変化の時代に対応する組織と個人のゼロベース思考:いまのたかの組織ラジオ#222
今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。
今回は、第222回目「“ゼロベース思考”に切り替えるための問い」でした。
多くの企業が成長の過程で陥りがちな落とし穴として、過去の成功体験に固執し、現状維持を優先する傾向を指摘しました。特に、企業が成熟期や安定期に入ると、変化を避け、過去の成功パターンに安住しがちになると述べています。
しかし、このような状況が続くと、市場の変化や技術革新といった外部環境の変化に対応できなくなり、企業は次第に競争力を失い、衰退の道を辿ることになります。そのため、持続的な成長を遂げるためには、過去の成功体験や固定観念をいったん手放し、ゼロベースで事業や組織のあり方を捉え直す必要があると強調しています。
また、ゼロベース思考は単なる思考法にとどまらず、企業文化や組織風土の変革にもつながる重要な概念であると説明しました。過去の成功体験を否定するのではなく、それを踏まえた上で、新たな視点で物事を捉え直し、常に改善を続ける姿勢が、企業の成長には不可欠であるとしています。
実に興味深い内容でした。内容を振り返り、考察してみたいと思います。
個人レベルでのゼロベース思考:自己変革の必要性
ゼロベース思考の重要性は、企業レベルだけでなく、個人の成長においても同様に当てはまると、議論はさらに深まりました。キャリアを長く積んだベテラン社員は、過去の経験や実績に頼ることが多くなり、新しい知識やスキルを習得することに対して消極的になりがちです。
しかし、変化のスピードが速い現代においては、過去の経験が必ずしも有効とは限りません。そのため、個人も常に自身の知識やスキルを疑い、ゼロベースで新しい知識やスキルを積極的に習得する姿勢が不可欠です。過去の成功に安住することなく、常に自己変革を続けることで、個人の成長は加速し、結果として企業全体の成長にも貢献できると説明しました。
また、ゼロベース思考は、自己成長を促進するだけでなく、既存のキャリアパスを見直すきっかけにもなり、新たな可能性を開拓する上で重要な役割を果たすと述べました。
グループ企業におけるゼロベース思考:全体最適を目指す
議論は、複雑な利害関係が絡み合うグループ企業におけるゼロベース思考の応用へと進みました。複数の企業が連携して事業を展開するグループ企業では、各社の組織文化や事業戦略が異なるため、グループ全体としての統一的なビジョンを策定するのが非常に難しいという課題があります。従来のトップダウン方式でビジョン策定を試みると、各社の思惑や利害が複雑に絡み合い、合意形成が難航することが少なくありません。
そこで、各社の社長がまず「もしグループから独立したら、どのようなビジョンで会社を経営するか」という問いに自由に発想するというアプローチが提案されました。このアプローチにより、各社の社長は既存の枠組みや制約にとらわれず、本当に実現したいビジョンを明確にすることができます。その上で、各社が「グループに何を期待するか」という問いを共有することで、グループ全体の協調とシナジーを最大化することができると説明しました。このプロセスを通じて、グループ企業全体として、より全体最適を目指したビジョンを策定し、持続的な成長を実現できると述べました。
ゼロベース思考の実践:具体的な問いかけの重要性
ゼロベース思考を実践するためには、具体的な問いかけが不可欠であるということです。例えば、「もし全く新しい会社を立ち上げるとしたら、どのような事業を行うか」や「もし過去の経験を一切持たないとしたら、どのような戦略を実行するか」といった問いかけは、思考を既存の枠組みから解放し、新たな発想や視点を促します。
また、このような問いかけを組織全体で共有することで、メンバーは自分たちの仕事の意義や価値を再認識し、組織全体の活性化にも繋がると説明しました。さらに、これらの問いかけを促すことは、リーダーやマネージャーにとって重要な役割であり、組織全体の成長を促進する上で欠かせない要素であると強調しました。リーダーは、メンバーが現状を疑い、新たな可能性を追求できるような環境を整備する必要があると述べています。
今後の展望:継続的な自己変革への誓い
最後に、高野・今野両氏は、今後の活動について言及しました。高野氏は、今回の議論で得られた知見を活かし、今後のコンサルティング活動において、クライアントに対してより効果的にゼロベース思考を促していきたいと述べました。
また、今野氏も、自身のコンサルティング活動において、過去の経験に安住することなく、常にゼロベースで物事を捉える姿勢を徹底していくことを表明しました。
両氏は、今後も互いに切磋琢磨しながら、ゼロベース思考を実践し、組織の持続的な成長と発展に貢献していくことを誓っています。
ゼロベース思考の重要性をより深く理解し、企業や個人が成長し続けるためには、現状を疑い、新しい視点を取り入れることの重要性を改めて認識できました。また、リーダーやマネージャーが、組織内でゼロベース思考を促進する役割についても理解を深めることができました。
企業人事の視点から考えること
1. 人事戦略の再構築:現状を疑い、変革を促す
人事の役割は、組織全体の持続的な成長と、そこで働く従業員のエンゲージメントを最大化することにあります。この重要な使命を達成するために、人事部は採用、育成、評価、報酬、組織開発といった多岐にわたる業務を担っています。
しかし、現状を顧みると、これらの業務は過去の成功体験や慣習に依存し、変化の激しい現代のビジネス環境や多様化する従業員のニーズに必ずしも対応できていないケースが見受けられます。ここで「ゼロベース思考」を導入することで、既存の人事制度や施策が、現在の組織戦略や従業員の成長ニーズと真に合致しているかを根本から見直し、必要に応じて刷新していく必要があります。
例えば、従来の年功序列型評価制度は、若い世代の優秀な人材の成長意欲を阻害し、組織全体の活性化を妨げる要因となっている可能性があります。また、画一的な研修プログラムは、個々の従業員のキャリア目標や成長ニーズに対応できず、研修効果を十分に発揮できていない可能性も考えられます。このような状況を打開するためには、人事部がゼロベース思考に基づき、現状の人事戦略を徹底的に分析し、組織の目標達成と従業員の成長を両立できるような、より効果的な人事制度や施策を再設計していくことが不可欠です。
具体的には、成果主義や能力主義を取り入れた評価制度の導入、個人のキャリア目標に合わせた研修プログラムの提供、柔軟な働き方を支援する制度の整備などを検討する必要があります。また、これらの制度や施策を導入する際には、従業員の意見を積極的に聞き、現場のニーズを反映させることで、より実効性の高い制度設計を目指すことが重要です。
2. データ駆動型人事への転換:客観的な分析に基づく意思決定
ゼロベース思考に基づいた人事戦略を効果的に実行するためには、従業員データや組織データといった客観的な情報に基づいた現状分析が不可欠です。人事部は、従業員のエンゲージメントサーベイ、離職率分析、研修効果測定、採用チャネル分析など、様々なデータを収集・分析し、組織の現状課題を明確に把握する必要があります。これらのデータを活用することで、現状の人事施策の効果を客観的に評価し、課題の原因を特定することができます。
例えば、従業員のエンゲージメントスコアが低い部署や、離職率が高い部署の要因を分析することで、組織文化や職場環境に潜む問題を把握することができます。また、研修効果測定の結果を分析することで、研修プログラムの改善点や、より効果的な研修方法を見つけることができます。これらのデータ分析に基づいた客観的な意思決定を行うことで、人事部はより効果的な人事戦略を立案・実行し、組織の成長と従業員のエンゲージメントを高めることができるでしょう。
また、分析結果を組織全体で共有し、透明性の高い人事運営を行うことで、従業員の信頼を得て、より積極的な協力体制を構築することが可能になります。
3. 組織文化の変革:挑戦を奨励し、多様な意見を尊重する
ゼロベース思考を組織全体に浸透させるためには、従業員が現状を疑い、新しいアイデアを提案することを奨励する組織文化を醸成する必要があります。従来の組織では、失敗を恐れて新しいことに挑戦することを避ける傾向がありますが、変化の激しい現代においては、積極的に新しいことに挑戦し、失敗から学ぶ姿勢が不可欠です。
そのため、人事としても、従業員が失敗を恐れずに挑戦できるような心理的安全性の高い環境づくりに取り組む必要があります。例えば、挑戦的な目標を設定し、目標達成に向けた努力を評価する制度や、失敗をしても責任を問われることなく、そこから学び成長できるような文化を醸成する必要があります。
また、従来の組織では、上層部の意見が優先されがちですが、ゼロベース思考を促進するためには、年齢や役職に関係なく、多様な意見を尊重し、議論を活性化させる必要があります。従業員が安心して自分の意見を言えるようなオープンなコミュニケーションチャネルを確立し、多様な意見を積極的に取り入れることで、組織の創造性を高めることができます。
さらに、従業員の意見を尊重し、意思決定プロセスに積極的に関与させることで、従業員のエンゲージメントを高め、より一体感のある組織を築くことができるでしょう。
4. 人材育成とキャリア開発の刷新:変化に対応できる人材を育成
ゼロベース思考に基づいた人材育成では、既存の知識やスキルに固執せず、変化に対応できる柔軟な思考力や問題解決能力を育成することが重要です。人事としても、従業員が新しい知識やスキルを習得する機会を積極的に提供し、組織全体で学習する文化を醸成していく必要があります。
例えば、デザイン思考、クリティカルシンキング、アジャイル開発などの研修プログラムを通じて、従業員の思考力を高め、変化に柔軟に対応できる人材を育成する必要があります。また、従業員が自身のキャリア目標を達成できるように、自己啓発やキャリアカウンセリングを支援し、個人の成長意欲を高める必要があります。従来のキャリアパスにとらわれず、従業員が自分の個性や強みを活かせるような、多様なキャリアパスを提供する必要もあります。社内異動制度、ジョブローテーション制度、副業支援制度など、様々な選択肢を用意することで、従業員のエンゲージメントを高め、組織全体の多様性を促進することができます。
さらに、従業員のキャリア目標を尊重し、企業と従業員が共に成長できるような長期的なキャリアパスを設計することが、人材育成の重要な要素となります。
5. リーダーシップ開発:ゼロベース思考を体現するリーダーの育成
ゼロベース思考を組織全体に浸透させるためには、リーダー自身が率先してゼロベース思考を実践する必要があります。リーダーは、現状を疑い、新しいアイデアを積極的に受け入れる姿勢を示し、部下にも同様の行動を促す必要があります。従来のリーダーシップは、トップダウン型で指示命令を下す傾向がありましたが、ゼロベース思考を促進するリーダーシップは、対話と共創を重視し、従業員の意見を積極的に聞き、議論を促し、共に新しい価値を創造していく姿勢が求められます。
また、変化の激しい現代において、現状維持に固執するリーダーシップは組織の衰退を招きます。リーダーは、変化を恐れず、常に新しいことに挑戦する姿勢を示し、組織全体を成長に導く必要があります。そのため、リーダーシップ研修では、ゼロベース思考に基づいた意思決定、変化に対応する柔軟性、多様な意見を尊重する姿勢、部下の成長を支援するコーチングスキルなどを重点的に育成する必要があります。また、リーダーが自身の考え方や行動を振り返り、常に自己変革を続ける姿勢を持つことが、組織全体の成長を牽引する上で不可欠です。
6. まとめ:変革を推進するチェンジエージェントとしての役割
人事としては、単に制度や仕組みを設計するだけでなく、組織全体の変化を促進するチェンジエージェントとしての役割を担う必要があります。ゼロベース思考を組織に浸透させるためには、人事自身が現状を疑い、新しい人事戦略を積極的に取り入れる必要があります。また、人事は、経営層や従業員を巻き込みながら、組織全体でゼロベース思考を実践していく必要があります。組織全体の成長と従業員のエンゲージメントを高めるために、人事は常に自己変革を続け、より効果的な人事戦略を追求していく必要があるでしょう。そのためにも、人事はデータに基づいた客観的な分析に基づき、現状課題を明確に把握し、ゼロベース思考に基づいた人事戦略を立案・実行していくことが重要です。さらに、従業員の意見を積極的に聞き、共に新しい組織を創造していくパートナーとしての役割を担うことで、組織全体の活性化を促進していく必要があるでしょう。
ゼロベース思考の2つの重要な側面をイメージしています。
1つ目は、ベテラン社員が過去の成功に縛られることなく、新しい知識やスキルを積極的に学び直す姿勢を象徴しています。彼の周りには、学びのアイコンが浮かび、未来への変化を受け入れる力強い姿が印象的です。
2つ目は、グループ企業のリーダーたちが自由な発想で協力し、全体最適を目指したビジョンを議論する場面です。背景に描かれた近未来的な都市と企業間の連携が、成長とシナジーを象徴しています。
変化と協働が持続的な成長の鍵であることをやさしく伝えるデザインになっています。