はるかが・・繫ぐ ε (epsilon)
「実の父と同じ名前だから反対してるのかしら?」
「そういうわけでもないだろう・・。」
「ね、なんか事情(わけ)ありそうでしょ?」
浦上はそこで少し飛鳥を制しつつ言った。
「どちらにせよ、その内海君の秘密を村野君から聞く必要があるだろう。はるかがつきあってると言っても、あの子はまだ高校生なんだから。」
「あら、お父さん、お言葉ですけど、咲ねえが耕作さんと恋人同士になったのも、あたしが旦那とつきあったのも、みんな高校生の時だったのよ。はるかだってもう高校3年よ、考えなくっちゃ。」
「飛鳥・・、はるかはもっと身持ちが堅いわよ。気だても良いし。それに、あなた方のころとは、ずいぶん時代も違うわよ。」
脇の方から、母の裕子が飛鳥をたしなめるように入ってきた。
「お母さんは、はるかに甘いからなぁ・・。ダメよ、今時の高校生を甘やかしちゃ。うちの旦那なんか毎日ヒーヒー言ってるわ。」
「大変みたいね。ニュースやら聞くと。」
「そう、援助交際だとかガングロだとか、センター街あたりに行くと吐き気催す高校生たっくさんいるわ。」
飛鳥は吐き捨てるように言った。
「はるかはそうならないだけまだマシでしょ?」
「ま、そりゃそうだけど・・。うん、見た目はチャラいけど、どこか凜としてる。そこはさすがお姉の娘。」
やがて、階段を下りる音がして、落ち着いたブラウンのワンピースを着たはるかが降りてきた。はるかは飛鳥にウインクしてポーズとりながら、いたずらっぽく笑った。
「お姉さま?これならよろしくて?」
「おや、馬子にも衣装だね。・・・・あれ?」
飛鳥は驚いたようにはるかを見つめた。
浦上も「ほう」と一言、食い入るようにはるかを見ていた。裕子は少し目頭を押さえてつぶやいた。
「咲だわ・・・。」
はるかは、自分の母親の若い頃の服を着て、階下に降りてきたのだった。
「・・あんた、それ、どこから・・?」
「うん、納戸に衣装ケースがあったでしょ?お姉さん方の古い服の入った・・・。」
「何でまたそんなかび臭いものをあさってたの?」
「ていうかー、今ね古着って流行ってるんだよ。だから、何かいいのないかなー?って探してたら、素敵でしょ?これ?お姉さんの服?」
「違うわよ、あんたのお母さんの・・・。」
「マジ本気?・・へぇー・・・・。」
はるかは驚いたように姿見を見た。
「70年っぽく決めてみたんだけど、そんじゃあ、ママってものすごくセンスよかったのね。驚いたわ。」
「そりゃそうよ、咲ねえはあたしにとっても憧れだったもの。」
「おじいさま、これで大丈夫?」
「・・ああ、その衣装はうってつけだ。」
「へへへへ・・。」
はるかは、小さいときからおじいちゃん子で、浦上からほめられることがなによりも嬉しい事であった。やがて、父母の供養すべく、近くのチャペルに向かった。