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展覧会「デ・キリコ展」(於 東京都美術館)

【写真の絵は、すべてレプリカ】

ジョルジョ・デ・キリコはとても有名な画家だけど、ずっとノーマークだった。ときおり目にする絵も「変わってる」と思うだけだった。その作品群をまとめてみてみたら、、とてもおもしろい。そのおもしろさを言葉すると、「居心地の悪さ」、いや「不安をかき立てる」となるだろうか。

なぜ居心地悪かったり、不安にさせられたりするのだろうか。


いくつかの絵が歪んで見える。なぜだろうと思ってよく見ると、ひとつの絵の部分部分が遠近法で描かれていない。なんか空間が歪んでいて、なんだか居心地悪くなるのである。

いくつかの絵では、いろいろなものが脈絡なく描かれている。画材、ギリシアの彫像の顔や神殿の一部分、定規や分度器、地図、そしてなぜかユダヤ系のお店で売っていたというビスケット。色合いが鮮やかなのはよいのだけど、「なぜ、これらが描かれているのか」とわからなさが頭を渦巻く。

部屋の中に、唐突なものが描かれている。たとえば、アパートがまるまる一軒描かれている。

別の絵では、カーペットかと思ったらそれは海で、ギリシア神話のオデュッセウスだという人が船を漕いでいる。これも、部屋の中の出来事なのだ。なんだか不安になってしまう。

丘を背景にして椅子など家具が描かれている。家の中にあるはずのものが屋外に置いてあるのだ。これってたいしたことがないようで、ギクッとする。なぜ外に家具があるのだろうか。

さらに、人物が描かれていても顔がない。マヌカンなのだ。デ・キリコはニーチェに傾倒していて、ニーチェは「人をモノとして描くべきだ」と言ったらしい。たしかに表情のない人は、人格がそがれた「モノ」のように見える。そして観る者を居心地悪くする。

デ・キリコは、どうして「居心地の悪さ」や「不安」をかき立てる絵を描くのだろう。自画像で見る限り、自己顕示欲が強そうな人だったから、そのせいか。ギリシアで生まれ、ドイツ、フランス、イタリアと移り住んでいったからか。ルノアールもどきの水浴する女性の絵が、まともすぎてドキッとするなんて、「居心地の悪さ」や「不安」をかき立てるデ・キリコならではである。

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