バドストーリー02

バド・ストーリー(四天王編) (4)

医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、書きました。10回の連載です。お読み頂ければ、光栄です。

バド・ストーリー(四天王編) (4)

 洋弓の矢のように、十六枚の羽根の光が二人のセンターに突き刺さってきた。しかしサイドバイサイドでどちらが返球するかはトレーニング済みである。志保と知美は一打、二打、三打と打ち返す。少しあまく返球すると「ビシー」とシャトルは足元の床に悲鳴を上げてバウンドした。

 やはり連続レシーブには無理がある。11-8で「インターバル」に入った。                                「知美、遊ぶのもいい加減にしなさい。打ち合わせた戦術でいくわよ。いーい……」

 と志保は応援団に背を向けながらきつい表情で噛みついた。すると、知美は軽く「ごめん、でもお互いレシーブ力、結構あるじゃん。志保を見直しちゃった。だけど15本まで待って。そこで切換えるから---」

 志保はこの我儘なパートナーの遊び心に程々呆れかえった。何を考えているのかさっぱり分からない。

 志保は強烈なスマッシュ対策にある理論を取り入れていた。それは定位置を「ラケット一本分」後ろにずらすことであった。

 スマッシュの速い選手が、バックバウンダリーラインから打ったシャトルは、0.3秒でレシーブ側に届き、その距離は約8mとされる。そしてこの0.3秒がシャトルに対する反応時間と筋収縮時間の和に近似しており、反応できる境界時間となる。ラケット1本分はまさに境界時間の調整であったのだ。

 県船中央の四天王は、この理論に精通していた。講師は、百花であった。厳しい百花の講義はプラスして「コートの中で考えるプレイ」も教えてくれた。知美の遊び心もこの辺からきている。

「1コート、20秒、20秒……」

 と主審の甲高いコールが響いた。同時に志保は知美を睨んだ。知美はあっけらかんとした態度で、ぼそっと伝えた。 「志保、あの二人を絶対たおすわよ-」ポイントは負けているのにこのパワーはどこからくるのか不思議である。

 12-15となった。3ポイント追いかける流れである。「志保ごめん。例の戦術に切替えます。宜しく……」

 とあっさりと知美からサインが発信された。すると、いままで藤井・田崎組があれほどスマッシュレシーブをバックバウンダリーラインまで返していたプレイは、嘘のようにネット左右にレシーブストップで返球するようになった。相手のペアは面食らった。唯一の武器である強烈なスマッシュが使えない。動揺して凡ミスを連発。

 藤井・田崎組は、18オールから一気に逆転、21-18で第一ゲームを勝ち取った。チェンジエンドである。

「志保、1ゲーム目楽しかったでしょう。私たちは負けないわ。戦術を少し変えたけど……」

 と知美は全く反省の態度ではない。志保は無言のまま、手のグーを知美に差し出した。間髪入れずグーが帰ってきた。知美の性格を知り尽くしている志保である。

 セカンドゲームが始まる。相手の長身の強烈スマッシュは影を潜めた。流れがガラリと変わり、あっという間にマッチポイントをむかえた。

 シングルスは力が拮抗している。問題は第二ダブルスである。  つづく