『総会屋を退治する人じゃなくて、総会屋が来たのかと思った』久保利英明×堀威夫
久保利英明×堀威夫(ホリプロファウンダー)
2021年2月対談 vol.2
堀「自分の仕事人生の中で、株式を上場して、非上場にするってこと、同じ人間が2回やったって、そうたくさんはいないと思うんですよね」
久保利「しかも失敗してないのにね。つぶれそうだから非上場とか、つぶれて非上場はあるけれど。そうじゃないですからね。自ら」
堀「どう考えてもね、あの、我が社のような会社は、設備投資はあんまりないんですね」
久保利「うんうん」
堀「まあ、工場なんかはないんでね」
久保利「確かにね」
堀「だから、場から、資金調達をするニーズがあんまりないんですよ」
久保利「うん、うん」
堀「そもそも公開する」
久保利「はい」
堀「動機も社会的認知を受けるには何かないかと、いろいろ考えた結果、これしかないと思ってたんで」
久保利「だから、認知をうけて、トップまで登りつめれば、これで役割は果たしたと。いうことですかね」
堀「上場コストが年々高く」
久保利「高くなったんですよ、はい」
堀「上場、資金調達をするニーズがないのに」
久保利「あー。ニーズがないのに」
堀「それに見合うコストじゃないな、これはと。これは、後輩に負担をさせるのは、かわいそうだと、思ったんで止めた」
『久保利先生なくして上場はできなかったし株主総会も乗り切れなかった』
久保利「あー。僕、ほんと堀さんのところが、上場するところから、最後のMBOで退出するところまで全部」
堀「あの、久保利先生なくして上場はできなかったし、それから、株主総会も乗り切れなかった」
堀「僕は、先生と最初に会った時は、総会屋を退治する人じゃなくて、総会屋が来たのかと思ったから」
久保利「(笑)そうかもしれませんね。
いや、弁護士総会屋とかね、総会屋弁護士とか、いっぱい、言われてましたもんね。立ち居振る舞いが、そうだったのかもしれないし。今だってそんなに、普通の弁護士さんとは思えないような恰好をしてますけどもね(笑)」
『弁護士とは思わないでしょうね』
堀「(笑)そう。久保利さんを知らない人が見たら、弁護士とは思わないでしょうね」
久保利「思わないでしょうねぇ」
堀「もしかしてその筋の人かなあと思ったり」
久保利「そうね。今は、逆に、その筋の人たちがおとなしい恰好するようになったから」
堀「うんうん」
久保利「いまどき、ヤクザ者だって、そんな服は着ねえよ。と、こういうふうに、言われるようになって」
堀「(笑)そうですね」
『夜道を歩くときなんか、注意しないといけない時期があったでしょ』
堀「しかし、勇気あるなあと」
久保利「(笑)楽しいんですよ」
堀「だけど、やっぱり夜道を歩くときなんか、やっぱり注意しなきゃいけない時期があったんでしょ」
久保利「時期は、ありました」
堀「ねえ」
久保利「ただ、もう、さすがにね、そういう時代ではないですからね。いい時代になったとも」
堀「そうですね。それは、だけど、先生のおかげ、功績がそうさせた面もあるでしょうね」
久保利「だけど、多くの企業の方々が、それで行こうとおっしゃっていただいて、堀さんもそうだけど、堀さんはじめとして、みんなが、いや、総会屋なんかに金なんか払うかと。自分達は上場して、一生懸命ステージをあげようと思ってんのに、そんな奴らに屈してなるかと。そういう気合のある経営者っていうのがいなければ、いくら僕が叫んでみたって、まあ、久保利は、あんな奴だから、ほっとけっていう、終わっちゃいますよね。やっぱり利用して頂けたんで」
堀「いやあ」
久保利「すごい良かったなと思います」
堀「それは、本当にお陰だと思ってます」
『コロナで日本がうまくいってないって言われるのは、あれは本当にコロナのせい』『せいじゃないですね』
久保利「僕もね、結構、変化、好きなんですよ。だから、コロナだあ、大変だって、みんなが言うと、いや、コロナ、コロナって、コロナばっかりが、なんかテレビでもずっとやってるけど、そうじゃなくて、コロナで日本がうまくいってないって言われるのは、あれは本当にコロナのせい」
堀「せいじゃないですね」
『元がダメだからコロナをきっかけにそういうことが露呈した』
久保利「元がダメだからね、コロナをきっかけにそういうことが露呈しただけですよと。
で、今度、働き方改革で、皆がリモートでやるから、働き方改革が実現できるんで、これいいことだ。みたいに言ってるけど、ちょっと待てよ。働き方改革って、本当にそうかなと」
堀「うーん」
『働き方改革って、何のためにやるんだっけ』
『わかんない』
久保利「本当に効率的で、生産効率が上がるようなやり方を、リモートでほんと、できてますか。と。うーん、僕は、ややそのあたりは疑問に思ってるし、そもそも働き方改革って、何のためにやるんだっけっていうのが、みんな分かんなくなっちゃって」
堀「わかんない」
久保利「どうなんですか、あれ」
『引退しようと決めたんだけど、背中を押してくれたのは働き方改革なの』
堀「実は、昨年(注・2019年)の暮れに、来年(注・2020年)、いや、一昨年(2019年)の暮れに」
久保利「はいはい」
堀「来年(2020年)こそは引退しようと決めたんだよね」
久保利「はい」
堀「その一番大きな、その後押しっていうか、背中を押してくれたのは、働き方改革なの」
久保利「ほぉ」
堀「というのは、働き方改革を我々のような業種に」
久保利「はいはい」
堀「当てはめるとね、ともすると集団としての勢いが劣化するんじゃないかなあと。というのは、今までと同じクオリティで仕事をするためには、どうしても縮小均衡に行かざるをえない。それから、もう一つは、じゃあ今までと同じ分量をこなすためには、人員を増やさないかん。で、これ、日本人の良さっていうものは、IDみたいなのは、いったいどこにあったのかなあと」
久保利「うんうん」
堀「世界に。この資源がない国で。勤勉実直じゃなかったのかなと」
久保利「そうです」
堀「それをなくして、欧米と同じことをやって、日本の立ち位置ってのは、どういうことになるのかな。ま、とりあえず疑問に思いました」
久保利「なるほど、なるほど」
堀「それで、ホリプロが今まで通りの勢いを損なうことなく、集団として存在するためには多少、 働き方改革を、全部やれって言ってたから、やらないわけがいかないとすればね、人間を少し増やさなきゃしょうがないと思って」
久保利「うんうん」
堀「で、色々なんか方法ないか、悩み、考えた結果、何もないんで、そうだ、自分のかかってるコストを」
久保利「(笑)」
堀「返上しちゃおうと」
久保利「なるほど」
堀「そうすると、その分、人を雇えるんだろうと。それで、僕は去年(注・2019年)の暮れに全社員にメールで、そのことを打って」
久保利「ほお」
堀「それで、60周年なんですね。実は、今年」
久保利「はい」
堀「それで、60年というのを、エンド、ゴールでと思わないで、百年企業を目指すスタートラインだと思ってくれと。それで、自分はこれで引退する。というのを、昨年(2019年)の暮れに打っておいて、開くのは正月になるわけですね」
久保利「はいはいはい」
堀「っていう、状況にしてたんですよ」
久保利「それはもう」
堀「でも、まさか、コロナが来ると思ってなかったんで。今、考えたら、あれー、一番大変な時に、俺、敵前逃亡しちゃったよな」
久保利「(笑)」
堀「ってことになったなと。いま、思ってるんですけど」
久保利「いやいや、それは、敵前逃亡じゃなくて、身を捨てて対応されたと思います」
堀「毎日、サンデー毎日、家にいるから、家のことも対応ができるわけです。なんか非常に、捨てる神ありゃ拾う神ありっていっているようなことなのかもわかりませんけど、不幸中の幸いは幸いなんです」
久保利「世の中って、そんなもんですよね。そのことを指して、運がいいって言うんだと思いますけど、結局いい事と悪い事ってのは、一緒になって」
堀「そうですね」
久保利「来るんで、良いことばっかりいつもあるとか、悪いことばっかり来るってことは、ほんとは、ないんですよね。良いことが悪いことであったり、悪いことが良いことの芽であったりする。
僕は、ほんとに、池波正太郎じゃないけど、人間っていうのは、悪いことしながら、良いこともする。良いことしながら、でも、悪いこともする。っていう、なんかそういう定めなんじゃないか。だから、絶対的100%正しい良いことってないんだけど」
堀「うんうん」
久保利「僕は堀さんが一昨年の暮れですか、そうやってリタイアしちゃうと、それはある意味でいうと、自分を犠牲にして、俺のコストをわけてやれば、もうちょっと人が雇えるよと。というの、僕は、正しい発想だと思うし、だけど、その正しい発想を、じゃあ、みんなやるかっていうとやらないわけですよ」
堀「うん」
久保利「60歳で全部変えると、女房以外、全部変えると言って、ゴルフスイングまで変えた、堀さんらしいなあと。僕は思うんですよね。そういう意味で、何て言うかなあ、働き方改革っていうのをいろんな面があって良い面がないではないと思いますけども、もう今や日本人の勤勉実直というところも」
堀「なくなっちゃったよねぇ」
久保利「実直がなくなってきたでしょ」
堀「ねえ」
久保利「嘘つきばっかりじゃないですか、もう、みんなインチキばっかりやってるから」
『日本っていう集団の勢いが削がれてないだろうか』
『もう既に、削がれてます』
堀「日本国が将来、どうなんのかなあと。日本っていう集団の勢いが削がれてないだろうかと」
久保利「いや、もう既に、削がれてますからね」
堀「削がれてるでしょ、いま」
久保利「それでなくたって、若年層どんどん減っていくわけだし、勢いっていうのは、どっちかっていうと、年寄りよりは若いやつのほうが勢いがあって当然なんだけども、その勢力が少ないわけです。
新しい、パワーを持った人たちがどんどん出てこないと駄目な時に、なんか勢力を全体として沈滞化させるような、そういう流れで、本当に行けるかと。僕は、今、一生懸命凝っているのは、キャリア権って言うんですよね」堀「うん」
久保利「お前のキャリアは、なんなんだと言った時に、一言で、私はこれがジョブですと。これについては誰にも負けませんっていう人が」
堀「うんうん」
久保利「たくさんいる国は、強い状況ではないか。」
堀「うんうん」
久保利「自分のジョブはこれだから、これを売り物にして、経理を専門にして、ずっと一筋やってきましたよ、いや、経理ではあるんだけど、わが社の経理だけではなくて、監査も分かります、違う面からもわかります、という人たちがどんどん増えてく。そんなような働き方改革だったらいいよねと。
だけど、開発をする、発明をする、いろんなものを作り上げるっていう、そういうイノベーションに向いたような人たちをいなくしていって、本当にこの国、大丈夫かっていうのは思いますよね。心配ですよ」
堀「まあ、私たち、私、1人が心配したからって、解決にもならないんですけど」
久保利「もちろんね。そりゃそうだけども。だけど、心配しなきゃね、やっぱりこのまま流されていっちゃいますからね」
『これをやろうと決めた時のリーダーは、そのきっかけがなんなのか』
『説明しなきゃいけないですよね』
堀「だから、時のリーダーは、これをやろうと決めた、その一番のきっかけが根幹がなんなのか。っていうことは、本当が知りたいですよね」
久保利「それ説明しなきゃいけないですよね」
堀「ね」
久保利「これが、働き方改革の肝だと。こういう状態だから」
堀「そうすると、魅力ある日本になるよと」
久保利「ね。そういうことでしょ。そこ、説明がなんにもないまんまに、なんか残業減らせとか、そんなことばっかり言ってて。でも残業たって、僕なんて、ずっと残業のかたまりみたいなもんですけども」
堀「(笑)今、非国民ですよ」
久保利「ダメだ、ダメだと言ってまわって、ほんと、それでいいのかなあと」
堀「まあ、工場みたいなラインで動いてるところはね」
久保利「ええ、ええ」
堀「まだわかるんですけど」
久保利「はい」
堀「我々みたいな仕事はね、非常にマッチしにくいんですよ」
久保利「そりゃ、そうですよ。ねえ」
堀「それでも、労働基準局から、しょっちゅう来て、それで、僕が現役でここにいるときは、日報見るとね、ちゃんと休暇をとって偉いと。これ、なんか、おかしいなあと。価値観が逆になっちゃったんじゃないかと」
久保利「(笑)」
堀「そういうのは、で、休暇をちゃんと、とらないやつは偉くないというのはね、もう査定をしていくわけですね、総務担当は」
久保利「だから、問題は、その休暇とか残業とかうんぬんじゃなくて、要するに生産性はどれくらい」
堀「そうそう」
久保利「何を作りましたか。ましてや、ソフト産業、これから世界中がみんなソフト産業になるわけですね。で、結局は、オートマチックにやるようなやつが、ロボットにやらしとけ」
堀「ロボット、そうそう!」
久保利「そういう意味でいうと、むしろ、新しいもの、クリエイティブな力、逆に言うとホリプロを支えていけるような、そういうタレントが必要なんですよね。
マネージャーにしても、何にしても。こういう人物が欲しいので、働き方をこんな風に変えましょう。というならわかるんだけど、なんとなくこう、重箱の隅をお役所の目で、突っついて、これもダメ、あれもダメって、問題は、できた成果物は何なんですか。というところに、思いがいってない。これって日本国は、うまく回らないんじゃないかなと。少なくともたくさん労働しちゃダメだっていうのが、世界中のスタンダードだとは僕は思いませんし」
堀「うん」
久保利「いい国は、よく働いてますよ」
堀「そう」
久保利「ただ、普通のひとは、みんな休暇をとる、バカンスをとる、で遊ぶ。それがやりたくて、みんなやってるんだから、それはそれでいいんですよ。クリエイティブなことを、イノベーションをする人は、どういう風に働くのか。そうでない人達は、どういう風にやって生活を楽しむのか。その使い分けというのか、どっかで、線引きが必要なんで、なんか、みんなこうやって休暇だけとれと言っても、違うんじゃない」
堀「そうですね」
久保利「休暇だけ」
堀「一律に形式だけ作っちゃってるからね」
久保利「はい、形式論で、好きなんですよ、日本人てね。みんな、形式論好きなんだけど、で、形式的平等って、みんな好きなんだけど、
そうじゃなくて、やりたいようにやってみなはれと。やりたいように、やってる人にとっては、どうぞ自由にと。その代わり、どっかで僕みたいに3週間、じゃあ、地中海に行ってくるわと言ったら、どうぞ。と言ってくれればいいんであって。そういう、こう、自発的な自由な動きを認めてくれるような体制があれば、その国はみんな面白いことになるという風に僕は思いますけどね」
堀「使い分けをできる人間が育ってくると、いいんですよね」
久保利「そういうことですよね」
【堀威夫/PROFILE】
株式会社ホリプロファウンダー
1932年 生まれ(申年)
学生時代から、ワゴン・マスターズ、スウィング・ウエストなどでバンドマンとして活躍
1960年 有限会社堀プロダクション設立
1963年 株式会社ホリプロダクション(現 株式会社ホリプロ)設立
1997年 ホリプロ、 東京証券取引所市場第二部に上場
(2002年 東京証券取引所市場第一部に指定替、2012年 MBOにより上場廃止)
2020年 ホリプロ ファウンダー最高顧問を退任
舟木一夫、山口百恵、和田アキ子等多くのアーティストを育てる