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バド・ストーリー(四天王編) (7)
医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、書きました。10回の連載です。お読み頂ければ、光栄です。
バド・ストーリー (四天王編) (7)
「それでは両校、整列してください。ただ今から決勝戦を行います―」
と審判の妙に軽い宣言が、激闘の始まりとなった。第一ダブルスの藤井・田崎組と西武台東高校のトップダブルスが第一コート、シングルスが第二コートといった並びで、シングルスが左右から挟まれる配置となった。
「きらら、頼むね。川島先生のデータ分析をよく見てね。たまには役にたつんだから……」
と心配顔で志保はきららを優しく励ました。すると、きららが言った。
「了解。私より先生の方が震えてるわよ。だらしないったらありゃしない。でもまぁ、いっか。優しいんだよね。あの先生……」
といままで聞いたこともないセリフが返ってきた。きららの緊張度が分かる。第一ダブルスは志保がレシーブである。2-2、3-3、4-4と接戦の流れで両者一歩も譲らない試合となった。志保が相手正面にショートサービスを放った。それをヘアピンで返される。高いつなぎのロブ。二人はサイドバイサイドで応戦。相手の「バシーン」という矢のようなスマッシュがセンターを襲う。知美が左隅にショートリターン。今度は相手が高いロブ。志保が空中に浮かぶ。相手はサイドバイサイドの沈み込み動作に入る。志保はジャンピングスマッシュと見せかけて左後方隅にドリブンクリアーを打つ。前の試合で会得した戦術である。
相手のタイミングが一瞬ずれる。しかし、頭上後方のシャトルを追いかけてラウンドザヘッドストロークで返球する。それがふわーと浮く。すかさず知美が強烈なプッシュでコートの床に叩き落とす。
となりでシングルスも始まった。ネット下で二人が握手を交わす。何気ない挨拶の中にキバむき出しの猛獣の影が写る。
「お久しぶりね、私を覚えてる?中学の時三回戦ってるわよね―」
と西武台のトップシングルはきららに襲いかかってきた。きららはあっさりと返答する。
「えっ。そうかしら、記憶にないけどー」
すると、相手は血相を変え、怒りをあらわにして言い放った。
「いいかい。叩きのめしてやるからね。覚悟しなさい―」
プレイが始まる前からコートの中は、火の海に染まった。きららの策略はまんまと成功した。計算ずくの返答であったのだ。相手を興奮させ、力ませ、ファイナルゲームまでを考えたエネルギー配分である。
きららのゲームは最初からラリーの応酬となった。1ポイントが実に長い。試合運びの原点は、サーブから五打目までの組み立てにあるという。参考図書の中にラリー数のデータ解析がある。その中の一般選手のラリー数の平均値は五打となっている。四天王達はこの組み立て戦術を完全に身につけていた。しかし、今回のようにハイレベルな試合になると全く通用しなくなる。更に、実業団リーグ、全日本選手権などレベルが高くなるほどラリー数が多くなるのだ。そこで問われるのが体力の勝負ということになる。
単純に運動量の比較は難しいが、バドミントン競技は水泳についで二番目といわれる。それほど過酷な競技なのだ。そして、ダブルスは瞬発力とスピードが求められ、シングルスは加えて充分な体力が必要となる。
激闘の三試合が並行して進んでゆく。 つづく