『同調圧力って』久保利英明×濱田邦夫
2021年6月対談vol.3
濱田「日本の社会の基本原理というのは村の原則だ。というのはだいぶ前に聞いたことなんですけどね。村の三原則というものがありまして。まず掟がある。議論はしない。異論出す奴は疎外する、村八分とかですね。
この3つというのは、ずいぶん昔から言われてることだけどね、いわゆる原子力村、原発の問題なんかに関してもですね、当てはまるわけですよね」
久保利「すべてそうでしょう」
濱田「コスト的に考えれば全然あわないんです。原発というのは」
久保利「合理的にものを考えて」
濱田「そうなんです」
久保利「判断してくれないとね。同調圧力だとか、村の掟でやられたんじゃね、もう近代国家もたないじゃないですか」
濱田「日本の古来の美風ってやっぱりそうなのかな」
久保利「どうでしょうねえ。昔の縄文人が同調圧力で生きていたとは思えないけど、やっぱり徳川300年とか」
濱田「結局オリンピックの問題だって、本当はもう止めたほうがいいと思うんだけど、誰がいつ言うかということで、結局みんなで押し付けあって」
久保利「押しつけあって」
濱田「押しつけあってるでしょう、あれね」
久保利「責任とらなきゃいけないからね」
濱田「責任をとらないということで結局ズルズルやって」
久保利「一人一人が責任を負うという個の責任というか、個人の独立がない」
久保利「福沢諭吉が言った「国が強くなるためには個人が強くなきゃダメだと。独立しなきゃダメだ」というのがやっぱり明治維新を経てもダメだし、敗戦を経てもダメだし、ずっと繋がってるんでしょうね。
個人の責任での追求は厳しくくるんだけれども、全然へこたれないというか、平然として何遍もやるじゃないですか。
「今は亡き法制局」とかね。そういう面白いフレーズを使って自分の責任で、国会の公聴会の中央会でね」
濱田「あれは、面白かったね」
久保利「先生みたいに生きていると悔しいなとか、俺の真意はそうじゃないんだけども、なんでおまえらわかってくれないんだよとか、そういう悔しい思いしたことないですか」
濱田「悔しい思いねぇ」
久保利「ないでしょうね」
濱田「ないんでしょうね」
久保利「(笑)」
濱田「大学の入学試験で落っこった時は」
久保利「悔しいけど」
濱田「悔しいけど」
久保利「でも勉強してないんだから、しょうがない」
濱田「勉強してないんだからしょうがない(笑)」
久保利「僕もそんな悔しくなかったです」
濱田「司法試験も」
久保利「受かっちゃったんですね」
濱田「僕はたまたま入っちゃったということでね」
久保利「悔しい思いってあんまりしたことないでしょう」
濱田「悔しい思いは、あまりしないですね」
久保利「打たれ強いんですよ」
濱田「打たれ強いのかな。人間的にはね、気に入らないことがあると身体にくるね」
久保利「はぁ」
濱田「身体に。一応24時間で解消しますけどね。やはり行動が鈍くなったり、嫌な気分」
久保利「それは歳をとったからですか」
濱田「いや、昔からね」
久保利「昔から」
濱田「嫌な思いしたことがないってことはない」
久保利「ない」
濱田「ない」
久保利「ないけど、身体が吸収しておしまい」
濱田「身体が」
久保利「24時間で」
濱田「そうです、そう。なんかそういうシステムになってる(笑)」
久保利「トカゲかナメクジみたいな」
濱田「(笑)」
久保利「(笑)シッポ切っておしまいと」
濱田「いや、先生だって、あんまり悔しい思いしてないでしょう」
久保利「悔しい思いは身体には来ないし、どっかには来てんのかもしれないけど、悔しいというより、やっぱりバカの壁っていうか、自分の責任じゃなくて人のせいにしちゃうというのは、わりと物事を軽く終わらせる方法ではあるのかなあと」
濱田「あれ。人のせいにするの?(笑)」
久保利「俺は、違うところで、どんどんやっていくから」
濱田「うんうん」
久保利「というふうに、人を」
濱田「だから、やはりその馬鹿なこととか、つまんないことをいつまでもジクジク相手にしないで」
久保利「しないで」
濱田「もっとポジティブな建設的なことに」
久保利「根っこからひっくり返すことを考えてる」
濱田「自分のエネルギーとか、それならわかる(笑)」
久保利「悔しい、悔しいってね。いくら思ったって、バカ相手には勝てないですからね。それはしょうがない。じゃ違う方法でなんか考えようと」
久保利「世の中ね」
濱田「うーん、面白いというか」
久保利「悔しさじゃなくて、これは根こそぎどっかでひっくり返してやるというポジティブな考え方にするしか、なるしか、変わるしかないんじゃないですか」
濱田「20世紀の最後の規制緩和とか国際化とかですね。その波で私もたまたま最高裁に」
久保利「行ったんだよね」
濱田「日本の経済自体が、うまくいかないのが20年になっちゃってるけど」
久保利「30年続いているじゃないですか」
久保利「令和になって3年経つけれど、平成から令和まで33年間、ほとんど駄目じゃない」
濱田「そうですね。今、G5も完全に立ち遅れてますからね」
久保利「先進国でもなんでもないですね、日本は」
濱田「非常に優れたところはあるんですけど、先端的なIT機器の部品なんか」
久保利「部品はいいんですよ」
濱田「いいんですけど」
久保利「なんか仕掛けを考えないと。この国って一生なんか使われっぱなしでひどい目にあう。国の形とか官僚の形とか、みんな全部セットになっちゃってるから」
濱田「私も今月(2021年5月)85で、いまさらちょっとやれなくて残念ということもあるけれど」
久保利「100まで生きりゃ、あと15年はある」
濱田「(笑)」
久保利「(笑)」
濱田「これまたね、恐怖ですよ」
久保利「うんうん」
【濱田邦夫 PROFILE】
弁護士・元最高裁判所判事
1936年 生まれ
1960年 東京大学法学部卒業
1962年 弁護士登録
1966年 米国ハーバード大学ロー・スクール大学院修了
1975年 濱田松本法律事務所(現:森・濱田松本法律事務所)開設
1991~1992年 環太平洋法曹協会(IPBA)初代会長
2001~2006年 最高裁判所判事