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#7 あたしの名前の理由

   そういえば、日記を発見して不思議なことがあった。
あたしのチチは柴田耕作という名前だ。ということは判明した。日記の署名にもそう書いてある。

 ハハの浦上咲は、なぜ柴田姓ではないのか。そして、娘のあたしはなぜ「浦上はるか」なのかという謎だ。

 それを一気に打ち破る記述があった。


僕と咲は正式に夫婦になり、僕は「浦上耕作」と名乗ることになった。
そのいきさつは、何のことはない、至極簡単な理由からだった

「こうさく、あたしの名字が変わるか、こうさくの名字が変わるか、運命に賭けてみない?」

 咲はそう切り出した。考えればおもしろい提案だった。婚姻届には、どちらの名字を選択するのかという欄があった。これは法律上、「どちらかの姓を名乗る」という条項があるからだ。

 あたりまえのように、夫の姓を名乗るものだと思ってはいたが、考えれば納得のいく話でもあった。そして、それは、「イエ」という妙な流れから、「個々のつながり」ということを改めて感じることだからだ。だから、僕は咲の提案に同意した。

「で、どう決めるの?」

そう聞くと、咲はまたあの屈託のない笑みを浮かべて、さらっと言った。

「じゃんけん」
「・・は?・・」
そう言って、咲は市役所のロビーで大きな声で言った
「さぁ、じゃんけんだよ、勝った方の名字にしよう。・・じゃ~んけん。」

 咲が勝った。僕がグーで咲がパー。

「うーんこれからあたしは、こうさくをしっかりと包んでいくわ。あなたはあたしの心の拠り所の塊でいて・・・。よろしく!浦上耕作さん。」
「ははは、うまい言い方だな。で、ところで僕がチョキ出したら、なんて言った?」

 咲はくすくす笑ってこういった。
「これからあたしの運命を、あなたのそのはさみで切り開いていって!柴田咲は心から頼りにしてるぞ。かな。」
 市役所のロビーではあったが、その場で僕は咲を抱きしめていた。
「咲、どっちみちパー出すつもりだったな。」
「あは、わかった?」
「今な。」
「いい加減恥ずかしいから放してね。」

 この話を空港ロビーで浦上先生に話すと大笑いされた。まぁ、考えれば僕は学生時代から浦上家の一員になっていたようなものだから、それも良いかとは思っていた。
 また、咲の結婚へのメッセージもどちらも変わらないものだったからだ。


 しかし、あたしにはちょっとした疑問が残っていた。チチは、ひょっとしたら「改名する理由」があったのではなかろうか、ということだ。

 なんとなく出来過ぎの展開に、ひょっとしたらこの破られたページを、カモフラージュしているような予感がするからだ。

 あたしは、本丸に乗り込んでいくことにして、さっそく参謀ニーチェちゃんと作戦会議をしようと思った。
もちろん「漂泊幾花」をリュックに忍ばせてだ。

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