具体的には、自分の好きなことや興味のあることに集中し、それが生活の満足度に直結するという考え方です。企業がZ人間にとって魅力的な職場環境を提供するためには、柔軟な働き方やテレワークの導入、さらには自己成長を支援するようなプログラムを導入することが求められます。こうした取り組みによって、Z人間は仕事と生活のバランスを取りながら、効果的にパフォーマンスを発揮することができるようになります。

Z人間の育成方法

 Z人間を効果的に育成するためには、従来のような「動機づける」アプローチではなく、「動機づく場を作る」ことが基本となります。これは、彼らが自主的に学び、成長できる環境を整えることを意味します。Z人間は、意味のある仕事や興味を持てるプロジェクトに対しては高いモチベーションを持ち、自発的に取り組む傾向があります。そのため、企業はZ人間が興味を持つようなプロジェクトやタスクを提供し、自由な発想や創造性を引き出す場を作ることが重要です。また、彼らにとって意味のあるフィードバックや評価を行い、納得感を伴った指導を行うことも効果的です。

人事の視点から考えること:Z人間の活用

 Z人間を効果的に企業で活躍させるためには、どうすれば良いのでしょうか。Z人間はこれまでの世代とは異なる価値観や思考、行動様式を持っており、それに対応するためには採用活動から育成、評価、働き方に至るまでのすべてのプロセスを見直し、再設計する必要があります。以下では、人事の視点から、Z人間を活用するために考慮すべき具体的なアプローチを考察してみます。

1. 採用戦略の再設計

 Z人間の特性に合致した採用戦略を構築するためには、従来の採用手法やプロセスにとどまらず、彼らの価値観やニーズに応じた革新的なアプローチが必要です。具体的には、Z世代が重視する「仕事の意義」や「自分の価値観に合う業務内容」を伝えることが重要です。

  • 職務内容の透明性と具体性の向上
     Z人間は仕事の具体的な内容や職務における意義を重要視するため、企業側が提供する情報の透明性を高め、実際の業務内容を具体的に伝える必要があります。
     例えば、単に「安定した企業」という説明ではなく、「業務を通じて社会にどのような影響を与え、どのような価値を生み出すのか」といった具体的な説明が求められます。Z世代は、自己の価値観に合致する仕事を選びたいという意向が強いため、企業側も、職務の意義や社会的な貢献度を詳細に説明し、彼らがその役割に対して納得感を持てるような情報提供が必要です。
     また、採用面接では、実際の仕事内容に加えて、プロジェクトの具体的な事例や達成できる目標などを詳しく説明することで、Z人間にとっての理解を深め、興味を引き出すことが期待されます。

  • 採用プロセスのデジタル化とインタラクティブな体験の導入
     Z人間はデジタルネイティブであり、採用プロセスにおいてもデジタル技術を駆使することを期待しているかも知れません。VR(バーチャルリアリティ)を用いた職場体験やオンラインでのインターンシップなど、新たな体験を提供することで、彼らの関心を引きつけることが可能です。また、インタラクティブな形式を取り入れることで、応募者が企業文化や職場環境をよりリアルに体感できるようになり、彼らが入社後の仕事をイメージしやすくなるという効果も期待できます。

2. 育成とキャリア支援の再構築

 Z人間の育成においては、従来の「一律的な研修プログラム」を見直し、彼らが「自発的に成長できる」環境を整備することが最も重要です。人事部門は、Z人間の価値観や成長欲求に対応するような育成支援を提供する必要があります。

  • パーソナライズされた育成プログラムの提供
     Z人間は個々のニーズが異なるため、全員に一律の研修プログラムを提供するのではなく、個々の社員が自身の興味やキャリア目標に基づいて成長できるようなパーソナライズされた育成プランを設計することが求められます。具体的には、彼らの得意分野や興味に基づくスキル開発プランを導入し、個別のキャリアコーチングやメンタリングプログラムを提供することで、Z人間の主体性を尊重した育成支援を行います。
     また、彼らが自主的に学べるオンラインラーニングプラットフォームの導入や、外部セミナーの受講支援なども効果的です。Z人間は、興味が持てる分野に関しては深い探求心を持つ傾向があるため、彼らの興味を引き出し、成長の意欲を高めるような柔軟なプログラムの提供が鍵となります。

  • キャリアパスの多様化と横断的なキャリア形成の支援:
     Z人間は縦のキャリアアップだけではなく、「自分が興味を持つ分野での承認」を重視します。これに対応するために、単に管理職への昇進を目指すだけでなく、専門職としてのキャリアパスや、新たな分野への横断的なキャリア形成を支援する必要があります。
     具体的な施策としては、社内の異動機会の提供や、プロジェクトベースでの多様な業務経験の提供が挙げられます。これにより、Z人間が自らの興味に基づいてキャリアを選択し、専門性を高めることができるような環境を整えることが期待されます。

3. 公平で納得感のある評価システムの導入

 Z人間は、形式的な評価よりも「具体的な成果」や「公正な評価」を重視します。彼らは曖昧な評価基準に対して強い不信感を抱くため、透明性のある評価制度を導入することが不可欠です。

  • 成果主義とプロセス評価のバランスの最適化
     Z人間の評価においては、単に成果主義に偏るのではなく、業務に至るまでのプロセスや、仕事に対する納得感や取り組み姿勢も評価することが必要です。
     具体的には、成果だけでなく、目標達成に向けた努力やクリエイティブなアプローチを評価に含めることで、Z人間のモチベーションを高めることができます。彼らは、「自分がどれだけの成果を上げたか」だけでなく、「その成果を上げるためにどれだけ努力し、工夫したか」という過程を評価されることで、自分の努力が認められたと感じやすくなります。

  • フィードバックの質と頻度の向上
     Z人間はリアルタイムでのフィードバックを重視し、年1回や半期に1回の評価ではなく、プロジェクトやタスクごとにこまめなフィードバックを求める傾向があります。
     四半期ごとの目標管理やプロジェクトごとの進捗評価を行い、具体的かつ建設的なフィードバックを提供することが求められます。フィードバックの内容についても、具体的な改善点や今後の期待を含む形で行うことで、彼らが次の行動に移りやすくなり、成長意欲を持続させることが可能です。

4. 柔軟な働き方の導入と支援

 Z人間は「ライフ・ワーク・セパレーション」を重視し、仕事と生活の区別を明確にすることを望みます。そのため、彼らのニーズに応じた柔軟な働き方を導入することが、Z世代のエンゲージメント向上に繋がります。

  • リモートワーク、フレックスタイム、ハイブリッドワークの導入
     Z人間は働く場所や時間の柔軟性を求めており、これに応じてリモートワークやフレックスタイム制度、さらにはハイブリッドワークの導入を検討する必要があります。Z人間は、自分のペースで働ける環境が整えば、より高い生産性を発揮することができるため、企業は働き方の自由度を高めることが求められます。これにより、Z人間は生活全体の質を維持しながら、仕事に対するパフォーマンスを最大限に引き出すことが可能となります。

  • パフォーマンス重視の働き方の促進
     Z人間は成果に基づいた評価を好むため、働く時間やプロセスに対する細かい管理ではなく、達成した成果に焦点を当てた評価制度が効果的です。彼らに対しては、目標達成度や成果物の質を重視した評価を行うことで、仕事への納得感を得やすくなり、より高いモチベーションで取り組むことが期待されます。

5. 組織文化とマネジメントの見直し

 Z人間が納得感を持って働ける組織文化を築くことは、単なる人事施策にとどまらず、企業全体の成長に繋がります。

  • オープンでフラットな組織構造の推進
     Z人間は、従来の階層的な組織構造に対する抵抗感が強く、よりオープンでフラットな組織構造を好みます。彼らが自由に意見を言える環境を整えることで、納得感を持って仕事に取り組むことが可能となり、より高いエンゲージメントが期待できます。

  • 多様性とインクルージョンの推進
     Z人間は、多様性とインクルージョンを重視するため、企業文化としてこれを積極的に推進することが重要です。多様な背景や価値観を持つ人々が活躍できる職場環境を整備することで、Z人間にとって魅力的な企業文化を築くことが可能となり、結果的に企業全体のイノベーション促進にも寄与します。

 このように、Z人間の特性に合わせた人事施策を導入することで、企業の成長と競争力強化に寄与することができます。Z人間の特性を理解し、適切な施策を実行することが、潜在能力を引き出し、組織全体の持続的な発展に繋がるでしょう。

Z人間が働く柔軟な職場環境です。デジタルデバイスを使ってチームワークに取り組んでいる様子が、効率性やオープンなコミュニケーションを象徴しています。透明なボードには情報が共有されており、ライフ・ワーク・セパレーションが意識された働き方も感じられます。温かみのある色合いが、Z人間の価値観や仕事の実践をより親しみやすく表現しています。



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