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#5 見つけた父の日記

それは思わぬ所から見つかったんだ。

・・・・これって・・日記じゃん・・。

 あたしは固唾を呑んだ。
叔母飛鳥おねえちゃんが「そんなに知りたいのなら、まずは実家大岡山に行ってみることかなぁ。」
 そう言うからには、実はおねえちゃんもホントのことは、よくわからないのかもしれない。
 ましてや、鬼の村野センセおじさまなんて、絶対語ってはくれないだろう。そうなると、資料は実際に発掘するしか無いのだ。

 ・・・で、見つけた・・。

 思わぬ「漂泊」のつづき・・・。

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 梅雨明けの刺すような日差しが眩しかった。咲との待ち合わせの十二時にはまだ時間がかなりあったが、僕はいつの間にか自由が丘のロータリーに、暑さに身を曝しながら何をするわけでもなくぼんやりしていた。

 知らないうちに街はすっかり夏一色であり、道行く高校生もみな白い夏服で、街全体が明るくまばゆいているかのように見えた。僕は、ポケットから煙草ハイライトを取り出し、ゆっくりと火をつけた。

「あれーー?先輩!」

 背後からいきなり関西訛の男の声がした。僕は思わず振り向くと、そこに、懐かしい『戦友』の顔があった。
三里塚なりたから一緒に逃避行を行った宇田川晋介だった。

「宇田川ー、なんでここに?」
宇田川はがははと大きく笑って言った。
「先輩ー、わしが殺されたとでも思うてるん?なんか、そう言う顔してまっせ。」
「・・・・あはは、それもそうか。」

 僕は笑った。宇田川があの時、警察官を殴り、連行されたとき、僕は彼とはもう会うこともないかと思っていた。考えれば、僕が拘留されたのと大差ない時間で開放されたのは多分間違いないことは想像できた。

「いやー、わしが殴ったポリ、空手部の先輩やったんだす。まぁー、えらいしぼられましたわぁ。」
「あはは、でも、許してくれただろう。」
「へぇ、ま、体育会のええとこですな。」
宇田川は大笑いした。
「で、先輩こそ何してはるんですか?例の『ふじ色の旅』どうなりましたん・・。」
「ははは、俺もあのあと捕まったんだよ。」
「あちゃ・・。わし、骨折り損だったかいなぁ・・。」 「いや・・そうでもないさ、おまえには感謝してる。・・・現にな・・。」

 僕は宇田川の肩越しに咲の姿を確認した。

咲は僕の姿を見つけると大きく手を振りながら走り寄ってきた。
「こ・う・さ・くぅー」
咲は、まわりが振り返るくらい大きな声で僕を呼んだ。

 宇田川が素っ頓狂な顔で僕を見た。
「宇田川、例の咲だよ。」
「へ・・・・。」
「まぁ、詳しい話は今度するとして、とにかくおまえのおかげで、何とかふじ色の旅はできた・・・。」
「ほな・・・良かったわ・・・。」
宇田川は笑った。
「・・・せやけど・・・。」
宇田川がそう言いかけた時、咲は僕の傍らに到着した。
「おまたせ・・・、耕作。」
「・・・・・。」

 僕は宇田川を気にしつつ、咲に言った。
「咲・・、彼が俺の『戦友』だよ。」
と、素早く紹介した。
「ああ・・・ども・・。」
咲はそこで沁みいるような笑みを浮かべた。
「わぁ・・・宇田川さん。ですよね?」
「おはつう、先輩からよう話は聞きましてん・・・、せやけど、えらい別嬪はんやなぁ、先輩が夢中になるの無理ないわ。がはは。」
「やだ・・。」

 咲は珍しく照れた顔をした。
宇田川はそこでまた笑うと、僕にメモを渡して、
「先輩、この暑いのにこれ以上見せつけられたら、暑うてかなわんわ、わしは退散するよって、がはは。これ、わしの連絡先ですさかい、今度連絡しといてや。・・・先輩には聞きたい話もあるよってにな。・・ほな。」
「・・ああ、いいよ。」
宇田川は笑いながらそう言い残すと、西口から駅の中に消えていった。咲はその姿を見送りながら、僕の方を向いて微笑んだ。
「・・いいね、・・『戦友』か・・・。」
咲はすっかり夏の装いだった。僕は、胸元と小作りな肩が露わになっている咲の服装にしばし惑いながら、
はっきり言って目のやり場に困っていた。
「・・なぁに?耕作。なんかヘン・・。」

咲は僕の様子を敏感に察知してくすくす笑った。
「・・咲・・。」
「なぁに?」
「露出度が・・・高いぞ。」
咲ははじけたように笑った。
「バカねぇ・・、耕作はあたしの恥ずかしいところまで知ってるくせに、何で照れてるの?。」
「・・それは・・、シュチエーションの違いって言うか、何というか・・・。」

 僕はしどろもどろに応えた。咲はいたずらっぽく笑うと「久しぶりのデートよ・・。楽しもう・・・ね?」
咲はそう言うと僕の腕にからみついた。咲は『旅』から帰って、確かにどこか変わっていたことは確かだった。それは、悪い意味ではなく、それこそマイナス×マイナスの変化であることは僕は実感していた。

このページから、これからの漂泊幾花の物語が、あたしに向かって紡がれていくのだ


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