はじめに
前回、スクラムにおいて開発者が推進するものとは?という記事で、エクストリームプログラミング(XP)とスクラムとの関係について述べました。この記事では、そのエクストリームプログラミングを通して、既存職種とスクラムでの役割の関係を考察します。
スクラムの役割は3つ
スクラムには3つの役割があります(正確には「責任」です)。開発者、プロダクトオーナー、そしてスクラムマスターです。この3つ以外の役割はスクラムチームにはありません。スクラムガイド(2020年版)では次のように書かれています。
チーム外の人たちは「ステークホルダー」としてまとめられています。
なお「開発者」という言葉が使われていますが、これはプログラマーだけではなく、インクリメントの作成に直接的な責任を持つ人たち全員を指しています。
XP本で説明されている役割
書籍「エクストリームプログラミング」(以下「XP本」)では「XPチーム全体」として、さまざまな職種のXPにおける役割が説明されています。これはXPにこのような役割があるというよりは、アジャイル開発以前に使われていた役割を示しているというのが適切でしょう(XP本の第二版の原著は2004年に発売されています)。
この書籍では次の10種類の職種についてどのように振る舞えばいいか説明されています。本記事ではXP本の記述を通して、この10種類の職種それぞれがスクラムの役割のどれに当てはまるのかを考察してみました。
テスター
インタラクションデザイナー
アーキテクト
プロジェクトマネージャー
プロダクトマネージャー
経営幹部
テクニカルライター
ユーザー
プログラマー
人事
開発者
開発者に分類される役割は次の5つです。
プログラマー
テスター
アーキテクト
インタラクションデザイナー
テクニカルライター
これらの職種において、次の点が強調されています。
プログラマー
プログラマーについては次のように説明されています。今でこそ少なくなりましたが、プログラマーは孤独にプログラミングをする仕事と思われていました。しかしアジャイル開発ではチームで共に働くため、技術力はもちろん、コミュニケーションスキルも必要です。
テスター
テスターについては次のように説明されています。単体テストはプログラマーの責務のため、テストの専門家としてプログラマーの支援も行いつつ、受け入れテストなどのシステムレベルのテストに注力する役割が求められています。
アーキテクト
アーキテクトについては次のように説明されています。システム全体の設計という役割は変わりませんが、システムの成長に合わせてアーキテクチャを追従させるというこれまでなかった役割が与えられています。
アーキテクトとプログラマーは組織によっては完全に分かれていますが、XPではプログラマーとして実際の開発を行うことも要求されています。
インタラクションデザイナー
インタラクションデザイナーは次のように説明されています。インタラクションデザイナーは自分には聞き慣れない言葉ですが、記載内容を見る限り、UXデザイナー、UIデザイナーが該当するようです。
これまでと役割は変わらないようですが、開発をフェーズに分割しないことを求めています。
テクニカルライター
テクニカルライターはシステム開発では最近あまり聞きませんが、製品のマニュアルやWebサイトを作る人たちです。次のように説明されています。
ドキュメントはフィーチャー(機能)より遅れて完成するため、チームとは異なるサイクルで動く可能性があります。そのためステークホルダーと分類することも考えられますが、フィーチャーとドキュメントは同時に完成するのが理想なため、自分は開発者として分類するのが適切だと判断し、開発者として分類しています。
プロダクトオーナー
プロダクトオーナーに分類される役割は次の2つです。スクラムではプロダクトオーナーは1人と定められているため、1人がプロダクトオーナーになり、他の人はステークホルダーとして関わるのがいいでしょう。
プロダクトマネージャー
プロダクトマネージャーは次のように説明されています。プロダクトオーナーそのものと言っていいでしょう。
ユーザー
ユーザーは次のように説明されています。ステークホルダーの方が適切かもしれませんが、「ユーザーがプロダクトマネージャーに成長することもある。」と説明されているため、プロダクトオーナーの候補として入れています。
特殊な職種
次の二つの職種はチームでの役割ではなく、XPを採用することにより、チームとの関わりが変わる人たちです。
経営幹部はチームを勇気づけ、チームを守る
経営幹部は次のように説明されています。チームのスポンサーとしてゴールを明確化する役割が求められています。
もう一つ特徴的なのは、ボトルネックがチーム外に移動した時に、チームを守る役割を担っていることです。
人事は評価と採用の基準が変わる
人事は次のように説明されています。XPの採用によりチームで働くことが求められるため、人事評価と雇用のあり方が変わります。
人事評価には正解はありません。しかし少なくとも、チームとして働けることを重要視する必要があります。
役割の兼務について
最後に、役割の兼務について記載します。XP本では次のように、役割は固定的なものではないと記載されています。
一方、スクラムガイドでは3つの明確な役割が定義されています。
一見XP本とスクラムガイドの記述は矛盾しているようですが、正確には「役割」ではなく「責任」であり、少なくともスクラムガイドでは兼務は禁止されていません。そして、スクラムガイドではプロダクトオーナーやスクラムマスターがデイリースクラムに開発者として入る場合を定義しています。
おわりに
この記事では、XP本を通して、既存職種のスクラムにおける振る舞いについて記載しました。しかし残っている職種が2つあります。
1つはXP本における「プロジェクトマネージャー」、もう1つはスクラムにおける「スクラムマスター」の役割です。中編・後編ではこの2つの職種がどうなるのか考察していきます。