【書籍】運を呼ぶ人生の歩み方ー樋口武男氏の人の道を守る哲学
『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp306「9月25日:運を強くするには人の道を守ること(樋口武男大和ハウス工業会長兼CEO)」を取り上げたいと思います。
樋口氏は、その成功の裏にある哲学として「運を強くするには人の道を守ること」が必要だと語ります。彼の人生とキャリアを通じての経験から得たこの教訓は、単にビジネスの成功を超えた、人間としての深い価値と尊厳を反映しています。
樋口氏が特に忘れられないと語る出来事の一つに、福岡時代のあるお客様との出会いがあります。そのお客様は、工学博士であり、土木工学の分野で権威として知られていた小田氏です。リタイア後は、先祖から受け継いだ広大な山を開発し、六百区画もの宅地を所有していました。その土地を売却するにあたり、多くの不動産会社が小田さんの扉を叩きましたが、彼は地元で「変人」とみなされており、誰も彼を訪ねることはありませんでした。
しかし、樋口氏は異なるアプローチを取りました。彼は小田氏のもとを何度も訪れ、根気強く関係を築こうと努めました。最終的には、小田氏から部屋に招かれ、「あなたのような人は初めてだ」という言葉を受けるまでに至りました。この出来事は、樋口氏が他人との信頼関係を築くための根気と誠実さを示すものであり、彼のビジネスにおける成功だけでなく、人間としての深い洞察と価値をも示しています。
特に印象的なのは、小田氏が樋口氏に対してした提案です。小田氏は自分の資産を樋口氏に託し、彼に独立して会社を起こすことを勧めました。これは、当時の価値で数十億円に相当する非常に大きな額であり、樋口氏にとっても魅力的な提案でした。しかし、樋口氏はこの申し出を丁寧に断りました。彼は大和ハウスでの自分の役割、そして自分が今の地位にいるのは自分一人の力だけでないことを深く理解していました。樋口氏は、自分を支え、育ててくれた会社や人々に対する責任と感謝の気持ちを持ち、その道を選んだのです。
樋口氏は運を強くするためには、「人の道を守ること」が最も重要だと語ります。
彼にとって、これは単にビジネスの成功を追求すること以上の意味を持ちます。人間としての基本的な倫理、恩を忘れない心、そして他人に対する尊重といった価値を守ることが、真の成功への鍵だと信じています。運が良い人との関わりを持つことの重要性や、運が悪い人とは距離を置くべきであるという考えもありますが、これらはすべて人の道を守るという基本的な原則に帰結します。親や恩人を大切にすることは、他人を尊重し、良い関係を築く基盤となります。樋口氏の教訓は、ビジネスだけでなく、日常生活においても私たちが守るべき価値を教えてくれます。
人事の視点で考えること
樋口氏の物語は、人事の立場から見ても、多くの学びがあります。樋口氏の経験は特に、組織のリーダーとしての役割、人材の発掘と育成、そして人間関係の築き方について、人事にとっても重要な視点です。ここでは、樋口氏の物語から引き出せる教訓をさらに掘り下げ、人事の領域での応用について考察していきます。
信頼関係の構築の重要性
樋口氏が示したように、信頼関係の構築は、人事が取り組むべき最も基本的で重要なタスクの一つです。この信頼は、採用プロセス、従業員との日常的な交流、そして組織内のさまざまなステークホルダーとの関係構築において、中核となる価値です。信頼を築くことで、人事はより効果的なコミュニケーション、高い従業員のエンゲージメント、そして組織全体のパフォーマンス向上を実現することができます。
リーダーシップと自己犠牲
リーダーシップには、多くの場合、自己犠牲が伴います。樋口氏が示したように、組織やチームのために個人の利益を後回しにすることは、信頼と尊敬を築く上で非常に重要です。人事はこのようなリーダーシップの価値観を育成し、組織内で模範を示すことが求められます。リーダーが自己犠牲の精神を持ち、チームや組織の利益を最優先する文化を築くことができれば、組織全体が一丸となって目標達成に向かうことができるようになります。
長期的な視点
樋口氏の経験からは、即時の利益や成功よりも長期的な目標と関係性を重視する姿勢が伺えます。人事管理においても、この長期的な視点は非常に重要です。人事は、短期的な業績向上だけでなく、長期的な人材開発、組織文化の構築、そして持続可能な組織成長を目指す必要があります。このプロセスには、適切な人材の採用、育成などが考えられます。
人間性と倫理観
「人の道を守る」という樋口氏の教えは、人事の役割においても非常に重要なガイドラインです。人事は、企業倫理を守り、従業員の人権と尊厳を保護する責任を持ちます。この責任は、公正な採用プラクティス、職場での平等と多様性の促進、そして倫理的な意思決定に至るまで、人事のあらゆる側面に影響を与えます。従業員が尊重され、公正に扱われる文化を築くことは、組織の成功に不可欠です。
まとめ
樋口氏の話は、人事にとっても、組織内での人間関係の築き方、リーダーシップの発揮方法、そして倫理的な価値観の持ち方に関して、貴重な洞察を提供します。信頼の構築、自己犠牲の精神、長期的な視点、そして深い人間性と倫理観は、人事が目指すべき理想の一つです。
これらの原則を着実に実践することで、人事は組織内での信頼されるリーダーとなり、組織の成長と成功に貢献することができます。樋口氏の経験から学ぶことは多く、これらの教訓を日々の業務に生かしていくことが、人事専門家にとっての挑戦であり、機会でもあると感じたところです。
ビジネスの世界における人間性と倫理を重んじることの重要性を象徴的な風景で表現しています。メンターシップと倫理的な意思決定の旅を象徴する豊かな緑の風景を通る道で、年配のビジネスマンと若いプロフェッショナルが立ち、先輩が倫理的な原則に従うことから来る未来と成功を象徴する明るい日の出を指し示しています。周りには、繋がりと移行を象徴する古い橋や、挑戦と達成を象徴する遠い山々が見え、全体を柔らかな日光が照らし、真の成功を達成するためには他人への尊敬、忍耐、そして粘り強さがいかに重要であるかを強調しています。このイラストは、プロフェッショナルな取り組みの核心には、人間性と倫理の原則を守ることが最も重要であるということを私たちに思い出させます。
1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。