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料理教室の裏側2

料理教室のテーマは「おにぎりと豚汁」。生徒さんが続々と自宅にやって来ました。あまりの騒がしさに妻が2階から降りてきました。「あれっ、みなさん、今日はどうなされたのですか?」。妻が戸惑いながら尋ねると、生徒さんの1人が言いました。「先生、今日は教室の日ですけど…」「えっ?」

生徒さんの中には、常連の方もいました。妻はあせった様子で「○○さん(常連さん)、申し訳ありませんが、食材を買ってきてくれませんか」と頭を下げました。パニクっている妻は青ざめた顔で、今にも気を失いそうです。生徒さんたちは全員あきれた様子で、ため息をつき、1人また1人と帰っていきました。そこで場面は終了します。

料理教室の1週間ぐらい前になると、妻は教室の日を忘れ、食材を全く用意していない夢を見るそうです。焦りに焦った状態で目を覚ますので、寝起きは不機嫌極まりなく、妻は「あーあんまり寝られんかった」とつぶやきます。こんなとき、妻に声をかけるのは御法度です。

教室を始めて8年たちますが、毎回、妻は直前になると神経過敏になります。大きなプレッシャーがのしかかっているのだろうと思います。私と息子は「見ざる言わざる聞かざる」の精神で、つかず離れずの距離を保ちます。8年間で、私たち家族もだいぶ成長させてもらいました。

いざ教室が始まってしまうと、不思議と妻のピリピリ感は収まっていきます。落ち着きを取り戻すといった感じです。教室初日、私には必ず行うルーティンがあります。それは教室の生徒さんが帰った頃合い(午後3時ごろ)に、妻にラインを入れます。「教室、どうやった?」。
そして「よかったわ」の返信を見て、私は「これで無事に家に帰れる」と安心するのです。生徒さんに「家で作ってみます」なんて言われた日の夜は、妻はすこぶるご機嫌になります。

教室期間中は、毎朝5時ごろに起床し、バタバタと準備を始めます。朝食は和食から食パン1枚に代わり、コーヒーも私がいれるようになります。教室前は試作試作だった夕食も、教室が始まると、多少手抜きになります。それも仕方ありません。

そして料理教室は終わりを迎えます。終えた日の夜、妻は必ず、赤ワインを買ってきてボトルを1本あけます。好きな韓流ドラマを見ながら、ちびちびと飲み続けます。後半になると、酔いがまわり、ろれつがおかしくなります。刀をフライパンに持ち替え、戦い終えたサムライのようです。そんな妻を見ながら、私と息子は胸をなで下ろし、次の戦い(翌月の料理教室)に備えるのです。

新年が明けた1月5日、近くの鬼ケ岳(標高約530メートル)に登りました。今年の登り初めです。年末年始は雨が続き、久々の青空だったので、多くの人が訪れていました。車でいっぱいだった登山口の駐車場には雪はありませんでしたが、山頂付近は30センチほどの雪が積もっていました。山頂の小さな神社に手を合わせ「9年目の料理教室にも多くの生徒さんが訪れてくれますように。たくさんのお金を落としてくれますように」とお願いしました。

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