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【書籍】シンFIRE論:経済と精神の自由を手に入れる主体的思考を考えるー穂高唯希氏

 穂高唯希著『経済・精神の自由を手に入れる主体的思考法 #シンFIRE論 』(KADOKAWA、2023年)を拝読しました。

 本書は、穂高唯希氏による、人生における自由と自己決定権をテーマにした一冊です。著者自身が14歳から金融の世界に足を踏み入れ、その後、FIRE(Financial Independence, Retire Early)という概念を実現し、30歳で経済的な自由を達成するまでの実体験と、その過程で得た知識や哲学を豊富に盛り込んだ内容となっています。
 穂高氏の生き方や思考法は、単なる経済的成功を超え、精神的な豊かさや自由を追求するものであり、それが「#シンFIRE論」として提唱されています。

 私は人事の立場として、FIREというのがどうなのか、というところもありますが、逆にいろいろ考える上において避けるできない1つであると思います。考え方を読み解き、人事の立場としての方向性を検討したいと思います。

1.FIREの概念とその本質

 FIREは、近年注目を集めていますが、穂高氏が提唱するFIREは、単に早期退職を目指すものではなく、経済的な自立と精神的な自由をも同時に手に入れるという、より深い意味合いを持っています。経済的な自立とは、株式投資や配当金を通じて働かなくても収入を得られる状態を指します。

 しかし、FIREの本質は単なる経済的な独立にとどまらず、精神的な自由、すなわち他人の意見や社会の圧力に縛られず、自分の価値観や判断基準に基づいて人生を選び取る力を持つことにあります。穂高氏は、30歳でFIREを達成するために、給与の80%を投資に回し、無駄な支出を徹底的に削減するという戦略を採りました。これは、節約や倹約とは異なり、自己の価値観に基づいて支出を最適化するという考え方です。

 穂高氏はまた、日常生活の中で見過ごされがちなリソースにも目を向けることを勧めており、例えば「階段は資源」として、階段を活用することで身体を鍛え、健康を維持しつつ、医療費の節約にもつなげるというアイデアを提唱しています。

2.主体的な思考法と情報への向き合い方

 本書全体を通して一貫して強調されているのは、現代社会において主体的な思考法を持つことの重要性です。穂高氏は、私たちが生きる現代社会が情報の洪水にさらされていることを強調しています。SNSやインターネット、テレビ、新聞など、さまざまなメディアが日々膨大な量の情報を発信し、その中には誤った情報や偏った意見も少なくありません。こうした状況の中で、私たちは無意識のうちに他人の意見や流行に流され、自分自身の判断基準を見失いがちです。
 
 穂高氏は、このような現代社会の「ノイズ」に惑わされず、情報を取捨選択し、自分自身の判断基準に基づいて行動することの重要性を説いています。そのためには、情報を鵜呑みにするのではなく、「なぜこの情報が発信されているのか」、「その背景にはどのような意図があるのか」といった疑問を持つことが必要です。この「静観力」を養うことで、他人の意見や社会の圧力に影響されることなく、自分自身の信念に基づいて意思決定を行うことができるようになります。

3.自由への渇望とその実現のための投資戦略

 穂高氏は、この書籍の中で繰り返し「自由」への渇望について述べています。ここでいう自由とは、経済的な自由と精神的な自由の両方を指しており、この二つを同時に手に入れることが著者の目指すFIREの本質です。経済的な自由を実現するためには、綿密な投資戦略が必要であり、著者は自身の経験から、高配当株や連続増配株への投資を推奨しています。これらの株式は、安定した配当金を得ることで日常生活に喜びや安心感をもたらし、長期的には経済的な安定を築くことが可能です。

 また、穂高氏は投資を行う際には、常に市場の動向を冷静に観察し、自分の感覚を信じて行動することが重要であると強調しています。例えば、2021年の米国株の高騰時には多くの投資家が市場の高揚感に飲まれがちでしたが、穂高氏は冷静に状況を分析し、適切なタイミングで利益を確定するなど、自身の投資哲学を貫いています。このように、著者の投資戦略は単なる短期的な利益を追求するものではなく、長期的な経済的自由を目指すための確固たる信念に基づいたものであり、読者にとっても大いに参考となるでしょう。

4.人生の目標設定と逆算思考

 「人生において何を成し遂げたいのか」、その目標を明確にすることが自由な生き方を実現するための重要なステップです。穂高氏は、目標を設定し、その目標を達成するために「逆算思考」を用いることの有効性を強調しています。逆算思考とは、最終的な目標から逆算して現在の行動を計画する思考法であり、これにより無駄を省き、効率的に目標に向かって進むことが可能になります。

 穂高氏はまた、日常生活における小さな決断においても「意志力の最適化」を図ることが重要であると述べています。日々の些細な決断にエネルギーを消耗することなく、重要な決断に集中するための工夫が必要です。例えば、スティーブ・ジョブズが毎日同じ服を着ていたのは、決断疲れを減らし、重要な決断に集中するための一つの方法であり、穂高氏もこの考え方を取り入れて、日々の生活におけるストレスを軽減する工夫をしています。このように、人生の目標設定とそれに向けた計画的な行動が、自由な生き方を実現するための鍵となります。

5.情報との付き合い方と主体的な情報収集

 現代社会において、情報の洪水に飲まれないためには、情報との付き合い方を見直す必要があります。穂高氏は、SNSやインターネット、テレビといったメディアが私たちの生活に深く浸透している現代において、情報を主体的に「取りに行く」姿勢が重要であると述べています。具体的には、SNSやテレビの情報をそのまま受け取るのではなく、信頼できる情報源を選び、自分にとって本当に価値のある情報だけを取り入れるよう心がけることが求められます。穂高氏は、情報を効率的に収集し、自分の考え方を深めるための方法として、読書を推奨しています。読書は、SNSやテレビと異なり、流れてくる情報を受け取るだけではなく、目的意識を持って自らの興味に基づいて情報を選び取る行為であり、これによって情報を体系的に理解し、自分自身の思考を深めることが可能です。

 また、穂高氏は「自分リスト」を作成することの重要性を説いており、自分が本当に興味を持つテーマや分野を明確にすることで、無駄な情報に振り回されることなく、必要な情報だけを効率的に取得することができるとしています。こうした情報との付き合い方を実践することで、現代社会において他人に流されることなく、自分自身の基準に基づいた行動を取ることができるようになります。


6.社会と情報の本質を見抜くための視点

 現代社会においては、価格構造や収益構造を理解することが、情報の本質を見抜くための鍵となります。穂高氏は、資本主義社会において企業がどのようにして利益を上げているのか、その背後にあるメカニズムを理解することが、情報の裏側に隠された意図を見抜くために不可欠であると述べています。
 例えば、生命保険の価格構造を理解することで、どの部分にコストがかかっているのかを知り、それによってより賢明な選択をすることができます。また、テレビ局の収益構造を知ることで、スポンサーの意向が番組内容にどのような影響を与えているのかを理解し、報道の偏りや意図を見抜くことが可能になります。穂高氏は、このような視点を持つことで、現代社会において他人に流されることなく、主体的に情報を取捨選択する能力を養うことができると強調しています。

 さらに穂高氏は、情報を受け取る際には、常にその背景にある「カラクリ」を見ることが重要であり、それによって情報の本質を見極める力が養われると述べています。このように、社会や情報に対する深い洞察力を持つことで、現代社会においてより主体的に行動することができるようになります。

「単にFIREをする」いうことを超えた深い意味を与える

 本書は、単にFIREを達成するための方法論を述べるにとどまらず、現代社会における情報との向き合い方や、自由な人生を追求するための具体的な思考法を学ぶための貴重なガイドブックです。
 穂高氏が提唱する「#シンFIRE論」は、経済的な自由を追求するだけでなく、精神的な豊かさや自由をも実現するための実践的なアプローチであり、その内容は多くの読者にとって非常に有益なものとなるでしょう。
 本書を通じて、情報の洪水に流されることなく、自分自身の人生をより主体的に切り拓くための具体的な方法を学び、実践することができるでしょう。本書は、現代社会における自由と自己決定権の重要性を再認識させてくれるとともに、その実現のための具体的な手法を提供してくれる一冊です。

人事の視点でも考えるところがある

 本書を人事の視点から考察すると、いくつかの重要なポイントが浮かび上がります。考察してみます。

1.主体的なキャリア開発の重要性

 本書で強調されている「主体的な思考法」は、社員一人ひとりが自らのキャリアを主体的に設計し、実行することの重要性を示しています。企業の人事部門にとって、社員が自らのキャリアについて深く考え、積極的に行動できる環境を整えることが重要です。これには、キャリアパスの多様化や柔軟な労働環境の提供、またはキャリアカウンセリングの実施などが含まれます。主体的にキャリアを選択する社員は、自己成長に対する意欲が高く、結果的に企業にとっても高い付加価値をもたらします。

2.経済的自由と労働環境

 FIREの概念は、社員が経済的自由を追求し、早期退職を目指す動きが企業内で増加する可能性を示唆しています。人事部門は、このようなトレンドに対して一定の反応をする必要があるでしょう。
 具体的には、福利厚生の強化や社員のライフステージに応じた柔軟な働き方の提供、さらには社員が長期的に企業に貢献できるような報酬制度の見直しが求められます。
 また、FIREを達成したとしても、個人のスキルや経験を活かして企業内で活躍できるようなポジションやプロジェクトを用意することも、企業にとって有益ではないでしょうか。

3.情報の取捨選択とリーダーシップ

 本書では、情報の洪水に流されず、主体的に情報を取捨選択する力が強調されています。人事部門としては、この情報リテラシーを社員に促すための教育やトレーニングを提供することが重要です。特にリーダー層に対しては、膨大な情報を正確に分析し、迅速かつ的確に意思決定を行う能力が求められます。リーダーが正しい情報を基に判断を下すことができれば、組織全体のパフォーマンス向上にもつながります。また、情報の本質を見抜く力を養うことで、社員はより主体的に業務に取り組み、結果的に組織の成長を支える存在となるでしょう。

4.ライフバランスと生産性の向上

 本書で挙げられている「支出の最適化」や「意志力の最適化」といった概念は、個人の生活全般において無駄を省き、効率を高めることを目指しています。人事の視点からは、これを企業内での生産性向上や業務の効率化に応用することが考えられます。社員が自らの時間やエネルギーを効率的に使うためには、ワークライフバランスの確保が不可欠です。
 これには、フレックスタイム制やリモートワークの導入、さらには働き方の見直しを通じて、社員が最大限のパフォーマンスを発揮できるような環境づくりが求められます。特に、個々の社員が自らの時間やエネルギーを管理し、生産性を高めるためのスキルを習得できるようなプログラムを提供することが、長期的には企業の競争力強化につながるでしょう。

5.社員のエンゲージメントと組織文化の強化

 穂高氏が提唱する「自由」と「主体性」の追求は、社員のエンゲージメントにも深く関連しています。社員が自らの意志で行動し、企業に貢献するという主体的な姿勢を持つことで、組織内でのエンゲージメントが高まりやすくなります。人事部門は、このような主体性を促進するために、社員が自由に意見を述べ、挑戦できる組織文化を醸成することが求められます。これには、オープンなコミュニケーションの推奨や、リーダーシップのスタイルを再評価し、フラットな組織構造を構築することが含まれます。社員が自身の役割やミッションに強い意識を持ち、日々の業務に取り組むことで、組織全体のパフォーマンスが向上し、結果として企業の成長につながるでしょう。

6.長期的視点での人材育成と継続的な学びの促進

 FIREを達成した穂高氏の経験からも分かるように、継続的な学びと自己成長が重要です。人事部門は、社員が長期的に成長できるような教育・研修プログラムを提供する必要があります。これは、単なるスキルアップにとどまらず、社員が自身のキャリアや人生を主体的に設計できるような支援を行うことが求められます。例えば、キャリアカウンセリングの強化や、ライフデザインに関するセミナーの開催、または自己啓発を支援するための補助制度の導入などが考えられます。社員が主体的に学び続けることで、企業内での価値を高め、組織の競争力を維持することが可能になります。


 本書は、社員一人ひとりが主体的に生きる力を養うための貴重な示唆を与えてくれます。人事部門は、これらの考え方を組織運営に反映し、社員が経済的・精神的に自由でありながら、企業に貢献できる環境を整えることが重要です。こうした環境づくりが、結果として企業全体の成長と発展につながるでしょう。

経済的・精神的自由を表現しています。都市の高層ビルの上で自信に満ちた若者が、静かな現代の都市を見下ろしており、背景には新しい機会を象徴する柔らかな黄金色の光が差し込んでいます。周囲には成長や安定を示す浮かぶシンボル、例えば上昇するグラフやマネーツリー、本が見え、全体として穏やかで満ち足りた雰囲気が漂っています。このシーンは、金融と心の安定を手にした時の平和とコントロールの感覚を伝えています。


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