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流行に流されない人事の本質とはー高橋俊介氏「人事プロフェッショナルの視点と思考」

 Aoba-BBT社:高橋俊介氏「人事プロフェッショナルの視点と思考」を聴講しました。同社が企業人事のために期間限定で提供してくれたプログラムです。経営者、人事の方はタイミングが合えば視聴できるかもしれません。
 それにしても、改めて、多くの学びがありましたので、それを元に考察してみたいと思います。

経営環境の劇的な変化で、「人材」への関心度が高まっています。
人と組織の面から企業の成長を支える【人事のプロ】は、これまでより一層高い視点で、より深く人材育成を考えていく必要があります。

Aoba-BBTでは、組織・人事分野の第一人者である高橋 俊介氏(元慶應義塾大学大学院教授)による映像講座「『組織人事ライブ 人事プロフェッショナルの視点と思考』第1回〜3回(約180分)」を期間限定で、経営者や人事を対象にしたオンライン配信いたします(無料)。

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「組織人事ライブ」は、オンラインでの学びの特長を最大限活用し、ビジネスで成果を上げるための人材育成プログラムを提供するAoba-BBTの20年以上に渡る人気講座です。高橋俊介氏をはじめ、川上真史氏、野田稔氏ら日本を代表する人事コンサルタントが組織人事に関する様々な課題に踏み込んでいきます。

今回お送りする『組織人事ライブ 人事プロフェッショナルの視点と思考』は、働き方改革、人的資本経営、ジョブ型雇用といった言葉が、“バズワード”として経営やビジネス全般に広がる今、【人事のプロ】が表層的な議論や技法に踊らされず、自らが課題の本質を導き出すために、Aoba-BBTがお勧めしたい内容です。

https://www.bbt757.com/business/article/video/takahashi/ より引用

第1回:視点と思考の枠組み

 現代の人事における根本的な課題として、表面的な技法や流行に流されないことが重要視されています。働き方改革やグローバル人材の育成など、今日の人事のトピックは数多く存在しますが、それらにただ対応するだけでは、組織の本質的な成長や発展には繋がりにくいです。

 どのように深い視点から人事を考えるか、またその視点をどのように組織運営に役立てるかが主なテーマとなっており、そのために歴史、社会科学、自然科学、経営という4つの視点を活用することが推奨されています。

1. 歴史的な視点

 歴史の視点から学ぶことは、現代社会やビジネスの背景を理解し、長期的な視野を持つことに繋がります。特にユーラシア大陸と新世界(アフリカや南北アメリカ)の違いに焦点が当てられています。高橋氏によれば、ユーラシア大陸が新世界を支配した理由の一つは、地理的な条件によるものでした。ユーラシア大陸は横に広がっており、広範囲にわたって農作物や牧畜が広まりやすかったため、広い経済圏が発展したという点を述べています。これに対して、アフリカやアメリカ大陸は縦に長いため、気候や地形の変化が激しく、農業技術や経済の発展が遅れたわけです。

 このような地理的な違いは、経済や社会の発展に直接的な影響を与え、現代の経済構造や国際関係にもその名残が見られます。また、ユーラシア大陸の中でも特に繁栄した地域として、日本とヨーロッパが挙げられています。これらの地域は、遊牧民族の侵略を受けにくい地理的条件に恵まれており、安定した経済発展が可能だったという歴史的な背景が指摘されています。こうした歴史的視点を持つことで、グローバルな視野から現代のビジネスや人事戦略を理解し、より深い洞察を得ることができるとされています。

 さらに、歴史を学ぶことが単に過去の出来事を知るだけでなく、それを通じて現代社会や未来の動向を予測する力を養う手段であると強調しています。歴史的な事実や出来事を紐解き、それが現在の社会や経済、ビジネスにどのように影響を与えているのかを理解することで、経営者や人事担当者がより戦略的な判断を下すための指針となるとのことです。

2. 社会科学の視点

 次に、社会科学の視点から物事を考えることの重要性が述べられています。特に、高橋教授は、経済と宗教が人々の労働観や価値観にどのように影響を与えてきたかに焦点を当てています。マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を取り上げ、プロテスタントの労働観が産業革命の発展に大きく寄与したという考え方が紹介されています。プロテスタントの倫理では、労働が神聖な行為とされ、勤勉であることが評価されるため、社会全体に強い労働価値観が浸透し、大規模な産業の発展が可能になったとされています。

 この視点からは、労働の価値観や規範がどのように社会や経済の発展に寄与してきたかを理解することができます。特に、異なる宗教や文化背景を持つ地域でのビジネス展開においては、その地域の労働観や価値観を理解することが重要になります。
 例えば、日本の労働文化とヨーロッパの労働文化は大きく異なります。日本では時間を守ることや協調性が重視される一方、ヨーロッパでは個人の自由や効率性が尊重される傾向があります。こうした違いを理解し、適切に対応することが、人事戦略の成功に繋がるでしょう。

 また、社会科学的な視点は、人事部門が従業員のモチベーションやパフォーマンスを向上させるために、どのように組織文化をデザインするかを考える上で非常に有益といえます。組織の文化や価値観は、従業員の行動や意思決定に直接影響を与えるため、これを理解し、組織の目標に合わせて調整することが、組織全体の成功に寄与します。
 例えば、組織内のコミュニケーションやリーダーシップスタイルをどのように設計するかも、社会科学的な視点からアプローチすることで、より効果的な結果を生み出すことができます。

3. 自然科学の視点

 もう一つの視点は、「自然科学の視点」です。ここでは、ゴリラやチンパンジーなどの類人猿の行動から、人間社会の形成や集団行動についての洞察が得られることが強調されています。類人猿は、家族という単位で集団を形成し、互いに助け合うという行動パターンを持っています。人間社会もこれに似ており、家族やコミュニティを基盤にして進化してきました。この自然科学的な視点は、人間の社会的行動や協力の重要性を理解する上で非常に有用です。

 特に、人間がサバンナで狩りをする際に、長時間にわたる協力が必要であったことが、コミュニケーション能力の発展に大きく寄与したとされています。人間は、多くの動物と異なり、持久力に優れています。これにより、サバンナでの狩りを成功させるためには、集団で協力して獲物を追い詰める必要があり、その過程でコミュニケーション能力が発展したという説明があります。この協力の必要性が、現代社会におけるチームワークや協力の重要性に繋がっているという点が興味深いです。

 また、人間は「多産」であることが生存戦略の一環として重要であり、これが家族単位だけでなく、コミュニティ全体で子供の世話をする社会の基盤となったという説明がなされています。このような自然科学の視点から、人間の社会性や集団行動を理解することで、現代の組織における協力やチームワークの重要性を指摘しています。現代の企業でも、個々の従業員が独立して働くのではなく、チームとして協力し合い、共通の目標に向かって進むことが求められます。自然科学的な視点を取り入れることで、こうした協力的な組織文化を築くための新たなアプローチが見出せるでしょう。

4. 経営の視点

 最後に、経営の視点からのアプローチも重要です。経営の視点では、企業のビジョンや目標がどのようにして人材戦略に影響を与えるかが議論されています。企業が顧客にどのような価値を提供し、どのように利益を生み出すかを明確にすることが、組織全体の成功に直結します。このビジョンに基づいて、どのような人材が必要とされるのかが決定され、人事戦略が設計されるべききでしょう。

 また、リーダーシップの重要性も取り上げられています。単に優れたリーダーを一人育成するだけでなく、組織全体にリーダーシップを発揮できる人材を増やすことが、現代の変化の激しい経営環境では不可欠です。これにより、組織の柔軟性や適応力が向上し、持続的な成長が可能になります。リーダーシップの育成は、単なる技術的な能力ではなく、組織全体の文化やビジョンと連携した戦略的な取り組みが求められます。

まとめ

 歴史、社会科学、自然科学、経営の視点を通じて、人事につじてさらに深く理解するヒントとなるでしょう。特に、現代の人事戦略においては、単に流行やバズワードに飛びつくのではなく、これら多様な視点を取り入れ、多面的かつ重層的に物事を考えることが重要であるとされています。これにより、企業や組織は短期的な成功にとどまらず、長期的な成長と発展を遂げることができるでしょう。この講義は、人事プロフェッショナルがその役割を果たす上で必要不可欠な洞察を提供しており、経営者や人事担当者にとって大いに参考になる内容です。

第2回:日本的なるものの本質

 ここでは、日本企業の組織と人事における問題点や課題について、非常に詳細に議論されています。特に、年功序列、終身雇用、精神主義という伝統的な日本企業の労働文化が、現代の経営環境にどのような影響を及ぼしているのかが、歴史的な背景も含めて解説されています。内容の中心は、日本型企業の労働文化がどのように形成され、その結果としてどのような問題が現在のビジネス環境で生じているのかという点にあります。また、これらの問題に対する解決策として、働き方改革やビジネスモデルの変革が提案されています。

1. 日本型組織の特徴とその問題点の詳細な分析

 まず、日本企業における年功序列や終身雇用の仕組みが説明されています。これらの特徴は、特に戦後の高度経済成長期においては非常に効果的なシステムでしたが、現代においては多くの問題を引き起こしているとされています。年功序列制度は、年齢や勤続年数によって昇進や給与が決まるため、若手の能力や成果が十分に評価されないことが指摘されています。
 この結果、若手社員のモチベーションが低下し、将来的なリーダーシップ層が育ちにくくなっていると分析されています。また、終身雇用制度により、社員が一つの企業に長期間勤務することが期待されますが、このシステムが逆に柔軟性を失わせ、社員が新しいスキルを身につける機会を制約する要因ともなっています。

 さらに、日本企業においては、「精神主義」や「単純化された仕事モデル」に基づく働き方が、特に若手社員にとって大きな負担となっていると説明されています。多くの企業では、若い社員に対して「やる気」や「根性」で成果を出すことが期待され、技術的なスキルや知識の習得よりも、体力と精神力が重視される傾向にあります。これにより、若手社員は肉体的にも精神的にも限界に達し、早期退職やバーンアウト(燃え尽き症候群)のリスクが高まります。このような働き方が長期的な人材育成に悪影響を与えていることが強調されています。

2. 歴史的背景と日本型労働文化の成り立ち

 豊臣秀吉や徳川家康の時代まで遡り、日本の労働文化がどのように形成されたのかについても詳述されています。特に、武士が戦国時代から江戸時代にかけて、戦場での戦闘を通じてプロフェッショナルな役割を担っていたのが、平和な江戸時代になると次第に「サラリーマン化」していったことが、日本の労働文化に大きな影響を与えたとされています。

 戦国時代には、武士たちは戦闘技術や戦略を駆使して領土を守り、拡大するために日夜努力していましたが、江戸時代に入ると平和が続いたため、戦場での役割が不要となりました。結果として、武士たちは行政や統治の役割に従事し、次第に「精神主義」や「忠誠心」といった倫理的な価値が重視されるようになりました。これが「武士道」として発展し、現代の日本企業における労働文化にも根付いていると解説されています。現代の企業でも、精神的な献身や忠誠が評価され、長時間労働や過度な責任感が賞賛される傾向が見られるのは、こうした歴史的背景に起因するものです。

 また、武士がサラリーマン化する過程で、彼らは自らの土地から収穫を得る独立した存在から、上級者や藩主に仕える従属的な存在に変わっていきました。この変化は、現代の企業における従業員の位置づけにも類似しており、上司に対する忠誠心や、会社に対する長期的な貢献が期待されるという文化が形成されていることが指摘されています。

3. 組織人事の現状と課題

 日本企業における組織人事の現状に関して、特に「単純化された仕事モデル」や「体力と精神力を重視したキャリア形成」が問題視されています。多くの日本企業では、若手社員に対して「とにかくやってみろ」という精神主義的なアプローチが採用され、彼らに高度な技術や知識を習得する時間が与えられないまま、無理な要求がされるケースが多いとされています。これにより、若手社員は体力的にも精神的にも限界に達し、やがて疲弊してしまうのです。

 さらに、年功序列に基づく昇進制度も問題点として挙げられています。多くの企業では、一定の年齢に達すれば自動的に管理職に昇進する仕組みが存在しますが、このシステムは、個々の能力や成果を評価することなく、一律に昇進を決定するため、結果として能力不足の管理職が増加してしまうと指摘されています。この問題に対処するためには、個々の社員の能力や成果を正確に評価し、それに基づいてキャリアを形成する仕組みが必要です。

 また、顧客志向が過剰になりすぎると、企業が「顧客の奴隷」となり、従業員が疲弊するという問題も指摘されています。日本企業は顧客を非常に大切にする文化がありますが、これが行き過ぎると、顧客の要求に応え続けるために従業員が過労状態に陥ることがあります。この結果、企業全体の生産性が低下し、顧客に対するサービスの質も低下してしまう恐れがあります。

4. 働き方改革とビジネスモデルの変革が求められる理由

 単なる「働き方改革」では不十分であり、ビジネスモデルそのものを変革する必要があると強調されています。特に、日本型の組織文化が根強く残っている企業においては、働き方改革だけではなく、企業の経営視点やビジネスモデルを見直すことが重要であるとされています。これには、企業が顧客との関係性を見直し、従来の「従属的な関係」から「対等なパートナーシップ」へと転換することが必要です。企業側が顧客に対してリーダーシップを発揮し、必要なソリューションを提供することで、より健全なビジネス関係を築くことが可能になります。

 さらに、日本的な精神論や「叱咤激励型リーダーシップ」が、現代のビジネス環境においてはもはや機能していないという指摘もなされています。過度に精神的に追い込むマネジメント手法は、従業員のパフォーマンスを向上させるどころか、逆に低下させ、企業全体の成長を阻害する要因となっています。このような古いマネジメント手法から脱却し、より合理的で効率的なマネジメントスタイルを導入することが求められています。

5. ITソリューションの導入と組織の再編成

 1990年代以降、日本企業は「製品を売る」というビジネスモデルから「ソリューションを提供する」というビジネスモデルへと変化していきました。この変化に伴い、企業の組織も再編成が求められています。特に、IBMが1993年にジョブサイズによる職務序列制度を廃止し、ICP(Integrated Career Planning)を導入した例が紹介されています。この改革により、IBMは従業員の能力や市場価値に基づいて報酬を決定する制度を取り入れ、従来の年功序列的なシステムから脱却しました。

 日本企業においても、このような変革が求められており、顧客のビジネス課題を解決するためのソリューションを提供する能力が必要とされています。これには、従業員が自社製品だけに固執せず、最適な他社製品を提案するなど、柔軟な対応が求められる場面が増えてきます。このような組織改革が進まなければ、顧客との関係が対等なパートナーシップではなく、従属的な関係にとどまってしまい、企業全体の生産性が低下するリスクが高まります。

今後の方向性

 日本型の組織文化や働き方の問題点が詳細に解説されています。特に、精神主義や単純化された仕事モデルが、従業員に過度な負担を強い、企業の成長を阻害している点が強調されています。働き方改革だけでなく、ビジネスモデル全体の変革が求められており、顧客との対等なパートナーシップを築くためのリーダーシップが不可欠であることが述べられています。

 企業が競争力を維持し、持続的な成長を遂げるためには、従来の日本型組織のあり方を見直し、柔軟で効率的な人事制度や働き方を導入することが必要です。これにより、従業員のモチベーションを高め、企業全体の生産性向上を図ることが可能になるとされています。また、ITソリューションの活用によって、組織全体の効率を改善し、顧客に対してより高度なサービスを提供することが期待されています。

第3回:重要人事課題を再考する

 ここでは、企業における組織人事や人材活用に関する広範なディスカッションが展開されており、現代のビジネス環境において、どのようにして最も効果的に人材を活用するかという課題が重点的に取り上げられています。特に、人材の育成や活用に関する考え方は、従来の日本的な経営スタイルと、グローバルな市場で成功するための新たなアプローチの対立や融合がテーマとなっており、非常に多くの洞察を提供しています。以下では、その主なポイントをさらに詳しく説明し、内容を拡張していきます。

1. 人材活用の重要性

 まず第一に、企業が長期的に成功を収めるためには、最も重要な資源である「人材」をどのように活用するかが極めて大きな課題となっています。特にグローバル市場で活躍できるリーダーをどのように育成するかという点において、これまでの人事課題の枠組みを超えた新しいアプローチが求められています。
 グローバルリーダーの育成において、日本的な年功序列や縦型社会に依存しない、新たな人材活用の枠組みが必要とされています。つまり、従来のように年次や経験年数を重視したリーダーシップの育成方法ではなく、年齢や経験に関係なく個々の能力を評価し、最大限に引き出す仕組みを導入することが重要であると強調されています。

 特に、リーダーシップとは、単に上からの命令を受けて実行するだけではなく、創造性や革新性を持って業務に取り組むことが求められます。これには、従来の日本社会で見られる「縦型」の組織構造に対する批判が含まれており、より「横型」でフラットな組織作りが今後の課題であると述べられています。このようなフラットな組織構造では、リーダーが一方的に指示を出すのではなく、メンバー全員が意見を出し合い、相互に学び合う環境が重視されます。特に、変化の激しい現代において、リーダーシップの柔軟性や迅速な意思決定が、企業の競争力を維持するための重要な要素となります。

2. 日本的経営とグローバル化のギャップ

 次に、従来の日本的な経営スタイルと、グローバル化したビジネス環境との間に存在するギャップについても深く議論されています。日本企業は長い歴史を持ち、その独自の価値観や経営スタイルを築き上げてきましたが、グローバルな市場においては、それが必ずしも成功の要因として機能していない点が指摘されています。特に、精神論に基づくリーダーシップスタイルや、激励型の指導方法が国際的な舞台では通用しづらいという現実が明らかにされています。

 このファイル内では、ヨーロッパやその他の文化と比較し、日本の経営者が精神的なアプローチに頼りすぎる傾向があるとされています。このため、国際的な市場では日本のリーダーシップスタイルが適応に苦労していると指摘されています。
 例えば、オランダのビジネスリーダーは、率直で明確なコミュニケーションを重視し、曖昧さや遠回しな表現を避けるスタイルが主流です。それに対して、日本のリーダーシップはしばしば慎重で間接的なアプローチを取ることが多く、この違いがグローバルな競争環境では足かせとなっているという点が強調されています。

 さらに、日本的経営では、社員を「家族」のように扱い、長期的な雇用を前提とした安定性を重視する一方、短期的な成果に対する即時的な報酬を求めるグローバルな人材の期待には対応しきれないことが多いです。このような文化的なギャップを埋めるためには、リーダーシップのスタイルを見直し、より柔軟かつグローバルな視点を持つ必要があります。つまり、単なる指示命令型のリーダーシップではなく、多様な文化や背景を持つチームメンバーとの協力を重視したリーダーシップが今後の企業成長に不可欠であるという結論に至っています。

3. 人を大切にする経営

 日本的経営の大きな特徴として、「人を大切にする経営」が挙げられます。これは短期的な利益だけを追求するのではなく、長期的な視点で従業員を育て、彼らの潜在能力を引き出すことに注力する経営スタイルです。この考え方は、従業員に対して信頼と責任を持たせることで、企業全体の持続的な成長を支えることができるというものです。特に、日本では「終身雇用」の概念が強く、長期的な雇用関係を通じて従業員の成長を支える仕組みが確立されてきました。

 講義内でも述べられているように、人を大切にする経営の背景には、従業員に対する信頼が根底にあります。企業が従業員を大切にし、彼らの意見やアイデアを尊重することで、従業員はより積極的に業務に取り組むことができ、創造性やモチベーションが高まる効果が期待されています。また、信頼に基づくリーダーシップや長期的な視点に基づく育成投資が、企業の競争優位性を保つ上で重要な要素として挙げられています。

 さらに、このアプローチは、企業が危機的な状況に直面した際にも有効です。従業員が積極的に問題解決に取り組む姿勢を持つことで、企業全体の復活や成長が期待できるという点も指摘されています。つまり、「人を大切にする経営」は、単に従業員の満足度を高めるだけでなく、企業の長期的な成長に寄与する戦略的な経営手法であるということです。

4. 働き方改革と健康経営

 現代の企業が直面しているもう一つの重要な課題は、長時間労働や過労による健康被害です。特に日本では、過労死やストレスによる健康問題が大きな社会問題となっており、これに対する企業の対応が求められています。このファイルでも、過労による健康問題として脳卒中や心筋梗塞などが挙げられており、長時間労働がいかに従業員の健康を脅かすかが強調されています。

 このため、企業は「働き方改革」や「健康経営」といった新しい視点から、従業員の労働環境を改善し、彼らの健康を守るための取り組みを強化する必要があります。特に、過労やストレスが企業の生産性や従業員のモチベーションに悪影響を及ぼすことが分かっているため、これらの問題に対処することは企業全体のパフォーマンス向上にもつながります。

 健康経営は、単に従業員の健康を守るだけでなく、彼らの生産性やモチベーションを高めることで、企業全体の競争力を向上させる手段としても非常に重要です。特に、長期的な視点で従業員の健康を管理し、適切な労働環境を提供することが、企業の持続的な成長に不可欠であるとされています。

5. ダイバーシティとグローバル化

 最後に、日本企業がグローバル市場で競争力を持つためには、「ダイバーシティ」(多様性)の受け入れが不可欠であると強調されています。グローバル化が進む中で、異なる文化やバックグラウンドを持つ人材をどのように活用し、彼らの強みを最大限に引き出すかが、企業の競争力を左右する重要な要素となっています。このファイル内でも、ダイバーシティやグローバル化に対応するための具体的な施策が紹介されており、特に異文化理解や柔軟な働き方の導入が必要とされています。

 異なる価値観を持つ人々が協力し合うことで、企業がより革新的で持続可能な成長を遂げることができるとされています。例えば、異なるバックグラウンドを持つ人材が集まり、互いに学び合うことで、新しいアイデアやアプローチが生まれやすくなるという点が強調されています。特に、従来の「縦型」組織から「横型」へとシフトし、異なる文化を持つ人材がフラットに協働できる環境を整えることが、企業のグローバル競争力を高める鍵であると述べられています。

 ここで取り上げられているテーマは、現代の組織人事において非常に重要な課題であり、企業がこれらの課題にどのように対応するかによって、今後の成長や競争力が大きく左右されると考えられます。組織が変革を進め、より効果的な人材活用を実現するためには、これらの視点を包括的に取り入れたアプローチが必要不可欠であるということです。

戦略的な視点から組織の成長を議論する人事プロフェッショナルたちです。性別、年齢、民族の異なるメンバーが集まり、白板には「歴史」「社会科学」「自然科学」「経営」といったキーワードが書かれており、多角的なアプローチが示されています。明るくモダンなオフィスの中で、知識とコラボレーションが融合したインテリジェントな雰囲気が伝わってきます。

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