『チーズバーガーでパテが4枚入ってるやつ これはsomething different です』久保利英明×内藤晴夫
久保利英明×内藤晴夫(エーザイ株式会社 代表執行役CEO)
Vol.4
久保利「いつもでも内藤さん、元気じゃないですか。元気がないときなんてあるんですか」
内藤「いやあ、ありますよ」
久保利「(笑)」
内藤「半分ぐらい元気ないですよ(笑)」
内藤「どうしようもなく、経営だからいろんな問題あるじゃないですか」
久保利「うん」
内藤「なるべく人のせいにするようにしてるんですけど」
久保利「(笑)」
内藤「これはあいつが悪いと。これは誰々、こういうのが悪いってしても、どうしても自分のせいにしかならないというのが残っちゃうんで」
久保利「ならない、うん」
内藤「そういう時、困っちゃうんですよね。これ、やっぱり落ち込むような感じになるんで。ただ、それを何回か経験してですね、周りにいる連中に言うと、もう忘れて温泉でも行ってね、ゴルフでもしてね、気晴らししてきてください、我々やりますからみたいに言うんですけど」
久保利「うんうん」
内藤「それ全然解決になんないですね」
久保利「なんないですよね。それはね」
内藤「結局追っかけてきちゃう、その問題が。ですから、私はそのどうしようもなく自分が悪かったっていうやつが、なんでそうなっちゃったのかというところぐらい、自分なりにちゃんとこう解いといて」
久保利「誠実ですね」
内藤「納得しようと。納得すれば勝ちなので、納得するまでちょっと向かい合っていようと。そうすると大体、かなり込み入った話でも、一週間ぐらいで納得できるんで」
久保利「なるほど」
内藤「納得してしまえば非常に前向きになれるんですね」
久保利「おっしゃるとおりですね」
内藤「それやるようにしてますね」
久保利「ほお。それは元気が無くなりそうになった時の対応策」
内藤「ええ、ええ」
久保利「真正面から」
内藤「真正面からもう向かい合ってきて、それでちょっとバラして見てみて、ああ、そうだったんだなあみたいな」
久保利「それはそうですね」
内藤「前向きな意思決定ができないから、前向きな投資もできないっていうことに、私、何回かそういう経験してるので」
久保利「なるほど」
内藤「会社にも社員にも迷惑かかるんで、経営者はいつもやはり元気でなければいけないんでですね」
久保利「本当におっしゃるとおり。おじいちゃんのあの哲学から教わった部分もあるんですか」
内藤「おじいちゃんも」
久保利「失敗しても全然めげないっていう、チャンスだっていう」
内藤「お父ちゃんも、本当にギリギリのとこずっといってましたから」
久保利「それを乗り越えてまた強くなってくんですよね」
内藤「悪かった時は悪かったと、もう認めてこれ、俺のせいなんだとしょうがないねと」
久保利「しょうがないよね」
内藤「いうふうに思っていた方がいいかもしれないと、思いますね」
久保利「なるほど。それは、いい方法ですね」
久保利「僕なんか、どっちかっていうと、そういうことがあった時には、世の中悪いことは、必ずいいことを背中に背負ってきてるというふうに思うんで。なんかああやって失敗したり、悪かったように思うけど、何か良いことはなかったのかねっていうとね、どんなことでも、何か良いことがくっついてくるんですよ」
内藤「なるほど」
久保利「そこを見つけて見つかったら、勝ちと。これは何も元気なくすことはないんだと。良いことがあると、悪いことがついてくるし、悪いことがあると、良いことついてくるし。全面的に100%良い事とか、100%悪いことってないよね」
内藤「うんうん」
久保利「そんなことで元気なくしてる、それほどお前、暇か。という感じになってきて、立ち直れると」
内藤「うん」
内藤「ですから、あれですよね。落ち込みがちのときに色々こう励ましてもらったりしてますけれども、やはり自分が納得して、ここが悪かったんだと。いや、これはもうどうしようもなく悪かったね。みたいなものが、はっきりと自分が納得して、それは、もうしょうがねえ。と。いうふうに割り切れると、こう、前向きになりますね。それやらないとですね、経営者がそれやらないでいると、最悪なんですよね」
久保利「なるほど。そうですよね」
内藤「そういえば、もう一回落ち込んだ時の話、していいですか」
久保利「はい」
内藤「私、ある年ね、おみくじを引いたら1日に3回大凶が出たんです。連続して」
久保利「へえ」
内藤「その年はありとあらゆる災難がふりかかりました。数えてみたら7個。ほんとうに。それこそ、ビタミンのカルテル事件もあったり、承認が取り消されたりして、あらゆる悪いことありました。でもすごく良いことも一個あったんです。それは社を代表する薬剤の、アリセプトっていう認知症の薬が承認になったんです」
久保利「ほぉ」
内藤「だから、先生がさっき言ったように、本当にね「禍福は糾える縄の如し」で」
久保利「ねえ」
内藤「悪い時には良いことがあるんです、必ず。それはね、渦中にいると分からないんですけども」
久保利「なるほど」
内藤「かなり本当にfactなんですね。Trueにそういうこと起こるんで」
久保利「なるほど」
内藤「渦中にいる人って、落ち込んでるんで、なかなかいや大丈夫なんだよと、必ず良いことあるよって言っても納得しませんけれど」
久保利「まあね」
内藤「本当にそうなんですね。将棋でも、それから野球でも、プロ野球でも、ペナントが決まった後は消化試合、それから将棋でも王位なんか決定した後は、組まれてるんでしょうがないんで、消化試合をやる時に、手を抜いたらば、ろくなことないんですよ」
久保利「おっしゃるとおり」
内藤「その時に全力を尽くさなきゃならない」
久保利「ねえ」
内藤「消化試合だからって言って二軍なんか出すと、次の年はね、こっぴどくね」
久保利「全然ダメなんですね」
内藤「それから、消化の将棋だからといって、新しい手をくりださなかったりするとやっぱりダメなんですね。それは、やはりね、勝負の神みたいなのが」
久保利「見てるんだよ」
内藤「見てるんですよね」
久保利「(笑)」
内藤「だからそういう時に、どうやって身を処すかっていうのも、運をこう引き寄せる上には大事ですね」
久保利「運というのはそうだと思いますよ。結局は自分の心構え一つ、動き方一つなんで、俺は運が悪いから運が悪いからって言っている人に、運は来ないんですよね。俺は運を引き寄せるんだっていう熱意と覚悟とパワーがあると、運って、しょうがない、来ちゃうんですよね。だからそれは、いいお話ですね。やっぱりね、そういうことを心がけると、天覧試合ばっかりが毎日あるわけじゃないからね」
内藤「久保利先生は、落ち込むことってあるんですか」
久保利「みんなにね、言われるんですけど」
内藤「(笑)」
久保利「久保利さんってね、落ち込んだり、めげたりしたことってあるの?って言われて」
内藤「ええ」
久保利「僕はいつも、ありがとう。それは、俺、常時軽躁病だからねと。だけどね、よく考えてみると、うつっぽい時っていうのは、だいたい海外逃げてんですよね。で、ひなたぼっこして」
内藤「ハワイ(笑)」
久保利「ハワイ行ったり、スペインに行って、海を見ながらね、スペインで向こうにアフリカが見えるとかね、そういういのを見て「小さえ、小さえ」と。ここまで来ればね、地中海渡ればアフリカだと、俺の故郷へいつだって行けると」
内藤「(笑)」
久保利「今年は、まあここは正念場だと。頑張ろうといってやったら、結構、みんなコロナで業績が悪いとか、いろんなこと言ってる弁護士さんもいるんだけれども、近来になくいいねっていう」
内藤「あ、弁護士さんも業績ってあるんですか」
久保利「ありますよ、それは(笑)」
内藤「水揚げですか」
久保利「水揚げ(笑)弁護士の場合、ほとんどコスト決まってるから、いわゆる原材料費とか変動費って、あんまりないんです」
内藤「なるほど」
久保利「こういう時だから、めげてる暇がない僕みたいなところへ、とにかくなんだかわからないんだけど、相談に来るというのはあるのかな。ありがたいです」
内藤「なるほど」
久保利「次世代の人達が、みんなメンタル弱くって、ダメになっちゃうとか、何もやる気にならないっていうか、あれもうちょっと子供の時に、みんな自信をつけてやって「やればできるんだよ、君は」というのを、人生の核として持ってると、多分何かあった時に、そこへ戻っていって「そうだ、僕だってでやればできるんだ」っていうのが出てくるのかなあと思って」
内藤「うんうん」
久保利「みんなちまちま、塾だ、偏差値だとか言って、そういうふうに人間を作っていったら、非常に委縮した、自分に対して自信が持てない人たちの塊になって、そうすると、安全に安全に、怒られないように叱られないように、失敗しないようにってことばっかりやるようになって、トータルで人生全部失敗だったことにいうことになるんで」
内藤「うんうん」
久保利「チャレンジングなことが、そういう機会を与えてあげるっていうことは、必要かなあと」
内藤「なるほどね。イノベーションがね、イノベーションがどういう時に起きるか。っていうのは、我々いつもすごい関心があって」
久保利「うんうん」
内藤「いろんな事例を見たりしてるんですけども、イノベーションって、だいたい一人では起こせないんですよ」
久保利「うん」
内藤「天才的な科学者や学者がいても、一人では絶対起こせない。で、さっきのハーバード大学の岸先生。超一流の学者ですけど。彼が言ってましたけど、「超一流」と「一流」の差もあると。超一流の学者というのは、自分の力の限界を知っているので、必ず誰かと一緒に仕事をしようとすると」
久保利「なるほど」
内藤「コラボレーターを絶対にいつも探していると」
久保利「うんうん」
内藤「一流の学者っていうのは、全部自分でできると思って」
久保利「(笑)できると思って」
内藤「俺が俺がっていうので、もうそういうコラボレート、全然求めないので、ちまっとした仕事しかできない」
久保利「ほぉ」
内藤「で、それは産業のイノベーション見ても同じなんですね」
久保利「なるほど」
内藤「必ず一定の組み合わせが入ってる。それは、かなり神がかって、夢を追うDreamerみたいなやつがいる。それから熱中者。言葉にしてなんと言っていいかわかりませんけども、とにかくそれ以外は見ないような人と」
久保利「偏執狂的なやつね」
内藤「そうそう、あとnegotiatorっていうのもいるんですよね。プロジェクトをリードする人は、人たらしでないとうまくいかない」
久保利「でしょうね」
内藤「そういう意味で、複数の役割があって初めて、イノベーション起こっていくんで」
久保利「なるほど」
内藤「一人で出来ることってほんと限られてますよね」
久保利「そうでしょうね」
内藤「だからね、落ち込んだ時なんかね、私なんか、結構秘書に励まされるんですよ」
久保利「ああ」
内藤「秘書は、私にとって良いことしか言わないですから」
久保利「ほお。立派な秘書ですね(笑)」
内藤「絶対、社長は間違ってないと」
久保利「ほぉ」
内藤「正しいと思ってますよ。みたいなこと言ってくれると」
久保利「それで」
内藤「それでぐっと」
久保利「軽くなる」
内藤「軽くなったりするんですよ」
久保利「それは、いい秘書選びましたね」
内藤「そういう人しか選ばないです(笑)」
久保利「いつも秘書に叱られてる弁護士もいますから(笑)」
内藤「そうですか(笑)」
久保利「余暇っていうのは、なんか過ごし方があるんですか。趣味だとか」
内藤「趣味ですか(笑)」
久保利「(笑)」
内藤「仕事してる時が、一番そのなんていうか嬉しいっていう、なんですよ」
久保利「いやぁしょうがないですよね」
内藤「そう、これがねまた飽きないんですね」
内藤「というのは、いろんなことが起こってきて泣ける時があるんですね。泣く時が。目頭がぐっとくる時なんてね、めったにないですよ、普通の」
久保利「ないですよね」
内藤「会社のライフだと結構あるんですよ。それが1週間に1回か2回はぐっとくるのが」
久保利「おお、それは多いね(笑)」
内藤「それはね、最高の瞬間なんですよ」
久保利「それは最高。素晴らしいことですよ」
内藤「そうそう。だいたいね、社員さんが苦しい中で、ちょっと仕事ができたとかね、そういう報告を見た時はやっぱりグッとね、目頭熱くなるんですね」
久保利「なるほど」
内藤「あれはね、醍醐味ですよ」
久保利「なるほどね。経営者にしか味わえないかもしれませんね」
内藤「ゴルフでね、バーディーとっても」
久保利「そんなもんじゃ」
内藤「味わえないですから(笑)」
久保利「なんない、なんない(笑)」
内藤「(笑)」
久保利「今はほら、夜の8時には閉店されちゃうから、なかなかこう食い物」
内藤「(笑)」
久保利「昔はよく、それこそカラオケをやったり、一緒に酒飲んだりさせていただきましたけど、やっぱり肉は好きなんですか、今でも」
内藤「そうですね。今はね、夜マックですね」
久保利「夜マックね(笑)」
内藤「夜マック。4枚入ってるやつがあるんですよ」
久保利「すごいなあ(笑)」
内藤「チーズバーガーでパテが4枚入ってるやつは、これは、something different ですよ。食べたことないでしょう、先生?」
久保利「ないです(笑)」
内藤「これ、デリバーしてくれますから」
久保利「ああ」
内藤「ここらへんで遅くまで残ってる人と、夜マック食うといいですよ」
久保利「なるほど。いいねえ」
内藤「(笑)」
内藤「あとはどん兵衛ね」
久保利「どん兵衛ね」
内藤「どん兵衛に、メンチカツを入れると、さらに」
久保利「なるほど、なるほど」
内藤「これもいけまっせ(笑)」
久保利「結構安上がりの生活してんですね(笑)」
内藤「いやいや、うまいですよ、ほんとに」
久保利「(笑)」
内藤「どん兵衛の、だってダシは、カツオがびんびんに効いていて」
久保利「(笑)確かに僕はああいうのって、クライアントが東洋水産なんであれだけど、マルちゃんのあれなんか、汁全部飲んじゃうんですよね」
内藤「そうですよね(笑)」
久保利「(笑)世の中ね、時代、時代に応じて何とかしぶとく生きのびていくのが、こういう二人なんですね。やっぱりタフネスですよ、大事な事は」
内藤「先生には負けます。お手本ですから。ほんとに」
久保利「いやいや(笑)」
内藤「久保利先生の顔を思い浮かべることあります、よく」
久保利「この憎らしいと思うんじゃないですか(笑)」
内藤「いやいや」
内藤「あのそういえば、先生書いた世界漫遊記の本、あるでしょう」
久保利「はいはい」
内藤「あれって、今でも買えます?」
久保利「買えます、買えます」
内藤「そうですか」
久保利「またすぐ送りますよ」
内藤「いや。ロングセラーで1回、社員にも読ませたことあるんですけどね。あれは面白かったなあ」
久保利「『志は高く目線は低く』ってやつですよね、はい」
内藤「あれ以外、先生、本って専門書以外、書かないんですか」
久保利「そのあとだから、あんまりないですね。今はそのかわりにこういう対談をしてやろうかなあと思って」
内藤「いやいやいや。一票の重みのあれとか」
久保利「一票ね」
内藤「第三者委員会とかね」
久保利「仕事の関係で、不思議ですよ。おかげで今のところ、なんとかエイジライターで、年齢が77になって、まだ本は78冊出てますから。まだ負けてないんですね」
内藤「ほお、すごいですね」
内藤「今度はどんな方面の本を書かれるんですか」
久保利「今度はね、食い物の本をね」
内藤「へえ」
久保利「書こうかなあと。ようするに今は無き食い物ですよ。京味もなくなった、何もなくなった。俺たち、こんな美味いもの食ってた、アフリカでもスーダンで食ってたラクダのナックルとかね、こういう美味しいものを僕らは食って生きてきたんだども、君たちこういうものはいま食えるのか。僕らが食っていたようなものは、名人がどんどん死んでいくから、出なくなりますよと」
久保利「今日はありがとうございました」
内藤「ありがとうございました」
久保利「いやあ、こういうカメラがまわってないと聞けないような、面白い話があって、いいですね。たぶん幸せな経営者、最も幸せな経営者の一人なんですよね、内藤さんって」
内藤「いや、自分で幸せだとあまりこう感じたことないですけど、やはり面白い仕事だと思いますね」
久保利「そこですよね。僕も弁護士は面白いと思うけれども。面白さに因してずっとやっていいのかなあっていう気持ちと、いやいや面白いと思ってられるうちはやっていいんじゃないのっていう気持ちと。逆に言うと、この人生の過ごし方を奪わないでよっていうのもあって、こんな面白いこと、楽しいこと、人に迷惑かけるなら別だけどもそうでないなら、当分まだやらして。っていう感じ、ありますね。経営者としてスズキの鈴木さんのあれぐらいの歳までやるっていうのは理想なんですかね」
内藤「いや、やっぱりあの蓄積した体験とか、knowledge(知識)っていうのは、すごいと思いますね」
久保利「なるほど、なるほど」
内藤「ですからDXでよくダッシュボードで可視化しろって言うじゃないですか」
久保利「うん」
内藤「経営情報を」
久保利「はい」
内藤「あのレベルの人たちっていうのは、そんなもの全部頭の中でダッシュボードができていて、過去10年ぐらいのデータ、完全に把握してると思います」
久保利「なるほど、なるほど」
内藤「彼らはもうDXそのものだし、存在自体が」
久保利「人工知能そのもの」
内藤「そうそうそう。AIそのものだと思いますね」
久保利「じゃあそうなるまで、ひとつまた頑張っていただいて」
内藤「私は、ほんと、今日は人生の師である久保利先生と、こんな話をさせて頂いて、いろいろしゃべりすぎちゃったこともたくさんあって、語弊がある部分があればお許しいただきたいと思いますけど。ほんと勉強させていただきました。ありがとうございました」
久保利「いやあ面白い話で。僕も勉強になりました。これからもまだまだ二人とももう少し頑張りましょう」
内藤「はい。まずは今年の総会がありますんで」
久保利「はい、承知しました」
内藤「よろしくお願いいたします」
久保利「ありがとうございます」
【内藤晴夫 PROFILE】
エーザイ株式会社 代表執行役CEO
1947年 生まれ
慶應義塾大学商学部卒業後、ノースウェスタン大学経営大学院でMBA取得
1975年 エーザイ入社
1983年 取締役
1985年 研究開発本部長
1988年 代表取締役社長
祖父は、創業者の内藤豊次氏。
父の第2代社長内藤祐次氏に続き、第3代社長に就任。
2014年 エーザイ取締役兼代表執行役CEO(現任)