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幸せホルモンの増やし方

 

▲3大幸せホルモン

   わたしたちのストレスや痛みを和らげたり、幸福感をもたらしたりするものは、「幸せホルモン」とも呼ばれ、中でも、心の安定をもたらす「セロトニン」、意欲がみなぎる「ドーパミン」、優しい気持ちになる「オキシトシン」は、三大幸せホルモンと呼ばれています。これらは、どこでつくられ、どこへ、どのように伝わるのでしょうか。
   
   神経伝達物質は、主に神経細胞(ニューロン)から放出され、隣接する神経細胞や筋肉細胞に作用し、興奮や鎮静などの反応を引き起こします。神経シナプスと呼ばれる狭い空間を通ってミリ秒単位で情報を伝達するので、作用範囲は非常に狭く、素早く特定の場所に信号(情報)を送り、速やかな反応を必要とする筋肉の動きや感覚伝達などのプロセスに作用します。神経伝達物質の例としては、アセチルコリン、ドーパミン、セロトニンなどがあり、感覚や運動、気分の調整などに関与します。

   一方、ホルモンは、内分泌腺から血流中に放出され、体中の様々な細胞や器官に作用し、情報を伝達しながら、内臓や体の機能を整える役割を担っています。血液を通じて全身に広がるため、数分から数時間、あるいは数日かかることもあります。作用範囲が広く、作用は神経伝達物質よりもゆっくりで、成長、代謝、ストレス反応など時間のかかる持続的な影響を及ぼすプロセスに作用します。ホルモンの例としては、アドレナリン、インスリン、エストロゲンなどがあり、体全体の代謝、成長、性機能、ストレス反応などを調整します。
一部の化学物質、例えばアドレナリン(エピネフリン)は、神経伝達物質としてもホルモンとしても働きます。アドレナリンは、副腎からホルモンとして分泌され、全身のストレス応答を調整しますが、神経系でも局所的に伝達物質として働きます。

   幸せホルモンの代表格である「セロトニン」は、自律神経を整えて幸福感をもたらし、心を平常に保つのに役立つ精神を安定させる「安定のホルモン」です。食欲のコントロールにもひと役買い、睡眠を促すホルモンである「メラトニン」の原料にもなります。不足するとネガティブ思考に陥りやすくなり、訳もなく悲しくなるなど悲哀感に襲われることもあり、うつ病を発症する原因ともなります。
 現代人の多くはセロトニンが不足した状態にあるといわれています。セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンという物質から合成されます。ただ体内では生成されないため良質のたんぱく質を食事から摂る必要があります。トリプトファンが豊富に含まれる食品は大豆・豆製品、乳製品などです。さらにトリプトファンからセロトニンを合成するときにはビタミンB6が必要となります。ビタミンB6を豊富に含むのは玄米や小麦胚芽、牛、豚、鶏のレバー、マグロや鰹の赤身などですがたんぱく質を摂るときは植物性のものがベストです。
 現代人は屋内で過ごすことが多く、身体を動かすことをできるだけ避けようとする傾向があり、セロトニンが不足しがちです。セロトニンは寝ている間はほとんど作られず、分泌を促すには、日光を浴びることが必要です。起床後すぐにカーテンを開けて室内に日光を取り入れたり、通勤時に朝日を浴びるため、一駅歩いたり自転車を使ったりするのも有効です。また朝食を抜かないようにし、よく噛むことで、セロトニン神経が活性化されます。精神的に安定を失っていると感じた場合、朝の過ごし方に問題がないかチェックしてみてください。
 運動に関しては一定のリズムで行う運動がセロトニンの分泌を高めてくれます。リラックスして朝、太陽の光に当たりながら毎日15分程度のウオーキングを楽しんだり、踏み台昇降運動などの方法が良いでしょう。

 次に、ドーパミンは、さまざまな行動の原動力になる意欲を作りだしたり、運動調節に関連するなどの機能を担い、幸福感を高める働きを持つ脳内ホルモンの一つです。わたしたちの食べ物の中に含まれるフェニルアラニンやチロシンというアミノ酸が様々な酵素の働きによりドーパミンとなることがわかっています。赤身の肉や鶏肉にはフェニルアラニンが多く含まれ、チロシンを含むタンパク質は、卵、魚、大豆製品、ナッツ、乳製品などに豊富です。
 ドーパミンは、仕事や学習に必要な情報を記憶・処理する「ワーキングメモリー」にも影響を与えるため、分泌が促進されると効率アップにもつながります。達成感や快感、感動などももたらすため、不足すると無気力だけでなく無感動や無関心なども引き起こします。
   ドーパミンをつくりだす神経細胞であるドーパミンニューロンは、大脳基底核とそれに指示を与える大脳皮質に枝を伸ばしてドーパミンを分泌します。それらの部位は次第に行動を習慣化したり、行動の組み合わせや順番を企画したり、戦略を練ったりする働きをしています。そのためパーキンソン病のように、ドーパミンが少なくなると、歩こうと思ってもどういう順番に筋肉を動かしたらいいかわからなくなってしまい、体がすくんだり震えたりします。また、物覚えが悪くなったり、集中力、注意力も失われます。加齢とパーキンソン病は深い関係があり、年をとると誰でもパーキンソン病になる可能性があります。
   ドーパミンの分泌を促すには、何かの目標を達成し、その後にご褒美が与えられるとさらに分泌が促されます。そのため、目標を設定し、いくつも達成できる環境をつくるとよいでしょう。大きな目標でなくても、皿を洗い終えたらお気に入りのドラマを見る、書類を1枚書き終えたら好きなコーヒーを飲むなどによって、分泌がより活性化します。
 また、新しい刺激、初めての感動といったものが効果的です。例えばいつもとは違う道を通ってみたり、新しいスポーツに挑戦したり、はじめての場所を訪ねてみたりすることでドーパミンが分泌されます。また、外に出るだけでも違いが出てくるので、自分の身体や気分に合わせて脳に刺激を与えてみてはいかがでしょうか。

▲愛情ホルモンがあふれだすハグ

   3番目のオキシトシンは、「愛情ホルモン」とも呼ばれ、不安感や恐怖心を和らげて安らぎを与え、優しい気持ちにさせてくれるホルモンです。もともと、出産や育児の際に分泌されるホルモンとして知られていましたが、母子間以外でも分泌されることが分かってきました。恋をしたり、抱きしめたり、性的興奮を感じたときにも増加します。ストレス軽減や免疫機能アップなどの効果の他、社交性や認知能力を高める作用があるともいわれています。
   オキシトシン自体を直接分泌させる食品は存在しませんが、分泌を促しサポートをする食品には、①マグネシウムを含む食品で、ダークチョコレート、アーモンドやカシューナッツ、ほうれん草やケールなどの緑の葉物野菜、豆類(レンズ豆、インゲン豆)、魚介類(サーモン、マグロ)です。②次に、ビタミンDを含む食品で、魚(サバ、サーモン、イワシ)、強化された牛乳やオレンジジュース、卵黄。➂ビタミンCを含む食品で、柑橘類(オレンジ、グレープフルーツ、レモン)、イチゴ、キウイ、ブロッコリー、ピーマンなどです。④さらに、オメガ3脂肪酸を含む食品として、魚(サーモン、マグロ、サバ)、亜麻仁油、チアシード、クルミ、⑤そして、腸内の健康を保つプロバイオティクスを含む食品では、ヨーグルト、キムチ、味噌などの発酵食品が役立ちます。
 オキシトシンの分泌の一番の鍵を握るのはスキンシップです。握手をする、手をつなぐ、抱き合うなど、近しい間柄の人とのスキンシップには、より高い効果が期待できます。肌触りの良い服やタオルを使うのもよいでしょう。また、誰かを助けたり物を分け与えたりするなど、人に優しくする行動によっても分泌が促されます。また、身体を動かしたり、好きな音楽を聴くのもおすすめです。
 美味しいものを食べるもよし、自然を満喫するもよし、あなたの五感に気持ちのよい刺激を与えることで、あなたの副交感神経のはたらきがよくなれば、あなたは人に優しくなり、共感力は増し、人への信頼感が増すのです。
 そして明るく、ユーモアある軽妙なあなたとの会話によって、あなたの周りにいる人たちもオキシトシンが出るようになるのです。

   米ウィスコンシン医科大学教授で医師の高橋徳氏は、人のために祈ると、脳内ホルモンのオキシトシンが分泌し、病気を治し、幸せを呼ぶと述べています。そして、2011年の東日本大震災では、被災地で多くのボランティアの方たちが精力的に働きましたが、彼らは異口同音に「普段の仕事をしているときに比べると、なんだかとても元気で若返った気分がする」と述べていたといいます。それは、利他の行動、他人のために働くことでオキシトシンが分泌され、元気づけられていたからだといいます。
 「ヘイパーズ・ハイ」という概念は、1970年代に心理学者のアラン・ルコインスキーが提唱しました。彼は、ボランティアや親切な行動が精神的・肉体的な健康に良い影響を与えることを発見しました。「ヘイパーズ・ハイ」 とは、他人を助けたり親切な行動をとったりしたときに感じる幸福感や高揚感を指します。この現象は、心理学や神経科学の分野で研究されており、助ける行動が脳にポジティブな影響を与えるのです。他人のために何か良いことをした後に得られる充実感や喜びが幸福感を高め、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を減少させることがわかっており、それと同時に、脳内化学物質であるドーパミンやオキシトシン、エンドルフィンなどのいわゆる「幸せホルモン」が分泌されることで、高揚感や人とのつながりを感じるのです。

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