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美女の習い事もエスケイプ

僕は生まれながらにしてケチな性分だ。
だから、1円たりともムダなお金を使うことを良しとしない。

カフェには入らず、公園のベンチで缶コーヒーを飲む。
冬は温かいコーンポタージュに変わる。
まるで流浪人のような生活。

一時期は缶入りコーンポタージュだけを特集したウェブサイトを作っていたが、マニアック過ぎて誰も見ないので、ひっそりと閉鎖した。

コロナウイルスで東京が半ロックダウンしていた頃、上野にある書道教室に通った。入会金は壱万円だったが、祖父から引き継いだ聖徳太子の貴重な札で気合を入れて支払った。

書道の世界は、さまざまな団体が存在し、それぞれが定期的に展覧会を開催している。団体が違えば流派も異なり、審査員もまた然り。どの団体に所属しているかが、作品の評価を左右することも少なくない。

しかし、僕は根っからのケチだ。季節の挨拶や贈答品といった文化には馴染めない。そんな性分だからこそ、この趣味を続けるのは難しいと悟った。

とはいえ、美人が集う書道団体での書道生活には後ろ髪を引かれた。だが、書道用品の見積もりを見た瞬間、その未練も吹き飛んだ。僕はせどりや古物の売買を経験しているから、価値のあるものと無いものの見極めには自信がある。先生が好きだからといって、薦められるままに高価な用具を揃えていたら、賞を受賞する頃には、そのまま多重債務者になっていただろう。

実際、大賞を受賞した人の話を聞いてみると、「小さな部屋で、巨大な作品を折れないように、汚さないように書き上げるのが大変だった」とのこと。それを聞いて、僕はそっと筆を置いた。

そして、頂いた硯はそのまま預けてきた。本物の先生の習い事にはお金が必要だと言う事を痛感した出来事だった。


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