『第一印象は暴対責任者』久保利英明×小路明善
久保利英明×小路明善(アサヒグループホールディングス株式会社 取締役会長兼取締役会議長)
2021年7月対談vol.1
~撮影前~
久保利「本当はね、もっと派手な服を着てこようと思ったんですけど、今日は株主総会だからね、一応ひな壇の上に乗っかるから、事務局なら派手でもいいんだけどね(笑)」
小路「実は私はですね、先生の足元にも及びませんけど、自分の持ってる中で一番派手な服を着て来たんです」
久保利「素晴らしい」
小路「いや、先生と比較すると」
久保利「これ僕のすごい地味。裏はすごいよ(笑)」
スタッフ、小路「わあぁ」「鯉、錦鯉」
久保利「(笑)鯉が泳いでるし、桜吹雪だよ」
小路「一着しかないかなり派手な服、上着を着て来たんです。ふつうこんなのめったに着ないんです」
久保利「(笑)ピンクのストライプでしょう。白じゃなくて色がついてる」
小路「ピンクのストライプです」
久保利「洒落てますよね」
~対談開始~
久保利「思い返せばね、僕の弁護士人生の半分以上は、アサヒビールとのお付き合いなんですよね」
小路「大変お世話になってます」
久保利「樋口さん(注:樋口廣太郎氏1986年3月社長就任)の頃からね。前に僕がいた事務所、森綜合という事務所にいたころからお付き合いがあって、ずーーっとあって、そして小路さんに至る。こういう流れですからね」
小路「アサヒビール、アサヒグループの近年の歴史は久保利先生とともにあると言っても過言ではないと思ってます。ありがとうございます」
久保利「素晴らしい歴史ですものね。僕なんか、何の役にも立ってません」
小路「とんでもございません」
久保利「樋口さんとか、瀬戸さん(注:瀬戸雄三氏1992年9月社長就任)、福地さん(注:福地茂雄氏 1999年1月社長就任)、池田さん(注:池田弘一氏2002年1月社長就任)、荻田さん(注:荻田伍氏2006年3月社長就任)が飲料からこちらのトップになって、泉谷さん(注:泉谷直木氏2010年3月社長就任)、で、小路さん」
小路「はい」
久保利「考えてみたら7代目にあたります。お付き合いを頂いて本当にありがたい」
小路「こちらこそありがとうございます」
久保利「お付き合いは、最初は株主総会指導でしたね。当時の東洋信託(銀行)そのあとUFJになって、いま三菱UFJ信託になっていますけど、そこの人から「アサヒビールの仕事を紹介しましょうか」という話をいただきました。その頃どうなんだろう。小路さんは、今から25年ぐらい前と言うと、どうなんですかね」
小路「私はですね。まず事務局というか、会場整備で初めて当社の総会の会場に入りました」
久保利「ほぉ」
小路「確か、瀬戸社長が」
久保利「えぇ」
小路「株主総会第1回目という、1993年」
久保利「はいはいはい」
小路「だと思います」
久保利「なるほど」
小路「その時に、久保利先生に初めてお会いしたというか、久保利先生を初めて遠くから見させて、拝見させていただいた」
久保利「(笑)」
小路「ということでございます」
久保利「そうですか。申し訳ありません。その時は、とにかくこっちは暴力的な株主が来たらどうするとか、アクリル板でさっとよけるとか、シルバースター(注:アサヒビールシルバースター。アメリカンフットボールチーム)ですか、アメリカンフットボールの選手たちがいかに防御にパッと練達かという、そういうことばかりやっていたものですから」
小路「そうですね。私も実は会場整備でですね。何かことあればひな壇の役員を守ると、最前列にすぐ駆けつけると、そういう役割を仰せつけられてまして、多少、体が当時大きかったものですから」
久保利「いやいや当時って、今も大きいですけれども(笑)」
小路「(笑)アメフトのうちの選手とともに総会の壁の脇に控えておりまして」
久保利「あー、そうですか」
小路「えぇ。その準備を、訓練をしました」
久保利「そんな時代ですものね。まるで今と時代が違います」
小路「そうですね、我々、業績もかなり変遷がありましたし」
久保利「うん」
小路「総会屋の方たちへの対応ということについてもですね。大変変遷のある歴史を、先生とともに来たなと。会場整備の人間から直近まで議長をさせていただいた」
久保利「いや、もう議長として」
小路「人間の印象でございます」
久保利「なるほど」
久保利「ガラッと変わったんですよね」
小路「変わりましたね」
久保利「アサヒビールも変わったし」
小路「はい」
久保利「総会運営も変わったし」
小路「はい」
久保利「その20数年間の話ですよね」
小路「私、初めて会場整備の壁の方から、久保利先生を拝見させていただいて、一番最初はですね、ちょっと、この久保利先生のお話に入ってしまうんですけれど」
小路「テレビで先生のお顔を拝見したことはあったんですけれども、生で見るのは初めてで、最初わからなかったんですね。
で、事務局の人間に「あの有名な久保利先生っていったいどこにいるの」と言ったら「あの方です」と。ちょうどリハーサルのとこの、株主席の真ん中にお座りになられておりましてですね。外見からびっくりしまして、これ、大変先生には失礼ですけど、私の先生の第一印象はですね、警察の暴対の責任者かと(笑)いうふうに思いまして」
久保利「(笑)そうでしょう」
小路「それとあわせましてですね。顔をじっと拝見させていただいて、眼光が鋭くて、非常に目力のある方だなということ」
久保利「(笑)」
小路「決してお世辞じゃないんですけれども、眼光鋭く目力のある方って、根は非常に優しい方が多いという、経験がありましてですね。非常にお優しい心の持ち主の先生なんだろうなあと」
久保利「ありがとうございます(笑)」
小路「とんでもないです。実際、長年先生とお付き合いさせていただいて、そのとおりだなということを思っておりましてですね。今失礼なことを申し上げましたけれども」
久保利「いえいえ」
小路「第一印象でございます」
久保利「僕は、小路さんとお目にかかるというのは、むしろずっと後になってからですね。小路さんがビールの役員になる、次の社長だ。ホールディングスを含めてのトップだ。海外で一生懸命やってるんだということをわかりかける頃に、この人が小路さんだと」
小路「はい」
久保利「小路さんをよく知るようになったのは、最近、一緒に総会を」
小路「そうですね」
久保利「議長としておやりになる」
小路「はい、はい」
久保利「僕は、後ろで補佐をするという状況の中で、どうして、アサヒビールって、こんなに人柄のいい人が続々と続くんだろうかと。内部で見ると、人柄の悪い人もいたかもしれませんけれど(笑)」
小路「(笑)」
久保利「少なくとも僕の知る限りですね。瀬戸さん、福地さん、池田さん、荻田さん、みんな付き合いやすいといいますか、こういう言い方したら失礼ですけど、お友達になれそうな人が多いなという感じがするんですよね」
小路「多分、我々の今の企業風土がですね。人を大事にするというんですか。社員同士、経営者も含めてですけれども、助け合っていくというのが、歴史的な企業風土として連綿と続いているのではないかなと」
久保利「なるほど」
小路「私、当時組合の役員をやっていまして」
久保利「専従だったんでしょう」
小路「昨日まで一緒に仕事をしてきた仲間をですね。退職に、お願いをして、ある意味では追いやらなければいけない。
そういう経験を多くの人たちが、我々なり、先輩はしてきましたので、そういったところからですね。社員での助け合い、これによって自分たちで会社を良くしていくしか方法はないんだということ。社員を大事にしなければいけないということ。後程、また申し上げようと思ったんですけれど「社員は会社の命」ということを言っておりまして」
久保利「なるほどね」
小路「はい」
久保利「本気で腹の底から、自分は社員の側にもいて、労働組合の側にもいて、そして今こうやって経営者になってくると、二重、三重の意味で、社員というものの存在というのは、小路さんの中では、非常にこう大きな、会社における大きなウエイトを占めるという、こんな感じですか」
小路「組合時代のことをお話し申し上げますとですね。昭和55年ですから1980年ですかね。20代半ばちょっと過ぎたころに、労働組合の本部役員、専従役員になって、会社休職して約10年やりました」
久保利「なるほど」
小路「普通は4年なんですけども」
久保利「(笑)そんな」
小路「夕日ビールと言われて、次の専従が指名しても全く来てくれなくてですね。結果的に10年やることになったんですけれども。この今の本社の場所に吾妻橋工場というのが当時ございまして」
久保利「この場所ですか」
小路「この場所です」
久保利「ほぉ」
小路「この工場を閉鎖し売却しなければキャッシュがまわらないという状況で」
久保利「うん」
小路「工場閉鎖もですね。工場の現業の従業員の勤務先を移さなきゃいけない。これも組合協議事項なんですね」
久保利「うんうん」
小路「そのような経験がございましてですね。やっぱり私は、人間というか社員はですね、会社の命だなと思うんです。確かに経営資源の一つなんですけど、私の個人感覚ではですね「モノ・カネ・ノウハウ」とは同列に扱えないと」
久保利「うん」
小路「人財と、よく言いますけれども」
久保利「はいはい」
小路「社員は、それよりももっと崇高な人間ではないのかなと」
久保利「なるほど」
小路「思いまして、社員が会社の命ということを申し上げたんです」
小路「社長になってからよくステークホルダーの方たちから「経営者から見たら順位はどういう順位ですか」と聞かれましてですね」
久保利「うん」
小路「私は「愚問だな」と聞かれた人に言ったんですね」
久保利「愚問ですか(笑)」
小路「たとえば、お父さんとお母さん、どっち好きですかと言ってるのと同じでですね。子供にとってはお父さんもお母さんもちょっと役割が違うだけでどっちも好きだし、どっちも大事なんですね。
ですから、シェアホルダーの方たちも大事ですし、社員もサプライヤーも、優先順位はつけられないと思ってるんです。経営者から見たら、社員というのはまさしく会社の命そのものです。
ちょっと抽象的ですけども、そんな感覚を、私の労働組合の体験の中から原体験として、心に刻まれたというか、植え付けられて、社員は会社の命という言葉に現れてきました」
久保利「なるほど」
【小路明善 PROFILE】
アサヒグループホールディングス株式会社 取締役会長兼取締役会議長
1951年 生まれ
1975年 朝日麦酒株式会社入社
2001年 執行役員就任
2003年 アサヒ飲料株式会社 常務取締役企画本部長
2011年 アサヒグループホールディングス株式会社 取締役
アサヒビール株式会社 代表取締役社長就任
2016年 同社 代表取締役社長兼COO
2018年 同社 代表取締役社長兼CEO
2021年 同社 取締役会長兼取締役会議長