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料理教室の裏側
妻が自宅で料理教室を始めて8年がたちました。冬を除いてほぼ毎月やっていますから、それなりの数になります。料理だけでなく、器やランチョンマット、調理器具など料理にまつわるものはどれも好きなので、テーブルコーディネートを含めて、提案したいという思いを込めて、教室名は「テーブルの真ん中」としています。妻ながらたいしたもんだと思います。
ただ、料理教室を続けるにあたって、私と息子は相当協力してきました。私たち家族のおかげで、8年続けてこられたと言っても過言ではありません。
教室が始まる3週間ほど前から、晩御飯は教室に出そうとしている試作メニューになります。美味しいので喜ばしいのですが、それが3日4日と続くと、さすがに飽きてきます。しかも昨日と今日で、微妙に味付けを変えてくるのです。そして「どっちがおいしい?」と聞いてくるのです。これには辟易します。味噌ラーメンと塩ラーメンぐらい違うのなら答えようがありますが、味噌ラーメンの味噌の分量をグラム単位で変えて比較するような、そんな感じなのです。
私の仕事は夜が遅く、帰宅は早くても午後8時すぎ。遅いときは10時をすぎます。年を取るにつれ、体力が落ち、帰宅したときにはヘロヘロです。とにかく濃い味付けのおかずとご飯をかき込みたい。そして風呂に入りたい。それなのに、昨日とは微妙に味を変えた試作メニューが出てくるのです。そして「どっちがおいしい? ねえどっち?」としつこく聞いてくるのです。分かるわけありません。昨日の味なんて覚えていませんから。
でも「分からない。どっちも一緒やろ」という答えは禁句です。「なんでわからんのや。昨日の味噌ラーメンは味噌5グラムで、今日のは10グラムやで。全然違うやろ。どんな舌してるんや。真剣に食べてや!!」(味噌ラーメンの試作という想定)。こんな日々が3週間続くのです。3週間は21日。1か月に21日。これは、ほぼ毎日といってもいいでしょう。
9年やっていると、試作で悩むメニューの傾向が見えてきます。メーンではなく、ほぼ副菜です。考えてみれば当然です。妻は教室のテーマを決めるとき、まずはメーン料理をイメージします。つまりメーン料理は頭の中で完全に固まっているのです。味も盛り付けも、盛り皿も。メニューはそこからスタートするのです。じゃあ副菜は何にするか、スープは? 米かパンか? デザートは? こんな感じです。メーンがかっちり決まっている分、副菜という2番手、3番手で大いに悩むわけです。
例えば昨年11月のテーマは「煮込み」。メーン料理はビールで煮込んだ豚肩ロース。これは当初から頭の中でイメージしていたらしく、試作はたったの2回。肉はホロホロで柔らかく、絶品でした。問題は副菜メニュー「鯖のビネガー煮」でした。これには参りました。何度食べたことでしょう。鯖で何度か食べた後、それでも納得できないらしく、鱈、サーモンと素材が変わり何度も試食に付き合わされ、最終的にはもう1回鯖に戻ったのです。どの素材のどの味付けがいいか、なんてさっぱり分かりません。
こうしたサイクルを経て、晴れて料理教室が開催されるのです。われわれ家族にとっては、結構つらい日々なのです。