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バド・ストーリー(四天王編) (9)
医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、書きました。10回の連載です。お読み頂ければ、光栄です。
バド・ストーリー (四天王編) (9)
決勝戦、第一ダブルスの試合はお互いが持っている全ての能力を出し切るような凄まじい戦いとなった。
ダブルスの原則(日本バドミントン協会・応用編)とは「パートナー二人のプレイの特徴を最大限生かしたダブルスを作る。そのために攻撃時・守備時・つなぐ時の約束事や動き方を構築する」と記載されている。そして実戦での具体策が紹介されている。
○相手選手の特徴を把握して、弱点を攻める。
○いろいろなショットで予測しづらくさせる。
○相手の脚を瞬間止めさせ、反応時間を遅らせる。
○返球コースを制限させ、前衛が決める。
○スマッシュは浮いたコースも狙う。
○スマッシュレシーブから攻撃に移る。
○ハーフからドライブを打つ。
藤井・田崎組はダブルスの原則を見事に体得した素晴らしいプレイを続けた。しかし相手も負けてはいない。結局、ファーストゲームは2ポイント差で藤井・田崎組に軍配が上った。
ダブルスで共に戦っている志保と知美は、二人だけが知っている運命的な出会いで結ばれている。中学二年の秋、志保は顧問の先生と共に船橋のとある中学校に向かった。顧問の特別の計らいで実現した貴重な練習試合のチャンスであった。志保はそのことを今でも鮮明に覚えている。顧問の先生に対しては感謝の気持ちでいっぱいである。それだけその日の出来事は、強烈であった。
基本練習の後、トップシングルの試合が設定された。その時、志保の相手が知美だったのである。知美はそのクラブのキャプテンを任されていた。当時、知美は船橋地区でシングルスナンバーワン、ダブルスでも千葉全県中学大会でベスト4に入っている実力者であった。当然、プライドは高い。
「田崎さん、宜しくお願いします……」
と志保が話しかけるのだが、返事は返ってこなかった。志保はメラメラと燃え上がった。「バドミントンは挨拶から―」と社会人クラブでしつこく教えられた志保にとっては、むっとする怒りである。2ゲームで1対1となった。両顧問は気をつかい、ファイナルゲームは持ち越しの配慮をとった。練習終了後、キャプテンの知美が、突然志保に近づいてきて「ぼそっ―」と言った。
「藤井さん、今日は恥ずかしい態度ですみませんでした。1ゲーム負けて目が覚めました。藤井さんとはまたどこかで会いそうな気がします。一緒にバドミントンがやれたらいいですね……」
志保は、瞬間この女(子)は気が優しくて純粋なんだなと感じた。そして、まるで星のように「キラキラ」輝いているようにも見えた。志保はこの鮮明な記憶を今も大切にしている。
二人はバドミントン部の新入部員説明会でバッタリと再会を果たした。さらにその彼女が今なぜか自分のパートナーとなっている。運命の悪戯は時には粋な計らいをするものである。
知美が突然、提案をしてきた。
「ねぇー、志保、次はドライブを中心に組み立ててみない。過去データと第一ゲームを見ているとなかなか、いけるかもよ―」
この知美の戦術が意外や、ズバリ的中するのである。 つづく