バドストーリー02

バド・ストーリー(四天王編) (2)

医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、書きました。10回の連載です。お読み頂ければ、光栄です。

バド・ストーリー(四天王編) (2)

 志保は全員の顔を眺めたあと、おもむろに口を開いた。        「みんな、この半年間、中原さんのトレーニングメニューを完璧に熟してきたわ。すごいことよ。もっと自信持っていこう。今度の予選会はその成果を試す時よ。わかった。じゃ、私から連絡事項を……」 

 と言いながら予選会のスケジュールをスクリーンに映して、役割分担、集合場所、応援方法のチェックなど、てきぱきと皆に指示を出した。そしてもう一度皆の顔を見渡して、「この組合せだと、ベストエイトまで順当に勝ち進むことができるわ……。でも気を抜かないでね。ああ-、マネージャーの島田さん、森さん、今回の予選会もいつものようにビデオ撮影お願いね-」と伝えて志保は、再び副部長の知美にバトンタッチした。二人のマネージャーはガッツポーズでそのミッションを受け取った。

「ベストエイトまでの学校の強そうなダブルス、シングルスのリストは説明した通りよ。その特徴と狙い目も覚えててね……。資料はスライドの通りよ。だけどいつもの事だけど資料を作ってくれた部長のジージーには感謝しなくっちゃね。志保、ありがとう……」

 と知美がまとめて礼を言うと、志保の顔がほんのりと赤くなった。志保は、心の中で「家に帰ったら、早速映像マニアのジージーに今日の出来事を話してあげよう」と決めた。志保の父親は製薬会社に勤めている。その趣味はプロ級の映像制作者であった。さらにバドミントン経験者であり、全日本シニアにもトライするジージーであった。

 知美の声はどちらかといえば「アルト」に近い。その冷静な声が、裏返って甲高いソプラノに変身した。                     「問題はベストフォーの千葉女学館よ。ダブルス二組ともスマッシュが速いの。ジージーが編集したこのビデオをよく見て、バックラインの隅からでも強烈なスピードよ。この対策をしっかりと身につける必要があるわー」

 スクリーンに映し出されたダブルスのペアからは強烈なジャンピングスマッシュが炸裂している。その軽やかな動きと鋭い角度で、実に気持ち良さそうにスマッシュを連発しているのだ。それを見ていた部員は、教室に一気に流れ込んできた冷気で、あっという間に凍ってしまったかのように静まりかえった。

「一・二年生の中でラケットを回している人は何人ぐらいいるかしら。ちょっと手を挙げてみて……」と突然、知美が質問すると「先輩、言っている意味がよく分かりません。どういうことでしょうか-」と教室の最後尾にいた一年生が素早く聞き返した。

「ビデオを巻き戻すね。よく見ててよ。スマッシュを打ち込んだ後、ほら、一回ラケットを回してるでしょう。上級者のほとんどが何気なしにやっている行動よ。一・二年生は家に帰ったら必ず練習してね。なぜ必要かというと、ハンドル操作を素早く切換えるためなの。長く握ったり、バックハンド、フォアハンドグリップに変化させる為には絶対に必要な技術よ。分かった……」

 と説明すると、皆の瞳がキラリと光り輝いた。また一段アップした証拠だ。最も感動して納得したのは川島先生である。「ほぉー」と感嘆の声を漏らした。                           つづく