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【書籍】人を動かす力:井深大が示すリーダーシップの新しい形ー宮端清次氏の学び

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp38「1月11日:ソニー創業者・井深大のリーダーシップ論
(宮端清次 はとバス元社長)」を取り上げたいと思います。

 この話は、はとバス元社長の宮端清次氏が、井深氏のリーダーシップについて考察しています。宮端氏もまた、はとバスをV字回復させた方です。

 ソニー創業者の井深氏は、リーダーシップについて従来の「指導力、統率力」という考え方を覆し、「影響力」と定義しました。これは、厚木工場での落書き問題がきっかけでした。最新鋭の設備を誇る工場で、世界中から見学者が訪れるにも関わらず、便所の落書きが後を絶たなかったのです。

 工場長は井深氏の指示を受け、落書きをやめるよう徹底的に通知を出しましたが、効果はありませんでした。しかし、パートの掃除の社員が「落書きをしないでください ここは私の神聖な職場です」と書いた蒲鉾板を貼ったところ、落書きはピタリと止まったのです。

 この出来事から井深氏は、リーダーシップとは必ずしも上から下への力ではなく、状況や立場に関わらず、人を動かす影響力であると気づきました。パートのおばさんは、自らの言葉で工場全体の意識を変え、問題解決へと導いたのです。

 井深氏はその後、リーダーシップを「影響力」と定義し直し、上司や部下だけでなく、同僚や関係者など、あらゆる方向に影響を与える力だとしました。リーダーシップは固定的なものではなく、状況や相手によって変化するものであり、時には部下が上司を動かすこともあれば、パート社員が経営層に影響を与えることもあると説いたのです。

するとしばらくして工場長から電話があり『落書きがなくなりました』と言うんです。「どうしたんだ?」と尋ねると、「実はパートで来てもらっている便所掃除のおばさんが、蒲鉾の板二、三枚に、“落書きをしないでくださいここは私の神聖な職場です"と書いて便所に張ったんです。それでピタッとなくなりました』と言いました」井深さんは続けて、「この落書きの件について、私も工場長もリーダーシップをとれなかった。パートのおばさんに負けました。その時に、リーダシップとは上から下への指導力、統率力だと考えていましたが、誤りだと分かったんです。以来私はリーダーシップを“影響力”と言うようにしました」と言われたんです。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p38より引用

 この井深氏のエピソードは、リーダーシップの本質を深く考えさせるものです。真のリーダーシップとは、肩書きや権力ではなく、人々を動かし、目標達成へと導く影響力を持つこと。それは、常に相手の立場に立ち、共感し、理解しようとすることから生まれるのではないでしょうか。井深氏の言葉は、今日のリーダーたちにとっても、重要な教訓となるでしょう。

人事の視点から考えること

 人事の視点から考えると、井深氏のエピソードは、リーダーシップについて以下の示唆を与えてくれます。改めての考察が必要でしょう。

多様なリーダーシップ
 リーダーシップは役職や立場に限定されるものではなく、パート社員のような現場の従業員からも発揮されることがあります。企業は、多様な人材がリーダーシップを発揮できる環境を整備することが重要です。例えば、年齢、性別、職種、国籍などを問わず、誰もがリーダーシップを発揮できるような研修プログラムやメンタリング制度を導入することが考えられます。

影響力としてのリーダーシップ
 リーダーシップは、単なる指示や命令ではなく、周囲に影響を与える力として捉えるべきです。井深氏の例では、パート社員の行動が工場長や井深氏自身に影響を与え、最終的に問題解決につながりました。このことから、リーダーは、自らの行動や言動を通じて、周囲に良い影響を与え、目標達成に向けて協力体制を築くことが重要であると言えます。

コミュニケーションの重要性
 リーダーシップを発揮するためには、良好なコミュニケーションが不可欠です。パート社員は、自身の言葉で問題提起し、共感を呼ぶメッセージを発信することで、周囲を動かしました。同様に、リーダーは、部下や同僚とのコミュニケーションを密にすることで、信頼関係を構築し、チーム全体のモチベーションを高めることができます。

状況に応じたリーダーシップ
 リーダーシップは、状況や相手によって変化するものです。井深氏は、パート社員の行動から、従来のリーダーシップ観を改め、状況に応じた柔軟な対応の重要性を学びました。リーダーは、常に状況を把握し、適切な判断を下せるように、情報収集能力や分析能力を高める必要があります。

ボトムアップのリーダーシップ
 リーダーシップは、必ずしもトップダウンである必要はありません。パート社員のように、現場から問題提起や改善提案を行うことで、組織全体を良い方向へ導くことができます。企業は、従業員が自由に意見交換や提案を行えるような風通しの良い組織文化を醸成することが重要です。

最新鋭の工場内で掃除担当のパート社員が、「落書きをしないでください ここは私の神聖な職場です」と書かれた蒲鉾板を貼っているシーンを描いています。彼女のメッセージは優雅で敬意を込めた筆跡で書かれており、工場の壁には以前の落書きがなく、清潔に保たれています。周囲の工場労働者たちはその板を敬意を持って見つめており、明るく清潔な工場の雰囲気が描かれています。このエピソードは、リーダーシップの本質を考えさせられるものです。井深大氏が示したように、リーダーシップとは単なる指導力ではなく、人々に影響を与え、問題を解決に導く力であることを強調しています。


1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。

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