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テレビCMで話題のPinterestのUI/UXやアルゴリズムの変化

最近PinterestのCMがテレビで流れるようになりました。
Twitterやインスタと違って話題になることが少ないSNS(PinterestはSNSではないと言ってますが)なので驚きましたが、実は昨今の巣篭り需要で調子が良いサービスです。元々ファッションやインテリア、料理といったジャンルから始まっているだけあって巣篭り需要でのユーザー数が増えており、通販の需要高騰も追い風になっています。

Pinterestは今年で創業11年目を迎えました。当初は一部女性の間で流行っていたウェブサービスでしたが、間もなくFacebookやTwitterを凌ぐ爆発的な普及を経て、2020年第四四半期のMAU数は4億5千万人、毎月のサービス内平均検索数は20億回(2021年1月現在)という世界的なプラットフォームに成長しました。

その11年の中で様々なUI/UX、機能、アルゴリズムのアップデートが繰り返されているのですが、UI/UXではAmazonやNetflix、アルゴリズムではGoogleの陰に隠れがちで、その変化はあまり知られていません。しかしアプリ版の開発、DM機能の実装、ディープラーニング導入など各時代の最先端を独自の形で導入してきたPinterestの動きは、今でも学ぶべき部分が多々あります。

という訳で本稿では、過去11年にわたってPinterestがサービス内で行ってきた仕様変更とその意図について、かいつまんで紹介したいと思います!

SNSとも単純なWebサービスとも言い難い独自のポジションを持ったPinterestがいかに進化してきたかを見ることで、皆さんの運用しているサービスのヒントになるかも知れません。

UI/UXの変化

まずはUI/UX。『ピンでアイデアを保存する』というのがサービスの基本的な使い方なのは変わりませんが、招待されたユーザーにのみ利用されていたベータ版からは非常に大きな変化がありました。

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▲ ローンチ当時のPinterestトップページ。コメントや投稿者のサムネなど、各ピンで表示される情報量が今より大分多いことが分かります(出典:Web Archivesよりスクリーンショット)。

フォームの簡略化(2010年)

ピンを公開する際にアイデアの説明文を追加する機能ですが、元々入力フォームはピンの『タイトル』と『キャプション』の2つに分かれていました。それが今回のでアップデートで『説明文(description)』という入力フィールドに統一した訳です。これはユーザーのエンゲージメントを計測したところ、フォームを分ける意味がないことが判明したためでした(※2021年6月現在、ブラウザ版では『説明文』フォームのみですがアンドロイド版アプリでは『タイトル』『説明文』が復活)。

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▲ 該当時のアップデート時のキャプチャ(出典:Pinterestニュースルームより)。

ちなみに当時はテキストに加え、ピンの関連タグも入力することになっていました。当アップデートではこのタグ編集機能も改善され、コンマで分けるだけで複数のタグを素早く付けられる仕様になりました。が、このタグ機能もフォーム同様、現在は廃止されています。

ホームから直接コメントを投稿可能に(2010年)

ピンへのコメント機能がホーム(≒ピンの一覧画面)から直接出来るようになったというアップデート。まだ表示されるピンがパーソナライズされる前だったこともあり、ピンについて他ユーザーと交流して情報交換することは重要でした。この直接投稿機能も現在は廃止されており、、、と言うか、現在Pinterestのコメント欄自体あまり使われていない気がします。

アンドロイド版アプリのUI変更(2014年)

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▲ アップデート前(左)と後(右)のホーム画面の比較(出典:Pinterestニュースルームより)。

ピン以外に目を向けると、少し時代が下りまして2014年にアンドロイド版アプリのUI変更がありました。代表的な変更点として画面上部のナビゲーションが2021年6月現在の最新verと同じ項目になっています。公式曰く『目的のものを見つけやすくするためのナビの簡略化』だそうです。

ここまで見て気付いた方もいらっしゃるかも知れませんが、PinterestのUI/UX改善は徹底して『削ぎ落し』によるものです。先述したローンチ当初のホーム画面はピン一つ一つの情報量が多く、現在のものと比べるとかなりゴチャゴチャしています。ユーザーエンゲージメントを観察し、UI/UXを『変える』のではなく『減らす』ことが、同サービスが一貫して行っていることのように思えます。Twitterはツイート時のオプションが増えてますし、Facebookもリアクションボタンが年々増えてますよね(笑)。その点でもやはり『PinterestはSNSではない』のかも知れません。

“Pin it”→“Save”ボタンへ(2016年)

とはいえ勿論減らすだけではなく、残ったインターフェイスにも大胆な変更を加えています。

最近使い始めた方は知らないと思いますが、かつて“Save”ボタン(日本語では『保存』)は“Pin it” と表示されていました。ボードに留めるからPinで伝わりそうなものですが、サービス元はPinという言葉が言語よっては一般的じゃないのでは?という仮説を思い立ち、リサーチの末Saveに表記を一新しました。確かに新規ユーザーからすると『これピンするね!』と言われても何が起こるのか分かりにくいですよね。Pinは名詞の他に動詞として『ピン留めする』という意味もあるのですが、この辺の言葉の壁も背景にあるのかも知れません。

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▲ 2014年12月のiOS版アプリ。昔は“Pin it”(日本語版では『ピンを追加』)でした(出典:Pinterestニュースルームより)。

ごく小さな変更ですが、これはTwitterが『ツイート』ボタンのテキストを『投稿する』に変えるようなもので、機能が同じとはいえプラットフォーム内で十分定着していたワードを変更するのはなかなか勇気がいるのではないでしょうか。

“Like”ボタン削除(2017年)

かつて各ピンに存在していた“Like”ボタンを、“Pin it”廃止の翌年に削除。理由は公式曰く『“Save”と紛らわしいから』で、確かに一般的にプラットフォームではLike≒保存、ブックマークの意味もあるので違いが分かりにくいですね。なお“Like”したアイデア自体は"Your Pinterest Likes”として、他のユーザーからは見れないシークレットボードの体で残り続けました。

『ピックアップ』タブ実装(2016年)

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▲ ピックアップタブ(出典:PR TIMESリリースより)

虫眼鏡アイコンをタップすると表示される、各ジャンルのキュレーターやインフルエンサーが選んだピン、ボードの一覧タブ。Pinterestには各ジャンルのキュレーターが在籍しており、それぞれ選りすぐりのピンをピックアップしてエンゲージメントの促進を行っています。それまで各ユーザーに任せていたアイデア探しを運営元がトレンドに合わせて提示するという、今までありそうで無かった画期的なUXです。元々ファッション、料理、DIYから始まっているサービスなので相性も良さそうですね。2021年6月現在はそうした代表的なジャンルに加え、ユーザーの行動履歴からパーソナライズしたと思われる『おすすめのアイデア』という括りのボードも表示されています。

"Today”タブ実装(2020年)

直近で大きかったUXの追加は、よく検索されているトピックや世間のイベントをキュレーターやエディターが反映する"Today”タブ。毎日更新されその日のトレンドを反映したピンを表示しています。

同年3月の実装ということで、時期的に新型コロナウィルスが世界中で確認され始めた頃です。この頃からいわゆる巣篭りやステイホームが行われるようになり、自炊やホームスクールの需要が増え、そのアイデアを探すPinterestのユーザー数も大きく伸びるという現象が見られました。今回のアップデートはこの急激に増えたニーズに対応したものとされています。

新型コロナウィルスは結果的に私たちの生活を大きく変えましたが、冒頭で述べたようにPinterestには追い風となっており、同サービスにとって大きな転機と言えるでしょう。

機能の変化

続いて機能ですが、UI/UXやアルゴリズムと分けることが難しいので厳密には混ざり合ったものになります。ここでは明確に機能と呼べるもののみ挙げていきます。

アプリ版にメンション機能と通知機能が実装(2014年)

今となっては当たり前ですが、メンション機能によるプラットフォーム上でのユーザー間のやり取り、バックグラウンド状態からアプリに"引き戻す”通知機能です。アプリ滞在時間や忠実度を促進させるツールとして現在も実装されていますが、FacebookやTwitterに比べると導入時期が少し遅いかもしれません。

グループチャットとPinの送信(2014年)

この前年に実装されたDMに関するアップデートで、それまで1on1のみ可能だったメッセージを複数のユーザー間でできるように、またPinを直接DMで送ったりメッセージ内でPinの検索・引用ができるようになりました。

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▲ グループチャットでPinを送っているところ(出典:Pinterest公式YouTubeよりキャプチャ)。

個人的に後者は重要な変更だと思います。例えば友人同士でキャンプを企画する際、用具の検討や過ごし方に関するピン探しやその共有、話し合い、購入が一つのアプリ内(もしくはアプリを起点に)で済むことを意味するからです。LineやFacebookだとこういう使い方は出来ませんから、機能自体はプラットフォームサービスでもありふれたものですが、実装のメリットはまさにPinterestならでは。

アルゴリズムの変化

とあるテクノロジー分野のベテランライター曰く、シリコンバレーの企業で最も成功しているアルゴリズムはGoogleではなくこのPinterest。ディープラーニングやパーソナライズの導入は勿論ですが、PInterestほどユーザーの要望をアルゴリズムに取り入れているサービスはありません。

Pinterestのアルゴリズムは、主に以下4つの要素から働いています。

①ドメイン・クオリティ…ピンへのエンゲージメントが多い、つまり人気が高ければ高いほどピンにリンクされているWebサイトが『良い』とジャッジされ、高評価の対象となります。

②ピン・クオリティ…①と似ていますが、こちらはWebサイトではなくピン単体のエンゲージメント数が基準。とりわけフォロワーの反応が重視されているらしく、フォロワーのリアクションが良いピンほどその他ユーザーのアプリでも表示されやすくなります。また、例えば“Save”ボタンは特にポジティブなものとして評価されるなど、同じエンゲージメントでも細かく評点が分けられているようです。ちなみに低品質なピンを投稿するとアルゴリズムからの評価も悪くなります。この辺はSEOと同じようなイメージですね。

③ピナー・クオリティ…『ピナー』はいわゆるピン投稿者のことで、どれくらいの頻度で投稿しているのか、ユーザーのリアクションはどうか、そして他ユーザーとどれくらい関わりを持っているかが見られます。なおPinterest側は一日15~25回ほどの投稿数が望ましいと述べています。他のSNSに比べるとえげつない数…(;´・ω・)

④トピックとの関連性…ユーザーの検索クエリとピンの関連性。具体的にはピンに記載されたキーワードとハッシュタグを分析し反映しています。

こうして見るとSEOに似ていますが、厳密には数百あると言われているSEO対策よりもかなりシンプルに見えます。特に大きく違うのは、検索エンジンでは『検索クエリに対して"正しい"内容を載せていること(専門性)』が重要視される一方、Pinterestではコンテンツ(=ピン)の正しさについては触れていないことがあります。これはPinterestを利用するユーザーの求める答えが1つではない故とも言え、現にPinterestでもこの相違は認めています。

ローンチ当初から目指すアルゴリズムの理想形

ローンチ当初はユーザー全体に人気のあるピンやピナーが優先的にホーム画面や検索結果に表示されるアルゴリズムでした。しかし初期はユーザー数自体少なく、そのユーザーも女性割合が高かったため、トピックにはかなり偏りが見られたと言います。この頃からPinterestが目指していたのは『多様なユーザーの多様な興味に応える』アルゴリズムでした。これからアップデートの変化を紹介しますが、どれもそんなスタンスで実装されたものだということが分かると思います。

ピンの表示優先度については、Pinterestでは純粋な検索以外にも豊富なパーソナライズ機能が実装されています。アルゴリズムの概要を把握した上でこれまで追加されてきた機能をいくつか見ていきましょう。

“Visual Search”(2015年)

ピンの画像内から任意の範囲をトリミングし、そこに写ったオブジェクトに似たピンを表示してくれる機能。

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▲ 例えば上の写真から照明の部分をトリミングすると、似た形のプロダクトを一覧表示します。

言うまでも無くディープラーニングが利用されています。例えば『ソファー』を取り上げると、ソファの形、色、大きさに加えピンに併記されている説明文(『3人掛けの北欧系ソファー』など)からアノテーションを行い、AIにソファを学習させています。ちなみに最後のテキスト情報は非常に重要で、このお陰でかなりの学習データ数を省略することに成功しているそうです。

因みにGoogleの“Lens”のように、自身のデバイスで撮影した写真による画像検索も実装されています。Pinterestは画像検索こそ検索の『未来』であると考えており、加速度的に増加するピンをAIに学習させその精度を日々高めていると語っています。

“Home Feed Tuner” (2019年)

Pinterestのホーム画面は、ユーザーの過去の検索履歴やボード、フォロー中のピナーに則ってパーソナライズされています。この時起きるのが、ほんの一時期検索や保存したに過ぎないジャンルがいつまでも提示され続けてしまうことです。例えば友人の結婚式が決まり、二次会のコーデどうしよう…と思ってアイデアを探したまでは良いものの、開催が終わった後までコーデのピンばかり表示され続けたらうっとおしいですよね。

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▲『ボード』『履歴』『トピック』『プロフィール』それぞれの各ジャンルをカスタマイズできます。

この点を解消したのが“Home Feed Tuner”。語義通り設定からホーム画面に表示されるトピック(レコメンド含む)を調整できる機能で、先述のパーソナライズに使われる要素で不要なトピックを任意で除外することができます。これにより、予めノイズになり得るトピックをクリアした快適なブラウジングが実現するという訳です(^.^)

“Skin Tone” 肌の色によるソート(2020年)

Pinterestは元より女性ユーザーが多かったこともあり、美容やコスメ関係のピンは投稿数・検索数共に大きなウェイトを占めています。一方サービスが世界レベルになるにつれ、ユーザーの人種も多様化し、先述の“Pin it”ボタンのようにリリース地域が広すぎる故の弊害も生まれてきました。2020年に実装された“Skin Tone”は、検索前にアプリ上に表示された自分の肌色を選択することで、自身の色合いに合ったピンのみをソートしてくれる機能。ここ5年ほど続いているディープラーニングを活用したアップデートの一つです。

先ほどPinterestのアルゴリズムの概要を紹介しましたが、正直ざっくりし過ぎという印象を持った方も多いんじゃないでしょうか。実際アルゴリズムへの最適化に関する情報の少なさ(人による?)については一部批判も出ているそうで、現在EC商圏の拡大で急成長しているところなので、特にビジネスピナーにとっては是非とも積極的な公開を期待したいところです。

Pinterestの変化から学べることとは

PinterestはSNSっぽくてSNSではないという意味では新しいジャンルのサービスであり、ベストプラクティスが分からない中で多様化するユーザビリティをどう最適化するか、という点ではある意味SNS以上にもがいてきたと思います。

Netflixの記事でも書きましたが、こういった世界的サービスでもボタン一つの表記に入念な検討を重ねたり、実はアルゴリズム以外のところでキュレーターやエディターがUXに大きな役割を果たしていたりと、やっていることは個人のWebサイトと大きく変わらなかったりもします。また全てのアップデートでは膨大なデータ分析やテストが行われていますが、開発者のブログを見ると、それ以上に『データをどう見るか』もっと言えば『何をデータとして見るか』についての意識や知見が卓越している印象でした。優秀なデータサイエンティストやエンジニアが居なくても、まずはPinterestのようにできる施策を地道に試していくのが優れたサービスに繋がるのかも知れません。

参照サイト

https://newsroom.pinterest.com/en/post/new-simpler-pin-forms
https://www.cnet.com/news/pinterest-gets-with-the-times-and-adds-direct-messaging/
https://newsroom.pinterest.com/en/post/a-new-look-for-the-android-app
https://www.searchenginejournal.com/pinterest-messaging-arrives-send-private-messages-pinterest-users/113523/
https://newsroom.pinterest.com/en/post/the-pinterest-save-button-goes-global
https://newsroom.pinterest.com/en/post/goodbye-like-button
https://medium.com/pinterest-engineering/introducing-automatic-object-detection-to-visual-search-e57c29191c30
https://newsroom.pinterest.com/en/post/goodbye-like-button
https://newsroom.pinterest.com/en/post/goodbye-like-button
https://medium.com/pinterest-engineering/re-architecting-pinterest-039-s-ios-app-e0a2d34a6ac2
https://newsroom.pinterest.com/en/post/introducing-more-inclusive-beauty-results
https://www.cnet.com/news/pinterest-launches-today-tab-for-daily-trending-topics/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000015891.html
https://medium.com/pinterest-engineering/the-evolution-of-search-at-pinterest-c69e78ff2698
https://onezero.medium.com/how-pinterest-built-one-of-silicon-valleys-most-successful-algorithms-9101afdfd0dd
https://venturebeat.com/2015/05/28/pinterest-improves-related-pins-with-deep-learning-plans-product-recommendations-using-object-recognition/
https://tinuiti.com/blog/paid-social/pinterest-algorithm/


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