非営利団体の「終わり方」
ひと月ほど前にはなりますが、Stanford Social Innovation Review (SSIR)日本版発刊前の関係者向けオンライン・プレセッション「社会変革団体のExit Strategyを考える~『What’s Your Endgame? (Winter, 2015)』を起点に」のモデレーターを務めさせていただきました。社会を変えようとする組織のリーダーが追求するべきは必ずしも自己組織の維持・拡大ではなく、自分達が解決しようとする社会課題へのインパクトの最大化ではないか、という命題の下、SSIRの論文で提示された「組織の終わり方(オープンソース化、レプリケーション、政府による介入、市場による介入、ミッション自体の達成、サービスの継続)」について様々なセクターからの参加者(別添参照)の皆さんと議論しました。参加者の実体験に基づいた議論は、社会を変えるコレクティブ・インパクトを生み出すヒントに溢れていました。セッションはクローズドで行われたため、議論の詳細までご報告できませんが、以下主な論点だけ記します。
ひとつの論文をめぐって、セクターを越えてここまで面白い議論が出来るんだ、ということに感動しました。今後も面白い論文を見つけてこういった場を持てればと思います。
【そもそもなんのためにスケールするのか】
非営利の世界ではよく「セクターとしての持続可能性」が問われるが、これは固定化された組織が右肩上がりに成長していくことなのか?むしろ様々な組織が新陳代謝を経ながら全体として発展していく方が望ましいのではないか?セクターの成長のために自ら役目を退き、後進にミッションやノウハウを託すといった「有機的解散」も有り得るのではないか?
【ステークホルダーへの意思表示】
今後の非営利組織リーダーには、ミッションやビジョンを語れる能力はもちろんのこと、自分達が解決しようとしている社会課題について、どれだけのインパクトを与えようとしているのかをステークホルダーに対して明確に言語化(出来れば定量化)して伝えることがますます求められている。Endgameを決めるということは、単にEnd(終わらせること)させるということでなく、組織の戦略として何を優先するかということを対外的に明らかにすることで、資金提供や賛同者をより得られやすくするということでもある。
【「終える」ことへの社会的スティグマ】
特に日本社会では事業失敗や組織の解散に対する社会的イメージが悪い傾向にあり、セクターの新陳代謝のためにはいかに前向きに組織を終えさせるかという事例を積み上げていく必要がある。またここでも「成功したから終了したのだ」、と言えるために目的とするインパクトを明確化しておく必要がある。
【人材確保の問題】
問題解決に強くコミットした人材が集まった組織で、設立当初からその「終え方」を話し合うのは簡単なことではないかもしれないが、そもそもリクルーティングの時点で、将来組織がなくなっても同じ問題に取り組む同士として繋がりを保てる人材かどうかを見極めることが重要ではないか。また民間企業における「副業」・「越境」といった流れは、今後個人事業主として非営利団体を支える人材が増える可能性を示しており、より緩やかな組織の形態が可能になるのではないか。また越境人材はセクター間の連携で度々問題となる業界独自の言語・価値観を上手く翻訳し、コミュニケーションを円滑化させるキーパーソンとなり得る。
【スケールインパクトとプロセス】
小さなスケールでも対象者と深く関わることで問題解決へのより多くの「気付き」が得られることがある。また一見遠回りに思える手法も長期的には社会の価値観を変えるようなインパクトを生む可能性を秘めている。定量的なゴール設定には収まりきらないメリットの追求のためにも、非営利活動においてはインパクトと同じくらいプロセスを重要視する必要がある。