進撃のByteDanceと中国版TikTok、Douyin(後編)
皆さんこんにちは。夏目です(@HideoNw)です。
さて、前回の記事ではTikTokを運営するByteDanceの動向を振り返る記事を書きましたが、今回の記事では中国版TikTokであるDouyinについての解剖記事を書きたいと思います。
皆さんもご存知かもしれませんが、Douyinが中国で人気を博した後に、グローバル版のDouyinとして誕生したTikTok。日本でも中高生を中心に絶大な人気を誇り、2018年の流行語大賞にも「TikTok」という単語がノミネートするほどの人気っぷりです。そんな中でよく皆さんから「TikTokと中国で使われているDouyinって全く同じものだよね?」といったご質問をいただくのですが、両者は似て非なるもの、それぞれ異なる動画サービスという認識です。そこで今回は、Douyinに一歩踏み込み、自身の使用体験と所感を交えて、解剖記事を書いていきたいと思います!(間違っているところがあればぜひご指摘いただけますと幸いです!)
Douyinについて
まずDouyinについてですが、TikTok同様、クリエイターが自由にショート動画を投稿することができるプラットフォームです。2016年9月20日に中国でリリースされた当初は、「A.me」(adore me)という名前で「musical.ly」をベンチマークしたサービスでした。プラットフォーム上で投稿されている動画も15秒以内のショート動画であり、どちらかといえば日本で使われているTikTokに近い印象です。
余談にはなりますが、後にDouyinと改名するA.meやmusical.lyもドイツ発のリップシンクアプリである「Dubsmash」をベンチマークしていたと言われています。このDubsmashも、上述の両サービスに抑え込まれ、2017年以降は瀕死の状態が続いたものの、2019年年初から方向転換をし、主要ターゲットユーザーをアメリカのアフリカ系ティーンエージャーに絞ったところ、2020年にはV字回復を達成。同年12月には米国のRedditに買収されました。
さて、Toutiaoの成功をもとに、鳴り物入りでデビューした「A.me」ですが、リリース当初から苦戦を強いられます。すでに米国市場で成功を収めていたmusical.lyや、中国国内でもA.meに先んじてリリースされていた「快手」や「秒拍」にもユーザー数、視聴回数、知名度ともに敵わず、2017年3月まで鳴かず飛ばずの状況が続きました。
実はこの時期に、ByteDanceはA.me以外にも、「西瓜視頻」、「火山小視頻」という動画サービスを並行で走らせており、西瓜視頻は長尺動画、火山小視頻は地方ユーザーに特化したショート動画コミュニティサービス、そしてA.meは若者にスポットライトを当てた音楽動画コミュニティという立ち位置でサービスを運営していました。今でこそDouyinは上記の各数値において両サービスを大きく上回りますが、当時は西瓜視頻がByteDanceの中でもトップを走り、その次に火山小視頻、A.meの順となります。
A.meが大きな飛躍を遂げたのが2017年4月、まずは従来のA.meから現在のDouyinに改名し、明確に音楽動画コミュニティとしての立ち位置を確立。運営チームもリブランディングに奔走し、当時中国で絶大な人気を誇っていた「中国有嘻哈」(The Rap of China)や「快楽大本営」にスポンサーとして協賛。また、Kris Wuや、Lu Hanといった中国で人気な芸能人をプラットフォーム上に招待したところ、若者を中心に人気が爆発。2017年3月時点では29万ユーザーだったDouyinも瞬く間に173万ユーザーを突破し、デイリーの動画再生回数は10億回を突破しました。そして同年9月にはmusical.lyを買収し、海外戦略に力を入れます。
musical.lyが勝ちきれなかった市場でDouyinが勝てた要因について、EVの平田くん(@t_10_a)がTwitterでまとめていたので、こちらの記事でも引用させていただきます:
以前DouyinとKuaishouのコンテンツ配信方法とレコメンドシステムに関するリサーチをしたことがあったので、こちらにリサーチした際使用した図も添付します:
Douyinの解剖
ここまではDouyinの歴史を簡単にまとめたものになります。これからは現時点(2021年4月9日)のDouyinを解剖していきたいと思います。できる限り最新の機能(噂になっているデモ版含め)を皆さんに紹介したいと思いますが、Douyinは毎日のように新機能が更新されるため、追いついていないものも多く、そこはご了承いただけますと幸いです。
まずはトップページから。DouyinとTikTokの両サービスのトップページ自体はそこまで大きな差はないものの、Douyinの方には左上にライブ配信ボタンがあります。こちらのライブ配信ボタンをクリックするとライブ配信ページに飛ぶことができ、通常のライブ配信以外にも、ライブコマースや、オンラインカラオケ、オンラインチャットなどいろんな形式のライブ配信を楽しむことができます。Douyinにとって、このライブ配信機能は大きなマネタイズポイントであり、中国メディアの報道(晚点LatePost)によると2020年のGMVは5,000億人民元(8兆3,500億円)を突破し、そのうちEC機能(主に動画に埋め込まれているECやライブコマース)は全体の40%を占めるとされます。2021年にはECのみでGMV 1兆人民元(16兆7,000億円)という目標を設定し、これは中国ECの二番手であるPinduoduoに限りなく近い数値となります。
このライブ配信ボタンも次のメジャーアップデートでは新しく、”発見”ボタンへと変わり、メニューの中からライブ配信やEC、音楽、ミニプログラムへとアクセスすることができ、WeChatやAlipayに次ぐメガアプリへとアップデートされることが予想されています。2020年9月時点で、DouyinのDAUは6億突破し(Douyin火山版を含む)、これらのアクティブユーザーをどのようにGMVへと転換するかがByteDanceの最重要課題でしたが、次回のアップデートでは全面的にメガアプリへと成り代わり、この課題も徐々に解決されると思われます。
次はユーザーページを見てみましょう。トップページとは異なり、こちらはDouyinとTikTokの間で大きく異なります。TikTokはシンプルにフォロワー数、いいね数と各動画になりますが、Douyinは上記に加えてECリンク、フォロワー専用のグループリンクなどが埋め込まれています。これも前述のように、6億を超えるDAUをGMVに変換するための施策です。個別で見ると、左のグルメアカウントは公式の提携リンクがあるのですが、これはDouyinがオフィシャルに開設しているマーケティングプラットフォームであり、ブラントとMCN/クリエイターをマッチングするサービスになります。真ん中のMeituan Hotelは、ホテルの予約リンクを設けており、Douyinからホテルの予約をすることができます。
ここまでがDouyinとTikTokの基本機能の比較でしたが、次はDouyinのみに搭載されている機能の解剖を進めたいと思います。まずはコロナ前後で爆発的な成長を遂げた「団購」(まとめ買いサービス、詳細は昨年Weekly Chinaで執筆したこちらの記事から)モデルについて、数多くのITジャイアント(Alibaba, Pinduoduo, JD.com, DiDi, Meituan)が参入する中、ByteDanceもDouyinにてまとめ買い機能を設置。ユーザーは動画もしくはユーザーページからまとめ買いページにアクセスすることができ、そこから商品のまとめ買いをすることが可能です。Douyinのまとめ買いは今でこそレストランや、ショップと直接紐づいており、配送部分も販売者が担当するような仕組みになっていますが、この記事の執筆中にもByteDanceが新たに物流拠点を設け、物流システムの構築に乗り出しているとの報道が出ました。ゆくゆくはDouyinのソーシャルコマースをさらに深掘り、コンテンツからサプライチェーンまで一貫したサービスの提供を試みるByteDance社。また中国国内以外にも、東南アジア及びイギリスの越境ECも手がけ始め、上記の物流拠点で海外商品の集荷と配送を行っているそうです。
最後に紹介するのがDouyin内に設置されている口コミ/ランキング機能になります。こちらもかなりタイムリーなタイミングですが、昨日(4月8日)中国広州にてDouyinが主催する「抖音電商首届生態大会」(Douyin ECエコシステム大会)が開催され、Douyin ECの代表である康澤宇は今後の戦略として「興趣電商」という概念を提起しました。この概念はこれまでの自発型EC(or 需要型)を覆し、人々の潜在的な興味から需要を引き出す、いわゆる潜在型EC(or 受動型)へと変化することを意味しています。これまでのユーザーは、自身の需要に応じて商品を購入していましたが、中国の経済成長に伴い、国民の生活水準も上がり、需要ベースの商品以外にも人々のQOL向上に役立つ商品にニーズが集まると康澤宇は話します。そのため、今後のDouyinはコンテンツECとしてではなく、コンテンツから人々のニーズを掘り下げていく潜在型ECである「興趣電商」を目指すとのことです。
前置きが長くなりましたが、Douyinの口コミ/ランキング機能もまさに、これまで人々のスコープから外れていた商品やレストランなどをコンテンツ(動画、口コミ、ランキング形式)で提供し、ユーザーのニーズを掘り起こしていきます。
そして上記の口コミ/ランキング以外にも、水面下で動いているのがDouyinによる店舗向けのオーダーシステムの構築です。すでに北京や上海、杭州などの大都市において、DouyinのQRコードを通じてレストランや店舗のクーポン、サービス内容を確認することができるシステムが搭載されています。いわゆるローカルサービスにも注力し始めたDouyinは、業界最大手であるMeituan(大衆点評)にも攻勢を仕掛け、コンテンツベースでのローカルサービスの提供に乗り出しています。
ここまでDouyinのEC機能をメインに紹介していきましたが、ByteDanceの創業当初、主事業がレコメンドニュースアプリのToutiaoであったため、その系譜を受け継いでいるDouyinももちろんのこと、動画ニュースアプリとしての側面を持ちます。アプリ内には時事のランキングや、一時期はトレンドのコメント機能も搭載されていました(現時点では確認できず)。
この記事を執筆している最中にも、物流システムの構築や、Douyin ECによる「興趣電商」概念の提起など日々多くのプレスリリースで業界を盛り上げているByteDance。その先にあるのは、AlibabaのAlipayや、TencentのWeChatに対抗する第三のメガアプリ:Douyinの強化だと思われます。中国において、すでに人口によるインターネットボーナスは頭打ちとなり、ユーザー数偏重主義からサービスの利用時間が数値として重視される中、コンテンツの雄として、Douyinが第三のメガアプリとして台頭するポテンシャルはかなり高いです。今年に入り、Douyin Payも新たにリリースされ、ByteDanceもDouyinをベースとした新たなECサービスを立ち上げると明言し、ECの覇者であるTaobaoやTmallに真っ向から勝負を仕掛けます。Alibaba、Tencent、そして次世代のITジャイアント:ByteDanceの行方はいかに。今後も彼らの動向から目が離せません!
Twitter : @HideoNw
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