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【書籍】心の持ちようが運を変える: 宇野千代氏の実践哲学

 『人生百年時代の生き方の教科書』(藤尾秀昭監修、致知出版社、2024年)から、「運がよくなる秘訣(宇野千代 作家)」p18を取り上げます。

 ここでは、宇野氏が、自身の経験をもとに、運を良くするための心の持ちようや、人生をスムーズに渡っていくためのコツについて深く語っています。宇野氏の人生観は、ただ漠然としたポジティブな思考ではなく、具体的な体験と観察に基づいており、その中から得た知見が丁寧に示されています。特に、失恋や不運という誰にでも起こり得る出来事に対して、どのように向き合い、乗り越えるべきかを実感を込めて語っている点が印象的であります。

「失恋」について

 失恋は多くの人にとって苦しい経験ですが、宇野氏はそれを一人で静かに受け入れる方法を選びました。失恋した際、他人に「あの人はひどい」と訴えて歩く人がいますが、それでは失恋の痛みを消すことができないと言います。むしろ、周囲の人から「彼女は捨てられたのだな」と笑われる結果になってしまうことが多いと述べています。この点で、他人の評価や反応に頼るのではなく、自分自身の感情と向き合うことの重要性を説いています。自身も、失恋の際には一人で誰にも見られない場所で、声を上げて泣いたと述懐しています。その際、身体の中にあった感情のしこりが解放され、一晩中泣くことで心が軽くなったと言います。このプロセスが癒しの手段であり、翌日にはお化粧をして、一番素敵な着物を着て外出できるようになったと語っています。このように、失恋を乗り越えるためには、まずは感情をしっかりと感じ、涙を流すことで心を浄化することが大切だとしています。

人生における「運」について

 宇野氏は、「失恋するのではないか」と常に恐れていると、実際に失恋してしまうという不思議な現象に気づいたと言います。これは、心の中で強く思っていることが現実に引き寄せられるように感じるという考えであり、運も同様に、自分の思考次第で良くも悪くもなると述べています。例として、船乗りである弟の話を紹介します。船の舵を誤って衝突事故を起こした経験のある人は、その後、同じ船会社で再び舵を取らせてもらえなくなると言います。それは、再び衝突するのではないかと恐れていると、本当にまた事故が起きてしまうからだと述べています。これは一種の真理であり、心の中で不安や恐れを持ち続けると、それが現実になるということを示しています。だからこそ、常に前向きで、自分は運がいいと思うことが、実際に運を良くするためには欠かせない要素だと強調しています。運が悪いと嘆く人を嫌い、運というものは自分で作るものだと宇野氏は言います。自分の行動や考え方が悪いからこそ、運が悪くなるということなのです。

 このように、運を良くするためには常に前向きな姿勢を保ち、「自分は運がいい」と信じることが必要だと説いています。人間の心は、思ったことが現実に反映される傾向があるため、運が悪いと思っていると本当にそうなり、逆に運が良いと思えば、どんな状況でも運が開けてくるのです。他人からどれほど不運に見られていても、心の中で「自分は本当に運がいい」と思い続けることが、結果的に幸運を引き寄せる秘訣であると述べています。

ニューヨークでの感動的な体験

 ニューヨークの大通りを観光バスで見物していた際、隣に座っていた若い女性が非常に幸福そうな表情をしていたのを見て、深く感動したと言います。その女性は美しく化粧をし、花飾りがたくさんついた帽子をかぶり、満面の笑みを浮かべていました。しかし、その女性には両腕が肩からすっぽりと切り落とされたような状態だったのです。それにもかかわらず、彼女はまるで何事もないかのように幸せそうな顔をしており、「私は両手がないけれど、それでもこんなに良い天気で気持ちが良いのに、幸せになってはいけない理由があるでしょうか」とでも言っているかのようでした。この女性の姿に深く感銘を受け、人間には誰にでも幸福になる権利があると強く感じたと言います。身体的な障害や困難があっても、心の持ちようによっては十分に幸福を感じることができるという教訓を、このエピソードから学んだ述べています。

 この体験を通して、幸福は外的な条件ではなく、内面的な心の在り方によって決まるものであるという真理を再確認しました。人生において、どんなに厳しい状況にあっても、心が幸福であればそれに引き寄せられるように良い運が巡ってくるという考え方を宇野氏は強調しています。

人事の視点から考えること

 今回の宇野氏の体験は、個人の人生における幸せや成功を追求する上で非常に重要なメッセージを含んでいますが、同時に企業における人事管理や人材開発の観点からも非常に有益であるといえます。現代の企業は、単に業務の効率や生産性を向上させるだけでなく、社員一人ひとりの心の健康やモチベーション、さらには自己成長をいかにサポートするかが、組織の長期的な成功において大きな役割を果たす時代となっています。宇野氏の教えに基づいた心の持ちようを考察することで、組織の文化や社員の成長、そして全体のパフォーマンス向上に寄与する新たなアプローチが見えてきます。いくつかの観点で考察してみます。

1. 前向きなマインドセットの醸成と維持

 宇野氏が強調する「運は自分で作り出すもの」という考え方は、社員の自己効力感や前向きなマインドセットを育むための大きなヒントを提供しています。社員が自己効力感を持つことで、自分の仕事や人生に対する責任感が強まり、自らの行動や考え方によって結果を変えることができると感じられるようになります。これにより、単なる受け身の姿勢から抜け出し、積極的に問題に取り組む意欲や挑戦心が芽生えます。

 この自己効力感を強化するために、積極的なサポートが求められます。例えば、研修やキャリア開発プログラムにおいて、社員がポジティブなマインドセットを育てることを目標とするトレーニングを導入することが有効です。
 具体的には、フィードバックの方法を工夫し、否定的な点を強調するのではなく、改善点や成長の余地を前向きに伝えることで、社員が自己を肯定的に評価できるようにします。これにより、社員は自分がコントロールできる範囲内で努力し、成功を収められると感じ、結果としてモチベーションが高まります。また、定期的なメンタルヘルスサポートやワークショップを開催することで、社員が心の健康を保ちながら前向きに働くためのスキルを身に着けられるよう支援することも重要です。

 さらに、運を自ら引き寄せるための心構えを伝えることも重要でしょう。宇野氏の教えにあるように、常に「自分は運が良い」と信じることが、実際に運を引き寄せるための大切な要素であると言います。この考え方は、社員が自己の能力や可能性を信じ、困難に直面しても前向きに取り組む姿勢を持つことを促進する上で有効です。
 例えば、企業内の成功事例や挑戦を乗り越えたエピソードを共有する場を設け、社員同士が前向きな姿勢を共有し合える文化を形成することが効果的です。

2. 失敗からの学びを促進し、成長に繋げる

 宇野氏が述べているように、失恋や失敗に対する対応は、その後の人生やキャリアにおいて非常に重要なポイントとなります。宇野氏は失恋の際、一人で泣き、感情を解放することで次の日には前向きに振る舞えるようになったと言いますが、この考え方は、ビジネスの現場においても同じことがいえます。社員が失敗や困難に直面した際に、それを乗り越え、学びに変えるプロセスをしっかりとサポートすることが重要になります。

 例えば、社員がプロジェクトで失敗した場合、ただ単にその失敗を指摘するだけではなく、失敗から得られる教訓を一緒に探し出し、それを今後の成長にどう結びつけていけるかを考える機会を提供することが重要です。フィードバックの場で、失敗をネガティブに捉えるのではなく、それを次の成功へのステップと捉えるようなポジティブなフィードバックを行うことで、社員の自尊心を守りつつ成長を促すことができます。宇野氏が述べているように、失敗を恐れ続けると、また同じ失敗を繰り返す可能性が高くなりますが、逆に失敗をチャンスと捉え、自分の成長に結びつけられるようになると、同じ失敗を二度と繰り返さない力が身に付くのです。

 また、失敗を共有し、学びを組織全体に広める文化を作ることも重要です。例えば、失敗事例を共有する「失敗学」のワークショップや定期的なレビュー会議を開催し、失敗を恥じることなくオープンに話し合える環境を提供します。このような取り組みを通じて、社員が失敗を恐れず挑戦する文化を育み、結果的に組織全体のイノベーションや成長を促進することが可能です。

3. 心の健康と幸福感を支援する取り組み

 宇野氏がニューヨークで体験した感動的なエピソード、すなわち両手がないにもかかわらず幸福を感じていた女性の話は、現代のビジネスにおけるメンタルヘルスの問題に通じる重要な教訓を含んでいます。職場において、社員一人ひとりが異なる背景や困難を抱えている可能性がありますが、それに対して組織がどのようにサポートを提供するかは、社員の幸福感やパフォーマンスに直結します。

 例えば、社員のメンタルヘルスを支援するための仕組みや制度を整備することが求められます。カウンセリングサービスの提供やメンタルヘルスに関する研修の実施、定期的なストレスチェックなど、社員が心の健康を維持できるようなサポート体制を整えることが重要です。さらに、ワークライフバランスを考慮した柔軟な働き方の導入や、有給休暇の取得促進など、社員が心身ともにリフレッシュできる環境を提供することも大切です。

 宇野氏が体験したように、どんなに困難な状況に置かれていても、心の持ちよう次第で幸福を感じることができるというメッセージは、社員のメンタルヘルスケアにおいても重要な指針となります。
 社員が自らの心の状態を客観的に捉え、前向きに捉えるスキルを習得できるよう支援する役割を担っています。例えば、マインドフルネスやリラクゼーションのテクニックを紹介するワークショップを定期的に開催し、社員が自分自身の心の健康に気を配るための手法を学べる機会を提供することが考えられます。

4. 運を引き寄せる組織文化の構築

 宇野氏の「運は自分で作り出すもの」という教えは、組織全体の文化づくりにも非常に有効です。社員一人ひとりが「自分は運が良い」と感じられるような前向きな職場環境を整えることで、個々の成長だけでなく、組織全体のパフォーマンスも向上します。ポジティブな思考を育む組織文化は、チャレンジ精神を促進し、社員が自ら進んで新しい課題に取り組む姿勢を生み出します。

 組織文化の中で「運を引き寄せる」ためには、成功体験やポジティブなフィードバックを積極的に共有することが有効です。例えば、成功事例を社内で広く共有するための定期的なミーティングを開催し、各部署やプロジェクトチームの成功体験を共有する場を設けることで、社員一人ひとりが「自分も成功できる」と感じられるようにします。また、チャレンジを奨励するインセンティブ制度や、リスクを取って挑戦した社員を評価する仕組みを導入することで、挑戦がポジティブなものとして受け入れられる文化を形成します。

 さらに、失敗を恐れない文化を育てることも重要です。社員が失敗を恐れずに挑戦し続けることで、結果的に「運が良い」と感じる成功体験が増えていきます。挑戦することが評価され、失敗が許容される環境を整えることで、社員の挑戦意欲が高まり、運を引き寄せる力が組織全体に浸透していきます。

まとめ

 宇野氏のメッセージは、個人の生活だけでなく、企業の人事管理や組織文化の形成においても非常に有用です。社員一人ひとりが前向きなマインドセットを持ち、失敗から学び、心の健康を保ちながら働ける環境を提供することが、組織の成長と成功に直結していくでしょう。


静かに自分の感情と向き合う女性です。柔らかい陽の光が部屋に差し込み、涙を流す彼女の姿が、心の解放と再生のプロセスを象徴しています。鏡の前には美しい着物が掛けられ、明日への新たな一歩を感じさせます。背景に見える庭の風景が、今後の希望と前向きな未来を示唆しており、全体的に穏やかで癒しのある雰囲気が漂っています。



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