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【書籍】心を動かすリーダーシップー伏見工業高校ラグビー部と山口良治の挑戦

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp303「9月22日:伏見工ラグビー部の原点
山口良治 京都市スポーツ政策監)」を取り上げたいと思います。

 山口氏の物語は、彼が日本代表ラグビーチームの一員として輝かしいキャリアを築いた後、伏見工業高校のラグビー部監督として新たな挑戦に直面したことから始まります。31歳で現役を退いた後、山口氏は多くの負け試合でキックが外れるなど、プレッシャーと責任の重さに苦しみながらも、ラグビーに対する深い情熱を持ち続けました。この情熱は、彼が次世代の選手たちを指導する際の大きな原動力となります。

 赴任初日、山口氏は伏見工業高校のラグビー部員たちが自分のことを英雄として迎え入れてくれると期待していました。しかし、実際には全く異なる環境に直面しました。伏見工業高校は、学生たちが校内でバイクを走らせ、教師に暴力を振るうなど、荒れた状況にありました。さらに、ラグビー部員たちは山口氏の全日本選手としての経歴に対して冷淡で、彼の指導に対しても反発心を露わにしました。このような状況にもかかわらず、山口氏は彼らにラグビーを通して誇りを持たせることが自分の使命であると感じ、その達成のために奮闘します。

 最初の大きな試練は、120対0で敗れた花園との試合でした。この大敗を通して、山口氏は自分の指導が生徒たちに全く届いていないこと、そして彼らがどのような気持ちでラグビーをしているのかを理解していないことに気づかされます。試合中、彼は激しく生徒たちを叱責しましたが、それが逆に彼らの心を閉ざす結果になってしまいました。試合後の悔しさと屈辱感、そして生徒たちへの同情から、山口氏は自分自身に向き合うことを強いられます。自己中心的な態度と、指導者としての自負心が、実際には生徒たちを導くことに何の役にも立っていなかったことを痛感しました。

偉そうに「何してる、ちゃんとやらんかい」と冷たい言葉を言うだけだった。その言葉の裏には、俺は全日本選手だったんだ、俺は監督だ、俺は教師だという気持ちがあって、よく考えたら何もしていないことに気づいたんです。そんな自分に気づいたとき、本当に涙で謝ってました。「すまん、俺は偉そうにばかり言って、何もしてやっていなかった」と。あの気づきが、僕は指導者の原点だと思います。やっぱり自分に矢印を向ける勇気が一番大事なものだと思うんです。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p303より引用

 この自己反省が、山口氏にとっての転機となります。彼は生徒たち一人ひとりの立場に立ち、彼らが直面している困難や挑戦を理解することを学びました。そして、彼らに対する真の関心と理解をもって接することで、徐々に生徒たちの信頼を勝ち取り、ラグビーを通じて彼らに自信と誇りを持たせることに成功しました。山口氏の指導のもと、伏見工業高校ラグビー部は目覚ましい成長を遂げ、五年後にはかつての敗北を乗り越えて花園に勝利し、翌年には全国一を成し遂げるに至りました。

 山口氏の経験は、指導者としての自己反省の重要性を教えてくれます。彼の物語は、自己の弱さと向き合い、それを乗り越えることで、他者を導く力を得ることができるという、指導者にとっての普遍的な教訓を私たちに示しています。山口氏が生徒たちとの間に築き上げた信頼関係は、彼らが自らの限界を超えて成長するための基盤となりました。これは、教育者や指導者が直面するあらゆる困難を乗り越えるための鍵であると言えるでしょう。

人事としてどう応用するか

 山口氏の伏見工業高校ラグビー部での経験は、リーダーシップ、コーチング、そして個人的成長に関する重要な教訓を提供します。彼の話からは、人事管理や組織開発の観点からも多くの洞察を得ることができます。特に、個々のメンバーの内面に焦点を当て、チーム全体のモチベーションとエンゲージメントを高めることの重要性が浮き彫りになります。山口氏の経験を通して、我々は効果的なリーダーシップとチームマネジメントに不可欠な要素について学ぶことができるのです。

 まず第一に、山口氏の物語は、個々の理解とアプローチの重要性を示しています。彼は、伏見工業高校の生徒たちが持っていた問題行動や、当初彼らに対して持っていた誤解を乗り越える必要があることを認識しました。これは、組織においても同様で、リーダーや人事は、従業員一人ひとりの個性やバックグラウンドを理解し、それに基づいたアプローチを取るべきだということを示唆しています。画一的な対応ではなく、各個人の特性を考慮した上で、適切なコミュニケーションやモチベーション向上策を講じることが肝要なのです。

 次に、山口氏の経験からは、コミュニケーションの力についても学ぶことができます。初めての大敗を経験した際、彼は自身のコミュニケーションスタイルが生徒たちにとって有効でなかったことに気づきました。これは、コミュニケーションが単に情報の伝達手段ではなく、人々を動機付け、関与させるための強力なツールであることを示しています。適切なフィードバックの提供、明確な期待の設定、そして感情に訴えるコミュニケーションは、組織における成功の鍵となります。リーダーは、自らのコミュニケーションスタイルを常に見直し、改善していく必要があるのです。

 さらに、山口氏の自己反省の価値も重要な教訓です。彼が選手たちに対して何もしてやれていなかったと気づき、自己反省した瞬間は、リーダーシップにおける転換点でした。これは、リーダーや人事担当者にとっても重要な示唆を与えてくれます。自己反省を通じて自己認識を高め、自分の行動やアプローチが周囲に与える影響を理解することは、効果的なリーダーシップの基礎となります。自らの強みと弱みを把握し、常に成長を目指すことが求められるのです。

 加えて、伏見工業高校ラグビー部が全国一になるまでの道のりは、長期的なビジョンと根気の重要性を物語っています。彼らが花園で勝利するまでには5年を要しました。この物語は、成功が一晩にして達成されるわけではなく、長期的なビジョンと継続的な努力が必要であることを教えてくれます。組織開発においても、短期的な成果に固執するのではなく、長期的な目標に向けて着実に努力を続けることが重要です。リーダーは、明確なビジョンを示し、チームを導いていく必要があるのです。

 最後に、山口氏の経験は、エンゲージメントとモチベーションの構築の重要性を浮き彫りにしています。彼は選手たちの内面に焦点を当て、彼らが自身の誇りや達成感を感じられるよう導きました。これは、組織において従業員のエンゲージメントとモチベーションを高めるために、彼らの内面的動機づけに訴え、意味のある目標に向けて取り組むことの重要性を示しています。単に報酬や処罰だけでなく、個人の価値観や願望に訴えかけることが、真の意味でのモチベーション向上につながるのです。

 山口氏の経験は、スポーツの世界のみならず、ビジネスや組織管理においても深い教訓を与えてくれます。個人を理解し、効果的にコミュニケーションを取り、自己反省を通じて成長し、長期的なビジョンを持ち、そして内発的動機づけに訴えかけることの重要性は、どの分野においても成功への鍵となります。リーダーや人事は、山口氏の物語から学び、自らのリーダーシップとチームマネジメントのスキルを磨いていくべきでしょう。彼の経験は、人材育成と組織開発において、今なお色褪せることのない貴重な洞察を与えてくれていると感じます。


夕日に照らされたラグビーフィールドでの心温まるシーンを捉えています。かつての日本代表選手であり、現在は高校のラグビー部のコーチとして新たな挑戦に直面している人物の旅路を象徴しています。コーチは、当初は抵抗を示していた高校チームの真ん中でトレーニングセッションを行っており、その情熱と粘り強さが徐々にチームメンバーからの信頼と尊敬を勝ち取っていく様子が描かれています。このシーンは、コーチとプレイヤーたちとの間の関係が大きく進展した瞬間、相互の尊敬とつながりを象徴しています。周囲の環境は少し荒れており、彼らが直面した初期の挑戦を反映していますが、夕日の温かな光は希望とより明るい未来の約束を象徴しています。プレイヤーたちは外見が多様で、さまざまな背景を持つことを示しており、共通のゲームへのコミットメントとコーチのビジョンによって結ばれています。逆境に打ち勝つ力、粘り強さの力、そしてスポーツが個人の間に築くことのできる深い感情的絆を示しています。


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。




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