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対話という「仕事」
対話の重要性については、過去にも取り上げてきましたが、最近ますますその必要性を感じます。
効果的な対話の機会をもつことで、部下、メンバーの成長やチーム全体の生産性を向上につながることは理解されてきているようです。
しかし、マネージャー、リーダーとして忙しい日々を送る中で、計画的に部下やメンバーと対話の時間を設けることは容易ではないと思います。
指示や命令、通達、確認といったコミュニケーションは、おそらくマネージャー、リーダーの仕事のルーチンとして、言い方を変えれば「基本動作」として行われていても、「対話」と呼べるものにどれだけの時間を割いているでしょうか?
現在のマネジメントにとって不可欠といわれる「対話」を、いかに日常の「仕事」として組み入れていくか?
今一度考えてみたいと思います。
対話という「仕事」
まず、「対話」と業務上の「指示、命令」や「確認」には、大きな違いがあります。
指示は、上司が部下に何をどうするべきかを伝える業務上不可欠なコミュニケーションです。具体的なタスクの内容、期限、方法について説明し、部下にその遂行を求める行為が中心です。
それに対して、対話は互いに意見を交換し合い、感情や考えを理解することを目指します。
ですから、お互いの考え方、視点、価値観はそもそも違いますよ、ということが出発点になります。
人間それぞれ個性がありますから、こうした違いが生まれるのは当然のことです。
しかし、いざ仕事となれば、そうした違いは一旦横において、業務、役割、責任、という枠の中で指示、命令、確認というエンジンを一方的に回せば仕事は前に進むというのが、従来の(20世紀型といってもいいでしょう)考え方でした。
働く人も、働き方も多様化が進んだ今、一方的な指示だけでは職場の生産性が上でることが難しく、対話の必要性が生まれているということですね。
別の見方をすれば、ひとりの優れたリーダーの力、つまり彼、彼女の知識・経験だけをもとに組織を率いていくことに限界があると気づかされたともいえるでしょう。
個人の個性や強みを活かし、チームの力を発揮していかなれば、現在の複雑で変化の速いビジネス環境で生き残り、成長していくことが難しい。そのためにも対話というコミュニケーションの価値が問われていると思います。
ご理解されている方も多いかと思いますが、対話がもたらす効果を一旦おさらいしておきましょう。
対話がもたらす効果
対話が組織にもたらす効果はさまざまですが、以下は代表的なものです。
信頼関係の構築
対話が生み出す最大の効果は「信頼関係の構築」でしょう。信頼は「心理的安全性」を生み出し、主体的な行動、創造的なアイデア、率直で建設的な意見交換、問題の早期発見、モチベーションの向上する源になります。
エンゲージメントの向上
対話を通じて、自分の考えが尊重され、聞いてもらえていると感じると、人は仕事へのエンゲージメントを高めます。
特に、仕事の目的や意義について話し合うことで、自分の業務がどのように組織全体に貢献しているかを理解し、同時に自分の考え、価値観、成長についても考える機会となり、モチベーションを高めることになります。
課題の早期発見とリスク回避
定期的な対話を通じて、部下やメンバーが抱えている仕事上の課題やストレスを早期に発見することができます。問題が小さなうちに適切な対応ができ、職場の健康維持の面でも有効です。
計画的な対話時間を持つことの意義
こうした効果を理解していても、部下と個別に向き合う時間を確保するのは難しいと感じるかもしれません。
しかし、計画的に対話の時間を持つことには大きな価値があります。この対話時間は、上司と部下が業務の進捗や課題を共有するだけでなく、部下の成長やキャリアに関する話し合いをするための貴重な機会です。
いわゆる課題の第二領域、「重要であるが、緊急でないこと」というテーマを話すのに良い機会といえます。
重要で緊急なことであれば、上司やリーダーは状況や進捗の確認が多くなり、指示、命令も必要になってきます。こうしたテーマをあつかうコミュニケーション機会は職場には沢山ありますね。それが冒頭に述べた上司、リーダーの基本動作ということです。
重要度、緊急度という点からみても対話が異なるコミュニケーションであることはご理解頂けると思います。
対話の実施方法で一番取り入れられているのは、「1on1ミーティング」ですが、これが「仕事の状況や進捗の確認」の場ではないことは以前にもお伝えした通りです。
このミーティングは、部下、メンバーそれぞれの成長目標、上司や組織へのフィードバック、アイデア、彼らが必要としているサポートなどがテーマとなります。
1on1ミーティングを上手く進める方法として、形式ばらず、部下が自由に話せる雰囲気をつくることです。部下が気軽に話しやすい空間を提供するという意味では、音声のみの会話というのも有効です。
意外に知られていないことですが、コーチングセッションの多くは電話で行われます。リモートミーティングが普及した昨今、顔出しで会話できる環境を作ることも増えてきましたが、声だけによる会話は、コーチからの質問に対して言語化したことを、自分の脳に伝えるにも良い方法なのでしょう。
私自身、コーチングの勉強を始めるまでは、対人支援サービスはすべてリアルの対面で行われるものだろ思っていたので、これは新鮮な発見でした。従ってコーチング修得のコースではクライアントの声の調子にも注意を向ける指導があったほどです。
同じ対人支援でもカウンセリングやセラピーになると、リアル対面と音声のみの割合は違ってくるのでしょうが。
話は横道にそれてしまいましたが、要するに相手がリラックスして話し易い環境を整えるということです。
チームを巻き込んで仕事化する
そして対話を「仕事」にするために、先ずやるべきことは、単純なことですが、カレンダーに予定を入れることです。時間帯をブロックするのです。
チームミーティング、お客さんへの訪問、部門長会議、などはイベントとしてカレンダーの予定をブロックしているはずですが、同様に「対話セッション」、「1on1ミーティング」・・・ 名称はなんでも結構ですが、定期開催イベントとしてスケジュールに組込み、チームに公開しましょう。
そして、チームを巻き込んだイベントにすることが大切です。
1on1ミーティングがうまくいかない原因の一つは、「最初から上手くやろうとする」ことではないか、と私は常々思うのです。
新たな試みで、自分も経験が無く、しかも上手くいかないと部下やメンバーに不信がられてしまうかも、という心配があるので、なんとかそれを克服して「上手くやろう(・・というか済ませよう)」と考えがちです。
しかも1on1ミーティングが社内で制度化されていて、人事部への実施報告などが求められていればなおさらです。
こうしたことに神経をすり減らしているうちに、1on1ミーティングへの取組むエネルギーやモチベーションが低下してしまうわけです。
「チームを巻き込む」ということは、部下、メンバーが1on1ミーティングの開催スケジュールや内容をイベントとして理解している、というだけでなく。
目的 → 多様性を活かしてチーム力を高めること。ひとりひとりの課題に上司、リーダーが向き合う機会。
チャレンジ → 組織として新しい試みであること。上司もリーダーも不慣れであること。試行錯誤で改善して進めたいという思い。
部下にして欲しいこと。 → オープンな会話。1on1ミーティングへの率直で建設的なフィードバック。効果的にするための提案。
なども理解し、進めていくということです。
例えば、2つのケースを想定してみましょう。
1.チームの巻き込みが無い場合の上司からの通達
「来週からうちのチームで、毎月1度、1on1ミーティングを実施することにしました。
一人30分ずつです。仕事の進捗確認や業務評価の場ではなく、皆さんのオープンな意見を聞き、多様な考えを汲みとって良いチーム作りに反映させていくことが狙いです。」
「個々のスケジュールは追って通達しますが、都合の悪い人は適宜調整します。皆さんの積極的取り組みをお願いします。」
この通達を聞いて、部下はこんな風に思うかもしれません。
あ、うちでも最近よく耳にする「1on1ミーティング」というものが始まったんだ。オープンな意見って何言えばいいんだろ?まぁ、日頃思っていることを少し話してみるかな?
そして、ミーティングに臨んだはいいが、日頃考えていた職場の改善案を話してみると、上司から荒唐無稽の様な言われ方をされる。ここで逆らうと悪い評価を受けることになることを心配して、黙ってそれを受入れると、あとは上司の成功談の演説になって30分が終了。本来の1on1ミーティングってこんなものか?と思いつつ終えたが、上司もそれに気づいて反省している様子。
さて、次回からどうなることやら・・・・
そうです。この「対話でない会話が生じても上司に遠慮して受け入れてしまう」ということでミーティングは対話の理想からどんどん離れていきます。
では、次の様な通達ではどうでしょう?
2.チームを巻き込んで対話を仕事化する上司からの通達
「来週からうちのチームで、毎月1度、1on1ミーティングを実施することにしました。
仕事の進捗確認や業務評価の場ではなく、ここで行うことは「対話」です。対話とは人それぞれ違った考えをもっている、ということを大前提として、素直に意見を述べ、相手の意見もよく聴き、共感点、相違点を認めながら建設的な姿勢で話を前に進めていく、というコミュニケーションです。」
「こうしたことが、組織文化として根付けば、多様性ある活気に満ちた良いチーム作りができるものと信じています。」
「・・・とはいえ、初めての試みです。私にとって対話は未だ完成されたスキルではありません。指示命令、叱咤激励、無茶ぶり(笑) なら得意とするところですが・・・。」
「そこで、このミーティングを組織に根付かせるために、最初から気負わず、みんなの力で良いものにしていきたいと思い、皆さんにお願があります。」
「最初はひとり15~20分程度の時間で始めたいと思います。業務の負担になる時間ではないので、一度スケジュールが決まったら、客先トラブル対応などよほど緊急な理由がないかぎり、ミーティングへの優先度を下げないでください。何故なら皆さんにとっても私にとっても重要な仕事だからです。」
「最初は対話はぎこちなく進むかもしれません。そして、私の仕事の進捗確認の様な発言が顔を出したり、考えを否定されている様な発言が出たりすることがあるかもしれません。その時は、その場で率直に感じたことを言葉にしてください。例えば「ちょっといいですか?課長、今の発言は私の提案を最初から無理だと決めつけているように、私には聞こえます。」という風に。」
「これは「フィードバック」といいます。勇気がいりますよね。でもチャレンジしてみてください。」
「私もそうします。そのようにして「対話」の進め方について互いに気づき、リアルタイムで補正していくような形で進めることが、このミーティングの機会を次第に、時間はかかると思いますが有益な時間にしていくと信じています。」
「そして、最後にこの1on1ミーティングの良かった点、改善点を2~3分で言葉にして振り返ってください。」
「常にフィードバックの勇気をもって対話することと、終了後の振り返り、この2点を皆さんにお願します。」
「対話するテーマは皆さんから持ち込んでください。職場の改善案、自身のキャリア、会社の方向性、プライベートなこと(守秘義務は守ります!)何でも結構です。個々のスケジュールは追って通達しますが、都合の悪い人は適宜調整します。皆さんのご協力をお願いします。」
という感じです。
少々、カッコ良すぎかもしれませんが、まずは自分が完璧に準備できているわけではなく、試行錯誤しながら良いものを作っていきたい、という思いを共有した方が結果的には良い対話の場をつくることに繋がると思います。
チームとしての「仕事」となった「対話」は、仕事である以上、改善を施したり、進め方や効果性について目を向けていかなくてはなりません。会社がやれと言っているから、というスタンスで良い仕事ができないように、チーム全体で「対話文化」を育てていくことで、各自も成長していくという姿にしたいものです。
ぜひ、計画的に対話の時間を設け、チームを巻き込み、小さな芽から水をやり大樹に育てて行くような取り組みで臨んでみてください。
お読みいただきありがとうございます。