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【書籍】自己の荷は自己でー東井義雄の生き様と哲学ー宇治田透玄さん

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp220「7月3日:自分の荷は自分で背負って(宇治田透玄 東井義雄記念館館長)」を取り上げたいと思います。

 宇治田透玄氏の義父、東井義雄氏の深い信念と人生の哲学を紹介するものです。東井氏は「苦しみも悲しみも自分の荷は自分で背負う」という強い信条を持って生きた人物であり、この言葉は彼の生き様を象徴しています。自身の死を迎える際も、この哲学は変わりませんでしたが、息子が突然倒れ、二度と目覚めなくなった事件は、東井氏にとって計り知れない試練でした。

 1990(平成2)年に発生したこの悲劇は、東井氏の息子が小学校の体育の授業中に意識を失い、その後二度と目覚めることなくこの世を去ったというものです。この出来事は、ただでさえ深い悲しみと苦痛を背負っていた東井氏にさらなる重荷を加えました。しかし、東井氏はこの悲しみを公には決して見せず、自身の日記に綴ることで感情を処理しました。日記には、彼の内面の葛藤や、人生における深い洞察が詩的な形で表現されています。

 東井氏の生き方は、自分の運命を受け入れ、苦難を乗り越える強さを示しています。彼は息子の突然の喪失を通じて、悲しみの中にも価値を見出し、生命の尊さや家族の絆の重要性を改めて認識しました。息子の死後、東井氏は、日々の生活の中で当たり前とされがちなことの中に深い喜びを見出し、それを心から感謝するようになりました。この変化は、息子の妻(宇治田氏の義妹)が宇治田氏に対して述べた言葉、「悲しみを通して、初めて見さしてもらえる世界があるのですね」という感慨深い一言によっても象徴されています。

 東井氏の物語は、人生における苦難や悲しみをどのように受け入れ、それらを通じて何を学び取ることができるかについての深い洞察を私たちに提供しています。彼の生き様は、困難に直面したときに自己同情に陥ることなく、むしろそれを成長と自己超越の機会として捉えることの重要性を教えてくれます。また、家族の絆の深さと、命の繊細さを再認識させるとともに、人生のどんな瞬間にも価値があること、そしてそれらを全身で受け入れることの大切さを示しています。東井氏の信念と人生観は、悲しみや苦難の中にも希望を見出し、前向きに生きる力を私たちに与えてくれます。

当たり前に息を吸うことのありがたさ。家族がそろって一日を過ごせる素晴らしさ。そんな、それまでは見過ごしていた幸せを、かみしめていたのかもしれません。真の意味で命を喜び、どんなに辛い現実もかけ値なしの人生と思える、それを、悲しみを通した向こうの世界に見たのかもしれません。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p220より引用

人事としてどう考えるか

 この詩とその背景にある物語は、深い悲しみと苦しみを抱えながらも、それを個人の内面で受け止め、乗り越えることの重要性を教えてくれます。宇治田氏さんが記述した東井氏の生き方は、多くの人にとって大きな教訓となるでしょう。人生において、私たちは避けられない困難や予期せぬ挑戦に直面します。しかし、この物語は、そうした時でも自己の内面に向き合い、自身の責任としてそれを受け入れることの価値を示しています。

 人事の立場から考えると、この物語は職場でのリーダーシップや従業員のウェルビーイング(幸福度)の管理において重要な教訓を含んでいます。リーダーとして、またはHRのプロフェッショナルとして、私たちは従業員が直面する個人的な挑戦や職場でのストレスに対して、どのようにサポートし、対応するかを常に考えなければなりません。

個人の内面の強さと職場のウェルビーイング

 東井氏の物語は、個人の内面の強さがいかに重要であるかを示しています。職場では、従業員一人ひとりが異なる個人的な挑戦やストレスを抱えています。HRとして私たちができることは、従業員が自己の内面の強さを育て、個人的な挑戦を乗り越えられるよう支援することです。これには、メンタルヘルスのサポートプログラムの提供や、ストレス管理のためのワークショップの実施などが含まれます。

レジリエンス(回復力)の育成

 東井氏のように、自分の荷は自分で背負うという姿勢は、レジリエンスの重要な側面です。職場では、従業員が困難に直面したときに強さを持って立ち向かうことができるよう、レジリエンスを育む文化を促進することが重要です。これは、失敗から学び、成長する機会を提供することで実現できます。

コミュニケーションとサポートのネットワーク

 さらに、この物語は、困難な時期を乗り越える上でコミュニケーションとサポートのネットワークがいかに重要であるかを示しています。職場でのオープンなコミュニケーション文化を促進し、従業員が自身の感情や困難について話しやすい環境を作ることが重要です。また、同僚や上司との信頼関係を築くことで、従業員は支援を求めやすくなります。

まとめ

 東井氏の生き方とその教訓は、私たちが職場でどのように個人のウェルビーイングとレジリエンスを支援し、育むべきかについて多くの示唆を与えています。困難な時期に個人が直面する挑戦を乗り越える力は、自己の内面の強さから来るものですが、HRとして私たちは、その力を最大限に発揮できるようなサポート体制を提供する責任があります。従業員のメンタルヘルスをサポートし、レジリエンスを育むことは、健全で生産的な職場環境の構築に不可欠です。

宇治田氏が義父・東井義雄氏の深い信念と人生の哲学を語る様子を描いています。美術館の中で、東井氏の人生と彼の強い信条を反映した展示物や記念品に囲まれています。宇治田氏は、東井氏の哲学を象徴する展示品の近くに立ち、それに向かって身振り手振りをしています。反映的で薄暗い雰囲気が漂う中、希望と人間の精神の不屈の強さを示唆する光があります。背景には、東井氏のの息子が学校の体育の授業中に遭遇した悲劇と、それが彼にもたらした深い内省を象徴する要素が微妙に取り入れられており、彼の日記からの詩的な抜粋が展示されています。全体の雰囲気は、逆境に直面した際の反省、回復力、そして意味の探求の一つです。


1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。




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