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『落ち込む時はどうするのか』久保利英明×山田秀雄×菊間千乃

久保利英明×山田秀雄(弁護士)×菊間千乃(弁護士)
対談 Vol.3

久保利「現実に弁護士になって、いろんな世界でいろんなふうに活躍をして、まさに夫婦別姓を認めないということから、菊間千乃が消えていくみたいなことにいたる。弁護士として苦労もしてこられたと思うんですけど」
菊間「はい」
久保利「どんな感じですか」


菊間「うーん。10年目なんですよ、私」
山田「10年経つ」
久保利「10年」

菊間「もうそんなに経っちゃったんだというのが正直」
山田「アナウンサー、何年やったんだっけ」
菊間「13年」
久保利「ほぉ」
山田「ああ、じゃもうじき」
菊間「もうすぐ越しちゃうから。あっという間ですね。10年」
山田「はやい」

菊間「同じ事件がないじゃないですか」
久保利「ない」
山田「ないない」
菊間「毎回新しい」

久保利「似たように見えてもね、絶対違うんだよね」

菊間「全然違う。相手が違う、裁判官が違う、まず自分のクライアントさんが違うので、その細かい事情が違うから、同じだと思ってはできないので、すべてに全力投球でやっていくと、ものすごく疲弊するし、頭を使うし」
山田「(笑)」

菊間「ほんと息つく暇もなく、ここまで来たという」
久保利「しかも同時にいくつもの事件が進行するからね」
菊間「そうですね。はい」

山田「本当に多様な活躍されてるじゃないですか」
久保利「うん」
山田「そういう意味では、弁護士になられて大成功されたんじゃないかな」

久保利「どこまで何ができるかわからないよね」
菊間「いきなり大学卒業して弁護士になっていたら、今みたいな活動はできなかったと思うので」
久保利「できない」

菊間「前職があったからで、あの13年間が無駄ではなかったと思うし、今回、選択的夫婦別姓のこととかについても、私が発信することで、いろんな人がそれについて意見を言ってくれるとか、興味をもってくれるとか、そこが大事だなと思うので、

法律ってとかく専門家、裁判官とか弁護士がなんかやってるもので、自分たちとはちょっと関係ないと思ってる方が多いので、そこの間をつなぐような役割ができたらいいなって、弁護士になる時に思っていたので、

なるべく専門的な言葉とか難しい言葉ではなくて、わかりやすい言葉で、皆さんが興味を持っていただくような題材を提供していきたいと思っているので、そういう活動を少しずつ出来てきてるかなと」

久保利「菊間さんが発信すると「あれぇ、自分たちの問題でもあるんだ」というふうにすごく近づきやすいんだよね。なかなかね、男性のね、背の高い弁護士がなんか言っててもね」
菊間「背の高い弁護士(笑)」
久保利「なかなかね、自分の問題というふうには見てくれないし」
山田「そう」
久保利「僕が言っても、あれ変わった弁護士だからなあ。で終わっちゃうんだけど。菊間さんが言うとね」

山田「抜群の知名度があったしね。その知名度で発信するから聞くんですよね。これはやっぱり社会的な使命としても、彼女が持ってる発信力って稀有なものだから、弁護士の中では。人権問題もそうだし、あなたが発信すると女性総体とかね、人権の問題も身近な問題になるんだと思うんだよね。ある分野の特化した人が言うと、色付きで見られちゃったりするところってあるじゃないですか」
菊間「はい」
山田「だからそこがすごく僕、重要だと思いますね、彼女の」
久保利「ねえ」
山田「はい」

山田「10年経ったんだ」
久保利「10年経つんだ」
菊間「久保利先生の背中を見ながら」
山田「そうそうそう」
菊間「必死にやってます」
久保利「この人も一生懸命」
山田「そう」

久保利「俺を背中じゃなくて上、真上から見ながらね」
山田・菊間「(笑)」
久保利「追っかけてくるんだけども」

山田「もう40年。その話をさっきしててね。あの時代の38歳の久保利さんが今年喜寿。40年みてるけど、全然こう追い抜かすことは全然できない。少しパワーダウンしてくれて、近づいてきたらいいなって思うんだけど、全然ゆるんでくれないです。いつになってもトップスピードで走っていくので」
久保利「結構ね、さぼらないでやってるよね」

山田「頑張れるのは、やっぱり背中を見て、自分も老け込んだりするのは早いぞとかね、もうちょっと頑張れるぞっていう、そういう意味ではね、とっても頑張って頂いてる久保利さんをみていることは、すごくありがたいんです」
久保利「負けてたまるかっていう感じね(笑)」

山田「いや、そんな負けとか勝つとかそういうことじゃないんだけど」
久保利「絶対追い越すぞと思ってると思うよ。ストライドが違うんだから(笑)」
山田「いやいやいや。身長以外は、身長以外は全然」

菊間「いや、そういう風にはなんか思わない、思わないですよね」
山田「思わない、思わない、全然思わない、それは思わない」

菊間「さっき愛弟子って言っていただいてすごく嬉しかったです。本当にそう思っているので。またさっきの話に戻っちゃうけど、大宮のいいところって教わった先生方がそのまま弁護士会の中にいらっしゃって、ちょっと悩みがあると個別で連絡取って聞いてくださったりとか」
久保利「できるよね」

菊間「大宮の卒業生って、いまだに先生のお世話になってる人、いっぱいいると思うんですけど、そういう関係性ができてるというのも」
久保利「よそのロースクールにはあんまりないみたいね。そういうことが」
菊間「ないですよ」
山田「ないないない」

菊間「ほんとう私は今も大宮があれば、もう全ての人に大宮行ったらいいよって」
久保利「ねえ」
菊間「お勧めするんですけど」

久保利「教員だよね(笑)」
菊間「(笑)そうですね」
山田「教員の立場ですよね、彼女。今度、後輩に教えていくっていうポジションになっていくから」
菊間「うん、うん」

久保利「(笑)吉田松陰の書いた『講孟余話』っていうね」
山田「はいはい」
久保利「孟子を、彼は自分も囚人なんだけど。囚人の人が囚人に対して、孟子はこう言ってるが、どうしてそんなことなるんだろうか。おかしいよねと言う、むしろ孟子を批判するような、そういうそのソクラティックメソッドみたいなね」
山田「うん」
久保利「お話なんですよ」
菊間「はい」

久保利「なんと言われたって、この国をちゃんとして、外国人に支配されないようにしていきたい。その熱い想いを囚人たちに伝えるわけ」
山田「そうですね」

久保利「その囚人たちを、なんとか早く解放してやろうという努力もするわけ。自分も捕まってるのに」

久保利「あの頃弁護士がいなかったんだから、ある意味で言うと、接見をしてる弁護士みたいなもんでね」
菊間「そうですね」


山田「それが29歳とか、それぐらいの年齢ですよね」
久保利「そうそうそう」
山田「吉田松陰ってね。すごいことですよ」

久保利「あの頃のね、今から150年前の話ではあるけれども、福沢諭吉にしても」
山田「すごいですね」
久保利「みんなね、この国の将来を憂えて」
菊間「そうですね」


久保利「今の弁護士さんたちが、ずいぶん増えたわりにはね。本当にそういう仕事をちゃんとやってますかと。もっと増やさなきゃ、足りないんじゃないですかと言うんだけど、あんまり増やすなって言う人もいるしね」
菊間「そうですね」

久保利「みんな弁護士というものを矮小化して考えていて、さっき菊間さんがおっしゃったように、なってみたら、いろんなことを弁護士が」
山田「やれる」


久保利「やれるんだって。弁護士になったら法廷に行くだけの話じゃなくて、法廷にも行けるというだけであって、なんでもできるんだよね」
菊間「はい」


久保利「そういうリーガライゼーションっていうか、法律をしっかりやれる人たちが、どんどんプロになって増えていって、その人たちが、べつに法廷に行かなくてもいいんで。スクールロイヤーとかさ」
菊間「はい」
久保利「いろんなのがあるじゃないですか」
山田「はい」
菊間「ねえ」

久保利「世の中を改革するのは結局はそういう人たちがどれだけいるかと。アメリカには125万人いるから、まあ、動きが速いわけだよね。日本は、たかだか4万人しかいないから、なかなかそこのスピードとか、手が行き届かないんだよね」

久保利「菊間さんだってさ」
菊間「はい」
久保利「すごい元気はつらつだけども」
菊間「(笑)元気はつらつ」
久保利「元気がなくなったとき、どうするんでしょうか(笑)」

菊間「元気がなくなること?」
山田「ないでしょう」
久保利「ないんだ(笑)」
菊間「うーん、ない」

山田「見てる限りではね」
菊間「(笑)」
久保利「(笑)」

菊間「元気がなくなることって、どういうことなんですかね。辛いとか、なんか落ち込むとか」
山田「鬱になっちゃうとか、そんなことなのかな」
菊間「ああ。鬱、あの」
久保利「ここにいる人、なんか鬱になりそうもないね(笑)」
菊間「鬱には、ならない」
山田「(笑)」

菊間「でも落ち込むことはすごいあります」
久保利・山田「うん」

菊間「例えば証人尋問で、なんであそこで反射的にパッといけなかったんだろうとか、あそこで、なんでああいう質問しちゃったんだろうとか、後悔することはすごくあって」
山田「それ普通じゃない」
菊間「うん」
山田「それ、ない人いないですよ」
久保利「(笑)」


菊間「で、なんか帰りに先輩の弁護士から、大丈夫でしたよ、そんな失敗してないですからって慰められても、やっぱり自分の中で、できなかったと思うと、もう」
久保利「自分でわかってるよね」

菊間「そう、嫌で嫌で嫌で、もう帰りますって言って、早く事務所を出て私はそういう時は1人になりたいんです」
久保利・山田「うん」

菊間「人にあんまり相談しなくて、なんか飲んで忘れるとか食べて忘れるとかそういう感じではなく、徹底的に自分を責めるんですよ、私は」
山田「ああ」
菊間「ドSになる、あ、ドMか」
久保利・山田「(笑)」


菊間「なんで、あなたはね、もうね8年目、9年目なのに、こんなこともできないんだとか、だいたいこういう準備がなってないからだとか、ここはダメだとか、ずっと自分で自分を責め続けるんですよ」
久保利・山田「うん」
菊間「家の中で暗くなって」
久保利「暗く(笑)」
菊間「(笑)そうすると、なんかね、人間って防衛本能みたいなのがあって」
久保利「なるほど」


菊間「トコトン下までいくと、跳ね返ってくるんですよ」
久保利「突然、自己正当化が始まるんだ(笑)」

菊間「そうなんです。そうです。1時間半ぐらいやっていると、いやいや、でも私は、そんなに悪い人間じゃないって」
久保利「(笑)」
菊間「自分で自分を褒めだすわけですよ」
山田「なるほど」

菊間「だいたい、私のほうで、ああなったのはもうしょうがないんだ。みたいになって、そうすると、しょうがない、また明日から頑張ろうみたいになって」
久保利「なるほど」
菊間「自分の中でそういう引きずらないようにしてるので」
久保利「なるほど」

菊間「その日のうちに消化するというか、その日のうちに徹底的に落ち込んで回復する。ここを適当にやっていると下がりも適当だし、上がらないんですよね」
久保利「わかる、わかる」
菊間「ぐちゃぐちゃなるから」
久保利「生半可な、こうね、落ち込みはダメなんだ」

菊間「そうなんですよ。徹底的にやれば、パーンと上がれるから、そこですっきりして、次やろうっていうそういう乗り越え」
久保利「堕落論だな」
山田「あー、なるほど」
久保利「とことん底まで堕ちよと」

山田「坂口安吾」
久保利「「堕ちよ」坂口安吾。そっから必ず」
菊間「堕落論で、そうですね」

久保利「そうだよね。山田先生はどうするんですか」
山田「僕はですね、あの、元気がなくなったときは、久保利先生とご飯を食べるのをセッティングする」
菊間「うん」

久保利「(笑)これが食えなかった1年半が苦しいね」
山田「(笑)でも本当ですよ、これは。あとやっぱり自分の中では、私のいろんなモットーの中で「美点凝視」という考え方があって、美点凝視というのは、なるべく人の悪いところではなくて」
久保利「良い点」

山田「良いところを見ながら生きていくことが、結婚でも仕事でもなんでも大事で、コミュニケーション能力って、それがすごく根底にあるんですね。そのためにはやっぱり嫌なところをみないという我慢が必要なんですが」
菊間「ふーん」

山田「元気がなくなったり、さっき言った自分で失敗したなとかそういう時は、やっぱり美点凝視を自分にも向ける」
久保利「うん」
菊間「なるほど」
山田「っていう人に対しても、いいところ見るっていうことを努力しますけど」
久保利「うんうん」

山田「自分も結構頑張ってるんだから、自分の美点を」
久保利「俺にもいいところあるよっていう」
山田「凝視をすると」
久保利「褒めてあげる」

山田「そうそう捨てたもんじゃないぞというふうに考えていくと、ちょっとまた頑張ろうっていう気になってくる」
久保利「なるほど、なるほど」
山田「自分に対する美点凝視を一つ考えます」
菊間「素晴らしい」
久保利「なるほど。違うようだけど」
山田「同じこと言ってるのかもしれない」
久保利「意外とね。己を責め続ける。でもそっから必ず反発が出てくるっていうのを理解してる、自分を知ってるわけだよ」

久保利「僕なんかあんまり責めもしないんだけど、でも、まあまずいなあということはあるよね」
菊間「落ち込むことなんてあるんですか」
久保利「落ち込むことはないし」
菊間「ないでしょう(笑)」

久保利「反省はするけれども、後悔することはないし」
菊間「後悔はしない」
山田「わかります、わかります」

久保利「だから、比較的、何分かの間に菊間さんの反発心が出たそのすぐそのあとみたいに戻っちゃうから、よそから見てると、落ち込んだとか、なんか反省したとかそんなふうには見えないらしいんだけども、でも瞬時に反省はしてんのよね。で、まずいなと。で、大体「努力が足んなかった」ということになるのよ」
山田「ああ、なるほど」
菊間「うーん」

久保利「努力すればいいじゃん。ああ、どうってことはないんだと。大したことはないね、大丈夫だ。よし、明日から頑張ろうと。こういう発想の人がやっぱり打たれ強く生きていけるんじゃないですかね(笑)」
山田「(笑)」

菊間「やっぱりその弁護士って、クライアントさんを守るっていうことでいえば、自分がうたれるわけじゃないですか。へんな話」
久保利「そりゃそうだよ」
菊間「クライアントのために、私をうってくださいってやるわけだから」
久保利「そう」

菊間「そうすると、なんかやっぱりうたれたら痛いし、なんか傷つくし、だからそれもあるけれど、それをまともに受けてると、やっぱりいくつもの事件を何年間もやり続けてられないので、どこかでやっぱり客観視するっていうか」
山田「そうだね」

菊間「自分ごとにしないっていうか」
久保利「なるほど」
菊間「そういう目線で仕事をしていかないと」
久保利「もたねえな」

菊間「徹底的にクライアントさんと同化しちゃうと」
久保利「うん、そこはね」
菊間「適切な判断もできなくなるし」
久保利「依頼者のためにもならないしね」
菊間「そうなんですよね。そこがすごくやってみて感じました」
久保利「なるほど。だから、弁護士って面白い商売なんだよね」
菊間「うん」
山田「うん」

【山田秀雄 PROFILE】
弁護士
1952年生まれ
慶應義塾大学法学部法律学科卒業
筑波大学大学院経営政策学部企業法学専攻科修了
1984年 弁護士登録
コメンテータとしても活躍
ハラスメントという言葉が浸透する前から
様々なハラスメント問題にも取り組んできた草分け的存在


【菊間千乃 PROFILE】
弁護士
1972年生まれ
早稲田大学法学部卒業
1995年 株式会社フジテレビジョン入社 アナウンス室配属
アナウンサーの仕事を続けながら
2005年に大宮法科大学院大学夜間コースに入り弁護士を目指す
2007年フジテレビジョンを退社
2009年大宮法科大学院大学修了
2010年司法試験合格 2011年弁護士登録

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