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『ネオンサインと朝日』第5話


どうも、20代にして痛風みたいな痛みに襲われている上神です。左足にたまに激痛がキマス。

バーでの出来事を小説にした『ネオンサインと朝日』の第5話です。最終回です。


▼第1話はコチラから


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『ネオンサインと朝日』第5話



「ジョーさんに謝りに行けってさ、ジンさんが」
「え?俺が?」

二日酔いだった僕は、これ以上にない程、酔いが覚めた。なぜわざわざ謝りに行かなければならないのか。しかもジンさんの命令で。

ジンさんとは、ウチの店のオーナー。そしてジョーさんとは僕をボッコボッコに殴ったジンさんの先輩で、お店の経営者。

僕は自分の誕生日の日に、大先輩であるジョーさんにボコボコに殴られた。しかし、僕は殴られた記憶自体がないから被害者なんだけど、被害者感覚はない。何かややこしいが。

やはり、どうしても納得ができないからお店の同僚の夏生に質問する。

「え…?俺が何を謝るの?」
「いや、俺もよくわかんないんだけど、ジンさんが謝りに行った方がいいってさ…」
「……」

とりあえず一つ分かったことがある。僕が謝りに行った方がスムーズに事が収まるという事だ。何を謝りに行けばいいのかはよく分からないが。


辺りが次第に暗くなる中、街にネオンサインが灯る。
小さい頃から早寝早起きを徹底していた僕にとっての夜は、いつも真っ暗だった。

でも本当は、真っ暗が嫌いだった。

小さい頃から喘息持ちで、咳がひどくなると、呼吸ができなくなる程、胸が苦しくなり全然眠れなかった。
たまらず母親を起こしてしまい、喘息の吸入器を引っ張り出してもらって、何度も看病をしてもらった。

夜中に突然、呼吸ができなくなり、いつか死んでしまうのではないか、その不安から眠れなくなる事が多々あった。でもそれ以上に寝ている母親を起こすことへの罪悪感の方が強かった。

小さい頃、親と一緒に寝る時は豆電球の小さい光がいつも側にあった。真っ暗だと逆に、不安で目が冴えてしまう事があった。しかし、この小さな光とは対照的に、心の中はいつも真っ暗だった。

「早く大人になりたい、そしてこの不安から解放されたい…」

僕は早く歳を取りたかった。早く誕生日を迎えたかった。
でも親は毎年お祝いしてくれる。『小さなプレゼント』という誕生日を迎えた証拠も残してくれる。

だから僕にとっての誕生日は、二つの意味で『早く来て欲しい特別な日』だった。


それから10年以上経過した今の僕にとっての夜は、ネオンサインの光でいっぱいだった。真っ暗とは真逆の世界のこの華やかな世界。

もしかしたら僕は真っ暗が嫌いだったから、この世界に足を踏み入れたのかもしれない。真っ暗な夜が嫌で、ずっと光がある世界を欲していたのかもしれない。朝日が昇った頃に、1日を終わらせたかったのかもしれない。

この華やかな世界に入ると、夜は真っ暗ではなくなり不安はなくなったが、誕生日の認識が180度変わった。『早く来て欲しい特別な日』ではなくなった。
誰かにお祝いしてもらうことは多少あったが、それ以上に僕の誕生日はお店にとって『売上が上がる、何でもない日』だった。

そんなことをボーッと考えながら歩くと、お店に到着していた。昭和の香りがプンプンする、ジョーさんが経営するお店だ。

「一体何て言えばいいんだ…」

お店のドアを開けようとしたが、少し躊躇した。飲み屋の大先輩のお店に一人で訪れるのも久しぶりだったが、それ以上に最初に何を言えばいいのか分からない。

「……もう何かどうでもいいや、喧嘩になっても」

完全に投げやりモードでドアを開けると、カウンターにジョーさんが立っていた。

「おお〜!昨日はごめんな〜〜〜」
「え?あ、いえ…」
「昨日、俺も酔っ払いすぎて全然覚えてないんだよ、何か殴ってしまったんだって?ホント、ごめんな〜」
「いえ、僕も記憶がなくて……」

紛れもなく、ジョーさんはいつものジョーさんだった。今まで悩んでいた事が、昨日ボコボコに殴られた事が、全て嘘だったかのように思えた。

そこから、僕が自分のお店に戻るまで、ジョーさんと一緒に飲んだ。ただただ楽しかった。先輩と飲むのはやっぱり刺激的で、勉強になる。

「ありがとな!今日、店だろ?頑張れよ〜!」
「はい!こちらこそありがとうござました!」

そこからお店に戻り、その日はいつものように仕事をした。ジンさんに「ジョーさんに謝りに行ったか?」と聞かれ、「はい、行きました」と答えると、「あ、そう」と素っ気ない感じだった。自分で行けと言ったくせに。

誕生日の名残もあり、お客さんはいつもより多かった。”昨日の失敗”を糧にお酒のペース配分はいつも以上に慎重にした。あまりお酒に酔う事なく、朝を迎える事ができた。


外を出ると、すでに朝日が昇っていた。
眩しい光を感じつつ、自宅までゆっくりとボーッとしながら散歩する。

歩く度に、お酒が段々と抜けていく感じがした。後頭部の痛みが少しある。誕生日での記憶が徐々に蘇っていく。

オーナーとはやっぱり合わない。お店をやめたい。もうこれで夜の世界との付き合いも終わりにしよう……

色々と思うことはある。
でも、この仕事終わりに浴びる朝日が、まるでシャワーで身体の汚れを落とすかのように、一切の邪念を浄化してくれる。

目が覚めたら、また目の前にネオンサインがやってくる。そして、1日が終われば、また朝日がやってくる。

夜の世界を引退する時がいつか来るかもしれない。
その時にまた、ネオンサインと朝日を見ながらこの日の出来事を思い出すようにしよう。

とりあえず今日は朝日を浴びながら、生きていることを実感しながら、我が家で寝ることにしよう。ビールを軽く飲みながら……



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こんな感じで、初めての小説『ネオンサインと朝日』が終わりました。いかがでしたでしょうか。

9月にショートショートの作品を一つ書き上げなければならないので、noteはここで一旦お休みします!(またどこかで再開します)


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引用:Gisela MerkuurによるPixabayからの画像

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