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強制労働を防ぐための新たな取り組み(RBA行動規範v8.0より)

 レスポンシブル・ビジネス・アライアンス(RBA)行動規範の旧バージョン(v7.0)のセクションAの項目名は「A1. 自由な雇用選択」でしたが、最新バージョン(v8.0)では「A1. 強制労働の禁止」に変わっています。この変更は、単なる名称変更以上の重要な意味を持つと考えられます。両行動規範を参照しながら、考察してみたいと思います。


旧バージョン(v7.0)における「自由な雇用選択」

 旧バージョン(v7.0)における「自由な雇用選択」は、主に労働者が自らの意思で雇用関係を結ぶ、または終了する権利を保護することに重点を置いていました。これは、国際労働機関(ILO)の「強制労働に関する条約(第29号および第105号)」の精神にも合致するものです。しかし、その範囲は比較的限定的でした。

1)雇用の自由選択(V7)
強制、拘束(債務による拘束を含む)または拘留労働、非自発的または搾取的囚人労働、奴隷労働または人身売買は認められません。これには、労働またはサービスのために脅迫、強制、強要、拉致または詐欺によって人を移送、隠匿、採用、移動すること、またはその受け入れを含みます。会社が提供する施設(該当する施設には、労働者の寮や住居を含みます)への出入りに不合理な制約を与えたり、施設における労働者の自由な移動に不合理な制約を課したりしてはなりません。雇用プロセスの一環として、すべての労働者に雇用条件を含む母国語で記述された雇用契約書が提供されなければなりません。外国人移民労働者は、労働者が母国を離れる前に雇用契約書を必ず受け取り、受け入れ国に到着した時点での雇用契約の代替や変更は、現地法を満たすため、かつ元の契約の同等以上の条件を提供する変更以外は認められません。すべての労働は自発的でなくてはならず、労働者が契約通りに妥当な通知を行っている場合、労働者は違約金の支払いや罰を受けることなく、仕事を休んだり雇用関係を終了したりする自由があります。雇用者、人材斡旋業者、およびその委託先業者は、政府発行の身分証明書、パスポートまたは労働許可証など、身分証明書または移民関連文書を保持したり、それらを破棄、隠匿、没収したりしてはなりません。雇用者は、これらの保持が法律で定められている場合にのみ文書を保持することができます。そのような場合も、労働者が常にそれらの文書の取り扱いが可能であるようにしなければなりません。雇用者の人材斡旋業者またはその委託先業者の就職斡旋手数料、または雇用に関わるその他の手数料について、労働者がそれらを支払う必要があってはなりません。労働者がこうした雇用に関連する費用を支払ったことが判明した場合は、その費用は当該労働者に返金されなければなりません。

『RBA行動規範7.0』より引用

最新バージョン(v8.0)における「強制労働の禁止」

 一方、最新バージョン(v8.0)における「強制労働の禁止」は、より広範な強制労働の形態を網羅しています。具体的には、「拘束または拘留労働、非自発的または搾取的囚人労働、奴隷または人身売買」などを明示的に禁止しています。これは、現代のサプライチェーンにおける複雑な労働問題に対応するための強化と言えるでしょう。

1)強制労働の禁止
拘束(債務による拘束を含む)または拘留労働、非自発的または搾取的囚人労働、奴隷または人身売買を含むがこれに限定されない、あらゆる形態の強制的な労働は認められていません。これには、労働またはサービスのために脅迫、強制、強要、拉致、または詐欺によって人を移送、隠匿、採用、移動、または受け入れることも含まれます。会社が提供した施設(該当する場合、労働者の寮や住居)への出入りに不合理な制約を与えたり、施設内における労働者の移動の自由に不合理な制約を課したりしてはなりません。雇用プロセスの一環として、すべての労働者には、母国語または労働者が理解できる言語で、雇用条件を記載した書面による雇用契約書を提供しなければなりません。外国人移民労働者は、労働者が出身国を出発する前に雇用契約書を受け取らなければならず、受入国に到着後、現地の法律を満たし、同等またはより良い条件を提供するために変更される場合を除き、雇用契約書の差し替えまたは変更は認められないものとします。すべての労働は自発的なものでなくてはなりません。また、労働者は、合理的な通告がなされれば、違約金なしにいつでも自由に離職し、または雇用を終了することができるものとし、その旨は雇用契約に明記されなければなりません。参加企業は、退職するすべての労働者に関する書類を保持しなければなりません。雇用者、人材斡旋会社、およびその委託先は、政府発行の身分証明書、パスポート、または労働許可証など、身分証明書または出入国管理書類を保持したり、または破棄、隠匿、没収したりしてはなりません。上記にかかわらず、雇用者が文書を保持できるのは、現地法令を遵守するために必要な場合に限られます。そのような場合、労働者は、これらの文書へのアクセスを拒否されることはないものとします。労働者は、雇用者の人材斡旋会社またはその委託先に就職斡旋手数料または雇用に関わるその他手数料を支払う必要はないものとします。労働者がこうした手数料を支払ったことが判明した場合は、その手数料は当該労働者に返金されるものとします。

『RBA行動規範8.0』より引用

 以下に、それぞれの違いについて、考察してみます。

名称と着眼点

 V7:雇用の自由選択は、その名称からもわかるように、雇用の選択の自由を強調しており、労働者が自身の意思で職を選び、自由にその雇用関係を終了できる権利に重点を置いています。このガイドラインは、労働者が脅迫や強制、詐欺などの手段で雇用されることがないようにすることを目的としています。また、労働者が雇用条件について十分に理解し、納得した上で労働契約を結ぶことを推奨しています。

 V8:強制労働の禁止は、名称が示す通り、強制労働の防止に特化しており、あらゆる形態の強制労働を禁止しています。この文書は、特に強制労働に関連する行為を詳細に列挙し、これらの行為がいかに労働者の基本的な人権を侵害するかを強調しています。V8は、労働者が強制的な手段によって労働を強いられることがないようにすることを主眼としています。

内容の詳細度

 V7:雇用の自由選択は、雇用の自由選択に関する具体的な指示や条件が非常に詳細に記載されています。例えば、雇用契約書の提供時期や内容についても具体的な規定があり、外国人移民労働者に対しては、母国を離れる前に雇用契約書を受け取る必要があること、また、受け入れ国に到着後に契約の内容を変更する場合は、現地法に準拠し、元の契約の条件と同等以上である必要があることが明記されています。また、労働者が自由に職を辞めたり、休んだりできる権利についても詳細に述べられています。

 V8:強制労働の禁止は、基本的な強制労働の禁止に関する条項が中心であり、詳細な指示は少なく、主に禁止事項を列挙する形となっています。例えば、債務による拘束や非自発的な囚人労働、奴隷労働などの具体的な形態が列挙されており、これらの行為がいかに違法であるかを強調しています。また、労働者が自由に移動できる権利や、雇用者が労働者の身分証明書を保持することの禁止についても簡潔に述べられています。

文書の目的

 V7:雇用の自由選択は、労働者の権利を包括的に保護することを目的としており、特に雇用プロセス全体における自由と公平性を強調しています。労働者が自身の意思で自由に職を選び、その雇用条件について十分に理解し、納得した上で労働契約を結ぶことができるようにすることを主眼としています。また、雇用者に対しては、労働者の自由な移動を制約しないよう求めています。さらに、雇用者が労働者に対して就職斡旋手数料やその他の手数料を要求しないことも規定しています。

 V8:強制労働の禁止は、特に強制労働に焦点を当て、それを防止するための具体的な禁止事項を明確にすることを目的としています。あらゆる形態の強制労働を禁止することにより、労働者の基本的人権を守ることを主眼としています。この文書は、労働者が強制的な手段によって労働を強いられることがないようにするために、雇用者に対して具体的な禁止事項を示しています。

具体的な規定

 V7:雇用の自由選択では、労働者が自由に雇用を選択できる権利や、雇用契約書が母国語で提供されるべきこと、また労働者の自由な移動に対する不合理な制約の禁止などが詳細に規定されています。例えば、外国人移民労働者に対しては、母国を離れる前に雇用契約書を受け取る必要があること、受け入れ国に到着後に契約の内容を変更する場合は、現地法に準拠し、元の契約の条件と同等以上である必要があることが明記されています。また、労働者が自由に職を辞めたり、休んだりできる権利についても詳細に述べられています。さらに、雇用者が労働者の身分証明書を保持することの禁止や、労働者が就職斡旋手数料を支払う必要がないことも規定されています。

 V8:強制労働の禁止では、主に強制労働の形態を禁止する内容に焦点を当てており、具体的な禁止事項を簡潔に述べています。例えば、債務による拘束や非自発的な囚人労働、奴隷労働などの具体的な形態が列挙されており、これらの行為がいかに違法であるかを強調しています。また、労働者が自由に移動できる権利や、雇用者が労働者の身分証明書を保持することの禁止についても簡潔に述べられています。さらに、労働者が合理的な通告を行った場合、違約金なしに職を辞めることができることも明記されています。

 これらの違いにより、V7:雇用の自由選択はより包括的で詳細なガイドラインを提供し、労働者の権利を広範囲にわたって保護することを目的としています。一方、V8:強制労働の禁止は、強制労働の防止に特化し、具体的な禁止事項を明確にすることで、労働者の基本的人権を守ることを主眼としています。

 この変更は、RBAが強制労働の問題に対して、より積極的に取り組む姿勢を示しているといえます。企業は、この変更点を理解し、自社の労働慣行がRBAの基準に適合しているかを確認する必要があります。特に、採用や雇用に関わる手数料、労働者の身分証明書の管理、時間外労働の管理など、強制労働に繋がりやすい慣行については、より注意が必要といえるでしょう。


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