バドストーリー02

バド・ストーリー(四天王編) (8)

医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、書きました。10回の連載です。お読み頂ければ、光栄です。


バド・ストーリー (四天王編) (8)

 きららのシングルスは相手の気迫が勝り1ゲーム目を落としてしまった。しかし、きららは表情一つ変えず淡々とプレイしている。インターバルに入り、顧問の川島は、きららに相手選手の分析結果を伝えた。

「きらら、ネット左隅にブラックホール発見。相手はドロップ、ヘアピンのレシーブで失敗が多い。あとフォアーサイドが全体的にミスが多い。ハイバックは完璧。コーナーからのスマッシュが今日はクロスが多いね―」

「先生、レシーブの場所はどうですか―」

「きららのバックを集中的に狙っているようだ―。4割がハイバックに返球している。しかし、過去のデータをみるとバックラインに引きつけておいて、左右のネット前にフェイントのドロップ、カットドロップが多い。彼女は、2ゲーム目の仕込みをやっているようだ。きらら、プレイヤーは自分の得意な攻撃パターンを必ずしも受ける側でうまく捌けるとは限らない。むしろ、逆が多い。相手が切り替えてきたら同じ戦術がとれるかい……。きららだったら絶対にできると思うけど―」

「へぇー先生、なかなかやるじゃん。面白くなってきたわい―」

 と年寄りじみた言い方をしながら、きららは今まで根性論ばかりを展開してきた川島先生にちょっぴり尊敬の念を抱いた。

「セカンドゲーム、ラブオール、プレイ……」

 きららは後押ししてくれる顧問・川島のパワーを感じながら、第2ゲームに入って行った。2-2の時だった。バックラインからクリアーを返球すると突然、左サイドにリバースカットが打たれた。しかし、きららは完全に予測していた。ドライブのクロスで対応する。その返球に相手は慌ててラケットを伸ばしたがフレームに触れただけだった。相手は明らかに動揺している。

 結局、第2ゲームはきららチームの大勝利となった。予測戦術の有効性は確かに認められたのである。

 ファイナルゲームが始まった。両者は一歩も譲らない展開となった。20本以上も続く壮絶なラリー合戦が観覧席の応援団をくぎ付けにさせた。気になるのはとなりの第二ダブルスである。百花組は豊富な過去データを基に具体的な戦術を展開しようとしている。しかし、自分達の凡ミスが引き金となって自滅しそうだ。

 バドミントン競技の特殊性に「自滅の凡ミス」というキーワードがある。それは誰もが勝利を確信する選手がミスの連発で自滅していくストーリーである。

 マネージャーの島田と森は二人の応援に必死である。何とか勝ってほしいという願いが顔面に素直に出ている。更に二人は責任感が強い。「もしも負けたらみんな私たちの所為-」と思いこむタイプである。しかし、勝負の世界はそんな願いも打ち砕いてしまう。第二ダブルスは10-21、12-21と完敗であった。

「島田さん、森さん応援ありがとう。随分、役に立ったよ。心から感謝します……」

 と百花は二人を連れ出し、体育館の裏通路で肩を叩いて励ました。隣のコートへの影響を考えたからである。二人のマネージャーは噴き出してくる涙が止まらない。

 決勝の行方は、第一ダブルスとシングルスの結果次第となった。  

                               つづく