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リスキリング成功の秘訣:率先的に行動するスキルとその育成法 ー川上真史氏より

 川上真史ビジネス・ブレークスルー大学教授の「リスキリングに必要な10のスキル 8」は、「率先的に行動するスキル」です。

 リスキリングの重要性が叫ばれる現代社会において、「率先的に行動するスキル」はこのスキルは、単に指示を待って行動するのではなく、自ら考え、判断し、行動を起こす能力を指します。そして、この能力を育成し発揮するためには、「エンゲージメント」という概念が極めて重要な役割を果たします。

「欠乏動機」の終焉

 従来、人々の行動を動機づける主要な要因として「欠乏動機」が重視されてきました。これは一般的に「ハングリー精神」とも呼ばれ、何か欲しいものがあるにもかかわらず、それがまだ手に入っていない状態で、その獲得のために努力し続ける原動力となるものです。
 例えば、高い年収や社会的地位といった目標を掲げ、それを達成するために懸命に働くというパターンがこれに当たります。
 しかし、現代社会では多くの人々の基本的な欲求が満たされつつあり、単純な欠乏動機だけでは十分な動機づけにならなくなってきています。つまり、「もっと稼ぎたい」「もっと偉くなりたい」といった欲求だけでは、持続的な動機づけとして機能しづらくなっているのです。

「エンゲージメント」の登場

 そこで注目されているのが「エンゲージメント」という概念です。エンゲージメントとは、仕事に内的報酬を強く感じながら、その仕事にのめり込んでいる状態を指します。ここで言う内的報酬とは、やりがい、興味深さ、成長実感、仕事における人間関係の面白さなど、仕事を通じて得られる精神的な報酬のことです。これは、給与や昇進などの外的報酬とは異なり、仕事そのものから得られる満足感を意味します。
 例えば、難しい問題を解決したときの達成感、新しいスキルを習得できたときの成長の実感、チームで協力して大きなプロジェクトを成功させたときの充実感などが、これに該当します。

 エンゲージメントの高い状態には、いくつかの顕著なメリットがあります。まず、高い成果を自主的に生み出そうとする意欲が向上します。興味関心を持ってのめり込んでいる仕事では、自然と高い成果を出したいという意欲が湧いてきます。例えば、自分の専門分野で新しい技術や手法を開発したり、顧客満足度を向上させるための革新的なアイデアを提案したりするようになります。

 また、記憶力が大幅に増進することも特筆すべき点です。興味のある分野の情報は、通常の3倍から5倍ほど記憶力が高まるとされています。これは、脳が興味のある情報をより積極的に処理し、長期記憶に保存しようとするためです。例えば、趣味の分野の情報を覚えるのが簡単だと感じた経験がある人も多いでしょう。同じことが仕事にも当てはまり、エンゲージメントの高い仕事では、関連する情報や知識の吸収が格段に早くなります。

 さらに、ストレス的な問題が減少または解消されます。エンゲージしている仕事では、精神的なストレスがほとんど感じられなくなります。これは、仕事そのものが楽しく、やりがいを感じているため、困難な状況に直面してもそれを「チャレンジ」として前向きに捉えられるようになるからです。ただし、身体的な疲労は蓄積する可能性があるので、適切な休息を取ることも重要です。

 最後に、対人関係の促進と信頼感の向上が挙げられます。エンゲージしている人は、周囲の人々からも好意的に見られ、信頼関係を築きやすくなります。これは、エンゲージしている人が仕事に対して前向きで熱心な態度を示すため、周囲の人々もその姿勢に引き込まれ、協力的になりやすいからです。また、自分の仕事に深い理解と愛着を持っているため、顧客や取引先とのコミュニケーションもスムーズになり、信頼関係が構築しやすくなります。

エンゲージメントレベルを高めるためには

 エンゲージメントのレベルを高めるためには、主に二つの方法があります。一つ目は「調べ発見する」ことです。仕事に関することを自分で調べ、新しい発見をすることで、その分野への興味関心が高まります。例えば、自分の業界の最新トレンドを調査したり、関連する新技術について学んだりすることが挙げられます。こうした自主的な学習は、仕事に対する理解を深めるだけでなく、新たな可能性や改善点を見出すきっかけにもなります。

 二つ目は「ジョブ・クラフティング」です。これは、興味が薄い仕事であっても、自分で考えたやり方や強みを組み込んで再設計することで、その仕事を興味深いものに変えていく方法です。例えば、単調な事務作業であっても、効率化のための新しいシステムを考案したり、データ分析の要素を取り入れたりすることで、より挑戦的で興味深い仕事に変えることができます。

 ジョブ・クラフティングには、いくつかの種類があります。まず、仕事のプロセスの中に自分なりのやり方で強みとなることを組み込むことができます。例えば、コミュニケーション能力が高い人なら、チーム内の情報共有の仕組みを改善したり、顧客との対話の機会を増やしたりすることが考えられます。

 次に、自分で仕事上の新たな関係を構築し、その関係を使って仕事をすることも効果的です。例えば、他部署や他社の専門家とのネットワークを構築し、そこから得られる知見や協力を自分の仕事に活かすことができます。

 また、仕事上の課題や問題を自分で発見し、その解決に取り組むことも重要です。これは、単に与えられた仕事をこなすだけでなく、現状の問題点や改善の余地を自ら見つけ出し、解決策を提案・実行することを意味します。例えば、業務プロセスの非効率な部分を特定し、それを改善するための新しい方法を考案・導入することが挙げられます。

 最後に、その仕事を行う意義や意味を自分で発見し、その達成に取り組むことで、仕事への愛着が深まります。例えば、自分の仕事が顧客や社会にどのような価値をもたらしているのかを深く考え、その価値を最大化するための方法を探ることが考えられます。

 これらの方法を実践することで、仕事に対するエンゲージメントを高め、率先的に行動するスキルを身につけることができます。重要なのは、単に与えられた仕事をこなすだけでなく、自ら工夫し、意味を見出し、積極的に取り組む姿勢を持つことです。そうすることで、仕事の質が向上するだけでなく、個人の成長や満足度も高まり、結果として組織全体のパフォーマンス向上にもつながります。

 例えば、営業職の人が自社製品の技術的な側面にも興味を持ち、開発部門と積極的に情報交換を行うことで、顧客のニーズにより適した提案ができるようになるかもしれません。
 また、製造ラインの作業者が効率化のためのアイデアを積極的に提案し、実施することで、生産性の向上に貢献できるかもしれません。
 このように、どのような職種や立場であっても、エンゲージメントを高め、率先的に行動することで、個人と組織の両方に大きな価値をもたらすことができるのです。

 リスキリングの時代において、この「率先的に行動するスキル」は、変化の激しい環境に適応し、常に新しい課題に挑戦していくために不可欠なスキルと言えるでしょう。技術の進歩や市場の変化が急速に進む現代では、与えられた仕事をこなすだけでは不十分です。自ら学び、変化し、新しい価値を創造していく姿勢が求められています。

 そのためには、定期的に自己の振り返りを行い、自身のエンゲージメントレベルを確認し、それを高めるための具体的な行動を起こすことが重要です。例えば、週に一度、自分の仕事に対する興味や熱意のレベルを評価し、それが低い場合は何が原因なのか、どうすれば改善できるかを考えるといった習慣をつけることが有効でしょう。また、常に新しい知識やスキルの習得に努め、自分の仕事にどのように活かせるかを考えることも大切です。

 さらに、組織としても、従業員のエンゲージメントを高める環境づくりが重要です。例えば、従業員の自主的な学習や改善提案を奨励する制度を設けたり、異なる部署間の交流を促進したりすることで、従業員が新しいアイデアや視点を得やすい環境を整えることができます。また、各従業員の強みを活かせるような柔軟な仕事の割り当てや、自己成長の機会を提供することも効果的でしょう。

 「率先的に行動するスキル」は、単なるスキルの一つではなく、変化の激しい現代社会で成功するための核心的な能力です。このスキルを身につけ、磨いていくことは、個人のキャリア発展だけでなく、組織の競争力向上、さらには社会全体の発展にも寄与する重要な取り組みなのです。自身のエンゲージメントレベルを常に意識し、それを高めるための努力を継続することが、これからのキャリア形成において不可欠な要素となるでしょう。

「率先的に行動するスキル」をテーマにしています。自信に満ちたビジネスマンが、会議室でエンゲージメントやリスキリングについて熱心にプレゼンテーションしており、聴衆も興味深く彼の話を聞いています。背景には明るいオフィスの風景が広がり、他の社員たちも積極的に仕事に取り組んでいる様子が描かれています。率先して行動することの重要性と、エンゲージメントの高い仕事の雰囲気が視覚的に表現されています。

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