バドストーリー02

バド・ストーリー(四天王編) (6)

医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、書きました。10回の連載です。お読み頂ければ、光栄です。


バド・ストーリー (四天王編) (6)

 県船中央が、県の大会で決勝戦まで勝ち上がったことは今までに一度もない。さらにそれを予想した関係者もいない。四天王達は、未知の領域に踏み込んだのである。

 顧問の川島は、足の震えが止まらない。逆に驚くほど冷静な部員たちが今日は遠くに見える。

 学生時代、全くスポーツに興味のなかった川島は、県船に転勤してからもしばらくはクラブの顧問を外れていた。偶然にも空席ができ、全く知識のないバドミントン部の顧問を二つ返事で引受けたのである。運命は時にドラマを生み出す。川島は部員たちとつき合っていくうちにバドミントンという競技の奥深さを知った。そしてすぐに、虜になっていった。今、川島の肉体は、勝利の感激と決勝戦の不安が重なりあって、自分の意図とは別に膝がカタカタと笑っている。

 大会本部から連絡が入った。決勝戦は三十分後と決まった。しかし、ここで大事件が起こったのである。決勝戦と三位決定戦は、六コート同時にスタートするというコメントがあったのだ。先に二勝した時点で残りの試合は終了となる。

 顧問の川島は、全てが初体験でただただうろうろするばかりであった。志保はここぞとばかり檄を飛ばした。

「川島先生、うろうろしないでください。先生が落ち着かなかったら皆が動揺するでしょう。私たちそんな軟な連中じゃないのよ―。今日のためにいろいろ頑張ってきたし、辛い百花のメニューも熟してきたのよ。本当の実力を試すいいチャンスだわ―。きらら、シングルスは大丈夫?第一ダブルスは田崎・藤井組、シングルスはきらら、第二ダブルスは百花と二年生でいきましょう―。先生、オーダーの提出をお願いします。あと、きららのベンチには川島先生が入って下さい。第二ダブルスの百花組のベンチには、マネージャーの二人が入って―。島田さん・森さん、知美のノートを参考にして百花に指示を出してあげて。みんな、分かってるよね―。精一杯楽しむのよ……」

 志保部長の指示は、部員皆を一丸とさせた。そうして戦闘態勢が構築されたのである。志保はきららに言った。

「きらら、今まで聞いたことなかったけど、西武台のトップシングルって中学からの知りあいじゃないの?」

 すると、きららは不意を突かれた様子で、少し間をおいて答えた。

「今まで三回戦ったことがあるわ。結果は、全敗というところかな。あの子は昔から強かったわ。でも、今日はみんなのために負けらんないわ―」

 志保は感動した。きららの言葉としては、初めてのセリフである。志保はシングルス決定のとき、きららのわずかな変化も見逃さなかった。そして、感はズバリ的中した。きららに対する目に見えないプレッシャーは相当なものに違いない。しかし、それに立ち向う根性は十分に確認できた。

「ただ今から、決勝戦と三位決定戦を行います―」

 大会本部のアナウスが四校の名前を読み上げた。一瞬、観覧席から「オォー……」というどよめきが起こった。それを聞いた四天王は身震いをした。いま四人の仁王像は、襲ってくるプレッシャーを撥ね除け、強敵に向かって「ワオー」と吠えようとしている。                つづく