バドストーリー02

バド・ストーリー(四天王編) (3)

医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、書きました。10回の連載です。お読み頂ければ、光栄です。

バド・ストーリー(四天王編) (3)

 四月下旬、関東大会県予選が千葉県総合スポーツ体育館で始まった。2ダブルス・1シングルスのトーナメント戦である。

 県立船橋中央高校は、戦略通り順当にベストエイトまで勝ち進んだ。久しぶりのエイトであったが、選手の頭の中には決勝戦で西武台東高校と対戦することだけが目標とされていた。しかし、その決勝戦の前に立ちはだかる学校があった。千葉女学館高校である。部会で散々分析を繰返した例の高校であった。

 準決勝は、第一ダブルスを藤井・田崎組でオーダーを提出している。相手のダブルスはビデオに登場してきたあの強烈なスマッシュを連発するデカペアであった。

 二組のダブルスはネットの下で軽く握手を交わし、トスに移った。志保は握手の時、相手の手の柔らかさの中にメラメラと燃え上がる熱い迫力を感じた。それに打ち勝つためには「根性」しかないなとふっと思った。「根性!」どっかで聞いたセリフだ。途端に「あっ、あの川島がいつも軽く言うあれか……」と不思議な感覚に襲われた。

「ねっー。知美、私たちのレシーブ力を試してみない。拾って拾って取りまくるのよ。私に任せて……」                     「何、馬鹿なことを言ってんの。戦略通りにやるべきよー」

「オンマイライト藤井さん・田崎さん、県立船橋中央高校。オンマイレフト~……」と主審のコールで、相手側のサービスから第一ゲームが始まった。

 競技規則第6条にトスのルールが定められている。第1項(1)にサービスかレシーブを選ぶ。(2)にコートのどちらかのエンドを選ぶ。県船は、ラリーポイント制になってから優先順位をレシーブ、エンド、サービスと決めている。その理由は、最初のサービスミスの回避にある。時には、体育館の照明の加減からエンドを選択する場合もある。

 二組のダブルスはお互いのレベルを探りながらプレーを続けてゆく。2-2となった。相手のサーバーが知美の右隅に正確なショートサービスを放った。知美は「志保、いくよ」と短く小声で戦いを宣言した。続いて、相手後方左隅、バックバウンダリーラインぎりぎりに高いロブを返した。すると遠くに相手選手の後衛が軽やかにジャンプする姿が光った。とその瞬間-。

「バシッ―」

 そのスピードはビデオで確認していた速さより数段速い。そして、ストレートが突き刺さるように志保に向かっていった。志保が反射的にバックレシーブで可憐に捌く。ほぼ相手センター、バックラインに落ちていく。

「志保、なかなかやるわね。またスマッシュがくるわよ---」と一瞬の思考の間に、長身の後衛からまたもや十六枚の羽根の矢がスクリュー音を立てながら向かってきた。今度は、二人のセンターである。

 バドミントン教本の多くに、パートナーの間、つまりセンターは最も狙うべきターゲットエリアであると定義されている。実際、狙ってみると確率は高い。

 第一ゲーム、志保と知美は、強烈なスマッシュを受けに受け、拾いに拾った。すると不思議なことに少しずつ流れが変わっていったのである。

                               つづく