バド_ストーリー_四天王編Ⅱ_表紙

バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (1)

医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、小説を書きました。前回の四天王編に続き、四天王編Ⅱを連載します。お読み頂ければ、光栄です。


バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (1)

 県立船橋中央高校、バドミントンクラブは新たな挑戦のスタートを切った。その中で四天王もまた、短期間で戦略の立て直しを進めていった。

 4月下旬に行われた関東大会県予選会の経験は、全部員に勝つことの厳しさと基本の重みを教えてくれた。と同時に、バドミントンというゲームの楽しさを存分に味わう方法も教えてくれたのである。試合終了後、顧問の川島は突然、部員の皆に伝えた。

「みんな、ご苦労さん。これから反省会をします……」

 と言って東船橋駅近くの「お好み焼屋」を指定した。通学路にあるなじみの「もんじゃとお好み焼」の美味い店である。結構広い造りで裏庭に椅子とテーブルをセットをすれば大人数でも宴会用には十分である。

「ヤッター、川島先生、最高―。大好き―」

 一・二年生は大はしゃぎである。「えっ、いつもの態度とは違うな、全くこの人たちときたら、現金な連中なんだから……」

 ときららは、半分あきれ顔になった。

 激戦を忘れ一行がヘトヘトの身体を引きずりながら店に到着すると「お好み焼」のとろけるソースの香りが、皆を待ち受けていた。店のおやじが一流の腕前をふるって、プロの味で待っていたのである。

「さぁー、皆さん、いっぱい食べて。準優勝、おめでとう。先生、こっちよこっち―」

 と言いながら店主は上座の皆が見える席に案内した。隣に、マネージャーの森がいた。川島は、森に一言、詫びを入れた。

「森、ごめんよ。お店が休みなのに無理を言って……」

「いいのよ先生、うちの親父、嬉しくて嬉しくて、もう大変よ―。どうしてもみんなを連れて来いって言うの……。とにかく先生に交渉しろってきかないのよ……」

 なんとこの店は、マネージャー・森の実家だったのだ。森は、同級生と部活のメンバーにはこの事をひたすら隠し通してきた。そこへガラス戸が、突然ガラガラと音を立てながらが開いた。

「おおー。みんな、今日はよく頑張ったな。お祝いだ。いっぱい食べてくれ―」

 と言って、白髪の老人がすぅーと店に入ってきた。

「キャー、なにー、どうしたの。キャー……」

 黄色い叫び声が一斉に飛び交った。するとその老人はぴょこんと川島の横に座って、おもむろに熱い両手で川島の手を覆い包んだ。老人が何かを言おうとした。しかしそれを阻んで興奮した川島が先に口を開いた。

「校長、この連中、やってくれましたよ。すごい生徒達です。今日私は、いろんな事を学びました―」

 と言いながら赤い眼から大粒の涙を零した。鉄板の上では、川島の宝石がジュージューと音を立てながら塩分だけを残して蒸発してゆく。あまりの展開に志保は感動の気持ちを抑え切れなくなった。

「みんな、校長先生も駈けつけてくれました。感謝・感激です。校長先生、川島先生、本当にありがとうございました―」

 この川島と部員の結束の証明が、総体とインターハイに向けた最高の決意表明となっていった。

                                   つづく