【書籍】ギバー、テイカー、マッチャー:成功を決める行動原則
アダム グラント著『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房、2014年)を拝読しました。
本書では、人を大きく「ギバー」「テイカー」「マッチャー」の3つのタイプに分類し、人間関係の本質を探っています。この分類により、行動や考え方がどのように成功に影響するのかを明らかにし、それぞれの特徴を通じてどのように振る舞えばよいかを考えさせています。それぞれの特徴を確認し、どのように振る舞えば良いのか、また、組織の中ではどのように作用するのか、考察をしてみたいと思います。
「ギバー」「テイカー」「マッチャー」
ギバー(与える人)
ギバーとは、他者に価値を提供することを最優先に考え、見返りを期待せずに行動する人々のことです。彼らは、仕事や人間関係において「他者のために自分の時間やリソースを惜しみなく提供する」という特徴を持っています。ギバーの行動原理は、「相手の利益を第一に考える」ことにあります。そのため、彼らは相手が必要とする助けを惜しまず、時には自分の利益を犠牲にしてでも他者を支援します。
ただし、成功するギバーとそうでないギバーの違いは、単に与えるだけで終わらない点にあります。成功するギバーは、相手を支援する中で、自分の目的や意義を見失わず、他者志向と自己利益を調和させる術を心得ています。
テイカー(受け取る人)
テイカーは、自分自身の利益を最優先に考える人々です。彼らは、「いかにして他者から最大の価値を引き出すか」を重視し、その過程で相手に価値を与えることがあっても、それはあくまで自己利益のための手段に過ぎません。テイカーにとっては、人生は競争であり、勝つためには他者を出し抜かなければならないという認識が根底にあります。そのため、テイカーは自分を売り込むのが得意であり、自分の成果や能力を過剰にアピールすることもあります。
しかし、テイカーの行動は短期的には成果を上げることがあっても、長期的には周囲からの信頼を失い、人間関係を損なう可能性が高いという問題点も抱えています。
マッチャー(バランスを取る人)
マッチャーは、ギバーとテイカーの中間に位置する存在であり、与えることと受け取ることのバランスを取ることを重視します。彼らの行動の基本原理は公平性であり、「自分が与えた分だけ受け取りたい」という考え方に基づいています。そのため、マッチャーは相手から何かを受け取ると、それに見合う価値を返そうとします。また、彼らは他者が不公平な行動をとった場合、それを調整しようとする傾向もあります。
このバランス志向は、一般的な人間関係においては理解しやすいものですが、ギバーやテイカーと比較すると、どちらか一方の性質を極端に持たない分、長期的な成果には結びつきにくいという側面もあります。
ギバーの成功と失敗:二極化する結果の背景
ギバーの特徴的な点は、成功の度合いが二極化しやすいことです。ギバーは、最も成功する人々の中にも、最も成功から遠い人々の中にも含まれています。この二極化の理由を理解することが、ギバーとしての正しい在り方を考える上で重要です。
成功するギバー
成功するギバーは、自己犠牲的な行動を取るのではなく、他者への貢献と自分自身の成長や利益を両立させています。例えば、シリコンバレーの起業家の中には、自分のアイデアを惜しみなく共有し、他者の成功を支援することで結果的に自分も成功する人々がいます。また、営業職や医療分野においても、相手のニーズを真摯に考え、相手が本当に必要とするものを提供する姿勢が、信頼関係を築き、長期的な成果につながる事例が多く見られます。
成功するギバーに共通しているのは、「意義を持った貢献」を心がけている点です。つまり、単に与えるだけでなく、自分がその行動を取る意義や目的を明確にし、その目的に向かって他者を支援する形で行動します。このため、成功するギバーは周囲の人々から信頼されるだけでなく、自分自身の満足感も得ることができます。
失敗するギバー
一方で、失敗するギバーは、自分を犠牲にしてまで他者に価値を与えようとするあまり、自分の生産性や成果を損なうケースが多いです。例えば、職場で他人の仕事を手伝いすぎてしまい、自分の業務が遅れてしまうことや、相手の要求に無条件で応じ続けた結果、搾取されてしまうことが挙げられます。これらのケースでは、ギバーとしての行動が必ずしも成果につながらず、むしろ負担となってしまいます。
このような失敗を避けるためには、「賢いギバー」としての行動を心がける必要があります。具体的には、相手のために尽くす中で、自分の目標や限界を明確にし、無理のない範囲で貢献することが重要です。また、相手に対して何をどのように与えるかを戦略的に考え、自分の価値を最大限発揮できる場面で行動することが求められます。
ギバーになるための具体的な戦略と心構え
本書では、ギバーとして成功するための具体的な戦略が紹介されています。それらは、自己犠牲を避けつつ他者志向的な行動を取る方法を示しており、誰でも実践可能な内容となっています。
自己利益と他者利益の両立
著者は、「自己利益」と「他者利益」は対立するものではないと指摘しています。むしろ、他者のために行動することで、自分自身の利益にもつながるとしています。例えば、営業職において顧客のニーズを真剣に考え、そのニーズに応えることで、結果的に自分の売上が向上するという事例があります。このように、自己利益と他者利益を両立させることが、成功するギバーの基本的な行動原理です。
小さな親切を積み重ねる
ギバーとして行動する際に重要なのは、必ずしも大きな行動を取る必要はないという点です。小さな親切や支援を日常的に行うことで、周囲との信頼関係を築き、それが長期的な成果につながります。例えば、同僚の仕事を手伝ったり、有益な情報を共有したりすることで、職場全体の生産性を向上させることができます。
意義を見つける
成功するギバーは、自分の行動に意義を見出しています。例えば、「この仕事が誰かの生活をより良くする」という意識を持つことで、モチベーションを維持しながら行動することができます。このような意義を持つことで、他者への貢献が自己満足にもつながり、より充実感のある人生を送ることができます。
まとめ
本書は、他者に与えることがいかに個人の成功や社会全体の発展に寄与するかを示した一冊でしょう。単なる自己啓発書に留まらず、科学的なデータや実際の事例を基に、どのようにすればギバーとして成功できるかを具体的に解説しています。本書を通じて、読者は「与えること」の本質を理解し、それを自身の生活やキャリアにどのように応用できるかを学ぶことができます。ギバーとしての行動は、長期的な視点で見ると、自分自身にとっても周囲にとっても最良の選択肢であることを教えてくれます。
人事の視点から考えること
次に、本書内容をもとに、組織の成功と個人の成長を実現するための具体的な施策を、いくつかの観点で考察してみます。
ギバー、テイカー、マッチャーの特性を活かす人材配置
「ギバー」「テイカー」「マッチャー」の3つの特性は、職場における個人の行動や成果に大きな影響を与えるものです。これらを理解することで、組織全体のパフォーマンスを最適化する人材配置が可能になります。
ギバーは他者を助けることで価値を創出する人々です。彼らは、他者への貢献を喜びとし、相手が必要としていることを積極的にサポートします。このため、教育や研修、新人指導といった「育てる」役割において、その力を発揮します。一方で、ギバーは自己犠牲的になりがちで、自分の仕事に割く時間を削ってしまう場合があります。これを防ぐためには、業務量の調整や適切な評価が重要です。
テイカーは自分の成果を最大化することに注力するタイプです。彼らは目標達成志向が強いため、競争が激しいプロジェクトや売上目標が明確な営業職において力を発揮します。しかし、テイカーが他者との信頼を損ねる行動を取らないよう、行動規範やフィードバックを通じた管理が必要です。
マッチャーは、公平性を重んじる調整型の人材です。与えることと受け取ることのバランスを取りながら行動するため、部門間の調整役やコンフリクトマネジメントに適性があります。彼らのバランス志向は、組織内の対立を和らげ、協調性を高めるのに役立ちます。
ギバーの行動を活かす組織文化の醸成
ギバーの持つ「与える力」を活かすには、彼らの行動を正当に評価し、持続的に発揮できる環境を整えることが不可欠です。短期的な成果のみを重視する評価制度では、ギバーの価値が見過ごされることが多いため、次のような施策が必要です。
まず、ギバーがチームや組織全体に与える影響を見える化することが重要です。例えば、彼らの支援によって達成されたチームの成果や、他者の成長を具体的な事例として示すことで、ギバーの貢献を正当に評価できます。また、360度評価を導入することで、同僚や部下、上司からのフィードバックを多角的に収集し、ギバーの価値をより広い視点で把握する仕組みを整えます。
さらに、ギバーが自己犠牲的な行動に陥らないよう、業務量の調整やメンタルヘルスのケアも必要です。ギバーは他者を優先するあまり、自分の健康や成果を犠牲にしてしまうことがあります。これを防ぐために、定期的な業務量のモニタリングや、リフレッシュの機会を提供することが効果的です。
ギバー型リーダーの育成と組織への影響
現代の組織においては、「支援型リーダーシップ」がますます重要視されています。ギバー型リーダーは、部下や同僚の成長を支援し、心理的安全性の高い環境を作ることで、チーム全体のパフォーマンスを向上させます。
ギバー型リーダーの特徴は、信頼を基盤としたリーダーシップです。彼らは、部下の課題やニーズに耳を傾け、成長を後押しするための具体的な支援を惜しみません。また、短期的な利益にとらわれず、長期的な視点で組織やチームの成長を追求する姿勢が特徴的です。このようなリーダーが組織内に増えることで、持続可能な成果が生まれるでしょう。
ギバー型リーダーを育成するためには、コーチングスキルの習得を促進する研修や、自己管理能力を高めるプログラムを導入することが効果的です。彼らが他者を支援するだけでなく、自分自身を守りながら持続的にリーダーシップを発揮できるよう、人事部門がサポートを提供する必要があります。
ギバー型行動を促進する組織文化の形成
ギバー型行動を組織全体に広めるには、助け合いを奨励する仕組みを整えることが重要です。例えば、ピアボーナス制度を導入し、従業員同士が感謝の気持ちを示し合える仕組みを作ることで、助け合いの精神を育むことができます。また、「ギバーの輪」を拡大するような取り組み、つまり小さな親切や支援が組織全体に連鎖して広がる環境を整えることも効果的です。
さらに、評価制度の透明性を高めることも必要です。ギバーが損をせず、適切に評価される環境を整えることで、従業員のエンゲージメントを高め、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
まとめ:人事の役割と可能性
本書は、組織における人間関係や成功のメカニズムを深く考察した一冊です。人事の視点からは、ギバー型行動を促進し、組織全体に広げることで、長期的な成功を実現できる可能性が見えてきます。
特に重要なのは、ギバーを正当に評価し、持続的に活躍できる環境を整えることです。また、テイカーやマッチャーを含む多様な人材の特性を理解し、それぞれが最適な役割を果たせるよう配置することも、組織の成功に欠かせません。
本書が示す「与える人が成功する時代」という考え方は、人事の未来像を描く上で非常に有益です。個人の特性を最大限に活かし、組織全体の成功を支援する仕組みを構築することで、より持続可能で幸福感のある働き方を実現できるでしょう。人事部門がこの考え方を積極的に取り入れることで、社員一人ひとりが輝き、組織全体が成長する未来が広がっていくでしょう。
人間関係の3つのタイプ「ギバー」「マッチャー」「テイカー」を象徴的に表しています。左のギバーは、リソースを分け与える場面で寛大さを示し、温かい金色の背景がその精神を強調しています。中央のマッチャーは、秤を持って調停する姿で公平性を象徴し、平和な草原の風景がバランスを表現しています。右のテイカーは、利己的にリソースを引き寄せる場面で描かれ、影の多い背景がその性質を際立たせています。柔らかいパステルトーンが、これらのタイプ間の微妙な関係性を調和的に表現しています。