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コーヒー、ラーメンといちご

皆さんこんにちは!Asu Capital Partnersの夏目です。

今日は普段と少し異なるお題で、「コーヒー、ラーメンといちご」について書きたいと思います。

コーヒー、ラーメンといちごは普段の生活でも目にすることが多く、特に日本人にとってはかなり親しみのある食品・飲料だと思います。かくいう私も、コーヒー、ラーメン、いちごは大の好物で、海外生活が長かった自分にとって、帰国する際に、手軽に自販機やコンビニで手に入る美味しいアイスコーヒー、どんぶり一杯に旨みが凝縮されたラーメン、酸味と甘味のバランスが取れたいちごなどをいただくのが本当に楽しみでした。もちろん海外でもこういった食品や飲料をいただくことはできるのですが、やはりMade in Japanのクォリティは高く、帰国する時の楽しみの一つでした。

今回の記事で取り上げる「コーヒー、ラーメンといちご」は、そんな日本のクォリティを保ち、海外で躍進を遂げた事例となります。もしかしたらここまで読んで、すでにいくつかの事例を思いついた読者の方もいらっしゃると思いますが、しばしお付き合いいただけますと幸いです。

「日本」のコーヒー、香港から京都、そしてグローバルへ


「%Arabica」のホームページ
https://arabica.coffee/

京都・渡月橋の近くに佇む一つのコーヒー店。%がシンボルのコーヒー店は不思議と京都の風景に溶け込み、訪れる人たちに香り豊かなコーヒーと癒しを提供しています。京都といえば、抹茶を思い浮かべる人の方が多いと思いますが、そんな京都にグローバルフラッグストアを2014年に開いたのがスペシャルティコーヒーブランド「%Arabica」(アラビカ)です。最近では東京の麻布台ヒルズにも出店し、多くの日本人にも認識され始めているコーヒーブランドですが、実はその始まりは京都でも、東京でもなく、遠く離れた香港でした。

「%Arabica」のホームページより
https://arabica.coffee/location/arabica-kyoto-arashiyama/

アラビカの創業者であるKenneth Shojiは、東京で生まれ育ち、のちに米国のロサンゼルスに移住し、そのまま現地の大学へと進学しました。当時はスターバックスが米国で事業を急拡大している時期で、スターバックスの大ファンだったKennethもタンブラーやマグカップなど、ありとあらゆるグッズを買い集めていたそうです。

大学を卒業後、福島の印刷資材メーカー商社の3代目だったKennethは家族企業に入社。35歳の時に代表へと就任しました。彼にとって転機が訪れたのは2011年。実家と家族企業の本社があった福島が、東日本大震災で被災し、彼の実家も津波によって呑み込まれ、引っ越しを余儀なくされたそうです。その中で移住したのが香港でした。

香港に移住後、家族企業の50周年ということもあり、Kennethは新事業の立ち上げを試みます。当時、香港にはスターバックスの大ファンであるKennethの満足のいくコーヒー店が少なく、チャンスを感じたのと、コーヒーは原油に次ぎ世界で2番目に取引されている品目ということに気づき、コーヒー店の立ち上げに動きます。

まず、Kennethはハワイに向かい、現地のコーヒー農園を買収しました(なぜハワイか、という質問にKennethは海岸線沿いで夕焼けを見える場所に住むことが夢だったということを理由にハワイのコーヒー農園を買収したと答えています)。その後、エスプレッソマシンの日本代理店や国産のコーヒーロースターの海外輸出などを手掛け、事業を通じてコーヒーに対する理解を深めていきました。

そして2013年に、香港で念願の「%Arabica」1号店を開店しました。開店当初はKennethと店舗スタッフ2名のみで、家族企業を経営する傍ら、コーヒー店のスタッフとして接客をしていたそうです。その一年後に、京都で「%Arabica」のフラッグストアを開くと、人気が爆発。世界中からフランチャイズの連絡が来たそうです。そんなアラビカも10年という時を経て、今や世界で150店舗以上を持つグローバルコーヒーブランドへと躍進を遂げました。実は京都の3店舗以外は全てフランチャイズ展開している店舗で、アラビカの中国に至っては、独占代理店権を持つLucky Ace Internationalがすでに$1B以上のバリュエーションをつけています。また投資家にはPEファンドで有名なPAGも出資しています。

アラビカの立ち上げについて、Kennethは”日本で流行っているコーヒー店の多くがメルボルンやポートランドカフェのコピーが多く、日本のユニークネスを出したグローバルコーヒーブランドを皆無だ。ブラジル人が天性としてサッカーに長けているように、日本人もシンプルを追求した味覚やフレーバーに天性の才能を持っている。私たちのアイデアはいかにコーヒーをクラシックなお寿司に例えて作り込めるかだ”と話しています。

アラビカの創業と成功はまさに幼少期から、両親と共に多くの国々を訪れ、見聞を広めてきたKennethだからこそ見出せるチャンスだと感じています。日本とグローバルの差を理解し、日本の強みを活かした結晶がまさに「%Arabica」というブランドではないでしょうか。アラビカのモットーでもある「See the World Through Coffee」について、Kennethはまさに自身の経験、そして”見聞”という言葉を彼らのモットーに取り込み、若手が海外で見聞を広める大切さ、そして彼の元で働くバリスタたちにも世界に出て自身の強みを活かしたチャレンジを積極的にしてほしいと話しています。

(なかなか表には出てこない%Arabica創業者であるKennethさんのことを知れるQAなので、必読です!)

地方発、中国で躍進を遂げた「日本」のラーメン

「味千ラーメン」ホームページ
https://www.ajisen.com.hk/

中国で一時期700店舗以上を展開していた日本発のラーメン屋さんをご存知でしょうか。2007年に香港で上場し、最大で5,000億円近くもの時価総額がついたこのラーメン店の始まりは7坪8席の小さなお店だったそうです。そのお店こそ、中国では知らない人はいない、中国最大のラーメンチェーン「味千ラーメン」(AJISEN)です。

1968年、7坪8席の小さなラーメン店として、地元・熊本でスタートした「味千ラーメン」。実はここも前述の「%Arabica」と同じく、海外経験を有する“日本人”が創業したお店になります。

元々、台湾出身だった劉壇祥(後に重光孝治へと改名)は、日本人のパートナーと共に当時有名店だった久留米発のラーメン店「三九」へ訪れたそうです。そこでいただいた豚骨ラーメンの奥深さに感銘を受けた重光さんは、新たにラーメン店を開くことを決意。クラシックな豚骨ラーメンではなく、にんにくやマー油など重光さんの生まれ故郷である台湾の調理法を活かし、味千ラーメンを立ち上げました。

味千ラーメンのロゴ

そして、今や中国最大のラーメンチェーンまで登り詰めた、味千ラーメンの転機が訪れたのは1995年。当時、香港在住で食品の輸出入に携わっていた潘慰は、新たなビジネスチャンスを開拓するため、香港の貿易視察団とともにヨーロッパやシンガポール、日本などを訪れる中で、偶然味千ラーメンを訪問しました。幼少期に母親が作った豚骨ラーメンを彷彿とさせる深い味わいに感動し、すぐに中国展開を交渉。1995年には潘氏の人脈とこれまで食品の輸出入業に携わってきた経験を活かし、工場を立ち上げ、まずはラーメン店を経営するための生産ラインを確保したそうです。

その後、1996年に香港で「味千ラーメン」の1号店を立ち上げ、瞬く間に行列店となった後に、深圳や上海で店舗を急拡大。2007年には香港でAJISEN(CHINA)HOLDINGSとして上場し、フランチャイズレストランの業態で香港上場をした初めての企業となりました。

実はこのAJISEN(CHINA)HOLDINGSは、前述の潘氏が大株主として51%の株式を保有し、「味千ラーメン」の創業者一家が経営する重光産業の保有株式は5%(現時点では希薄化もあり、3%以下)にも満たないといいます。しかし、重光産業の現代表である重光克昭氏もインタビューで”利益を過分に追わず、ブランドを広めることに徹した”、”日本法人は中国人をサポートする形をとっている”など、日本法人は原料提供と味の品質管理に徹し、とにかく海外パートナーに権限移譲することに努めたと話します。

今でも、重光産業は味千中国に対して原料提供(スープなどの特許権使用)などを通じて、売上額の数パーセントを受け取る形で、2022年度の実績ベースでは約9億円が重光産業に支払われています(2023年度は中国市場における味千ラーメンの業績不振もあり、双方の合意により、支払いが免除されています)。

このように、アラビカも味千ラーメンも、海外バックグラウンドを持つ日本人創業者によって立ち上げられたブランドではありますが、信頼できるパートナーをもとにフランチャイズ方式を用いて、海外市場を開拓していきました。彼らの共通点はまさに日本のユニークネスや強みを活かした、日本ブランドの”Japan to Global”でした。日本と海外、双方のことを理解した上で、日本のブランドを世界に届けた素晴らしい事例とも言えるでしょう。

ニューヨーク近郊で「日本」の美味しいいちごを生産するスタートアップ

「Oishii Farm」ホームページ
https://oishiifarm.co.jp/

世界の金融やカルチャー、エンタメ、食などの中心であるニューヨーク。多文化・多民族社会であり、世界のイノベーションの発信地とも言えるこの場所からは、絶え間なく新たなトレンドやビジネスが誕生し、やがてグローバル市場へと広がっていきます。そんなニューヨーク近郊で、日本品種のいちごを生産するのが言わずと知れた「Oishii Farm」です。

2016年に米ニュージャージ州で創業された「Oishii Farm」は、ニューヨークを中心に糖度が高く、高品質な日本品種のいちごを生産し、ミシュラン三つ星レストランなどに提供しています。さらに現在は、米大手の大型スーパーマーケットであるホールフーズを中心に直販も展開しています。今年の2月末にはシリーズBで約200億円の大型調達を発表し、ホールフーズ以外の高級スーパーに販路拡大、フルーツトマトの生産販売、次世代植物工場の立ち上げ、そして日本でも大型研究施設の設立にも乗り出しています。

今や世界を代表する”Japan to Global”スタートアップである「Oishii Farm」。その「Oishii Farm」を率いる古賀さんもまさに「%Arabica」や「味千ラーメン」と同じく、海外バックグラウンドを持つ日本人起業家の一人です。少年期を欧米で過ごした後、中学で帰国し、慶應に進学後、コンサルティングファームに就職。その後、MBA取得のために再び渡米し、卒業後、起業の道へと進みました。過去のインタビュー記事でも、古賀さんは「日本人に生まれたからには、日本のもので世界をアッと言わせたい」とお話しされていました。日本は世界に誇るものがたくさんあるにも関わらず、それを活かしきれていない、または自分たち自身がそれらを誇りに感じていない、そんな現状にギャップを感じていたといいます。

古賀さんはその想いを胸に、UCバークレーでMBAを取得後、「Oishii Farm」を創業。今や「Oishii Farm」の植物工場はロボットが24時間巡回し、苗の健康状態や収穫量を把握し、環境データを記録した上で、ハチの受粉タイミングなどをモニタリングしているのですが、創業当初は中古のコンテナを用いて、ほぼ自力で”植物工場”を立ち上げたそうです。海外という地で、ゼロから全てを立ち上げ、日本のアイデンティティを大事にした上で作り上げた「Oishii Farm」。会社のホームページやWantedlyに掲載している創業ストーリーからも、ひしひしと古賀さんが日本発グローバル産業の創出にかける熱い想いを感じることができます。

Oishii Farmのホームページより
https://oishiifarm.co.jp/pages/philosophy

余談にはなりますが、自分もベンチャーキャピタル業界に入りたての頃に「Oishii Farm」の存在を知り、それ以来一ファンとしてずっとフォローをさせていただいたのですが、前回のニューヨーク・ボストン出張で初めて目にした”The Koyo Berry”に感動し、その場で写真を撮り続けてしまいました(お店の人に迷惑をかけてたらすいません!!!)。また、ホールフーズで「Oishii Farm」の広告を見かけたものの、写真を撮り損ねて15分ほど待ち続けましたが、再び表示されず。。。残念でした。。。

日本発のいちごがこうやってホールフーズの冷蔵棚に並べられていることにとても感動しました。。。

日本の強みを活かし、世界の市場で勝負をする。古賀さんにとってそれが植物工場であり、ブランドとしても世界のトップに立てるいちごでした。前述の「%Arabica」は日本のユニークネス、シンプルを追求した味覚とフレーバーを活かしたコーヒー、「味千ラーメン」は日本と台湾の調理法を活かし、フランチャイズ方式を取りつつも、原料提供と味の品質にこだわりながらそれぞれ海外市場で成功を収めています。

こういった事例からも分かるように、日本にはまだまだ多くの宝が眠っており、日本発には可能性しかないと思います。これらの「宝」を掘り起こし、世界に向けて展開することが、日本市場にとっても新たな糸口となり、更なる”Japan to Global”を生み出していくことになるでしょう。

以前、書かせていただいた記事で、Asu Capital Partnersが”Japan to Global”ーー日本のスタートアップのグローバル化を見る際にも、まとめたいくつかのポイントが以下になります。

① 日本で圧倒的に勝てる領域 or 市場
ローカルビジネス but グローバルファイナンス
② グローバル市場と“共通スタンダード”が存在する領域
日本が先行してスタンダード=ルール作りをしている領域
③ 日本の強みを活かし、海外で一定の市場を占有できる領域
共通スタンダードではないが、日本の強みが圧倒的に評価されている領域

上記の事例を含む、日本の食や文化を活かした事業はまさに日本が先行してスタンダート作りをしている可能性を秘めている領域であり、日本の強みを活かし、海外でリードできる領域だと考えています。この領域でグローバル市場にチャレンジしたいと考えている起業家の方やこれから起業を考えている方、海外にバックグラウンドを持つ起業家の方などいらっしゃればぜひご連絡いただけますと幸いです!

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参考記事:
Smash Hit Japanese Coffee Chain %Arabica Opens Its First U.S. Location In Brook
10 Questions to % People ft. % Arabica owner & founder Kenneth
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創業ストーリー 前編:「僕らのイチゴは未来を救う」日本の技術で挑む、世界最大の植物工場。
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「日本が世界に勝てるものを見つけた」植物工場で世界の名だたる企業から200億の資金調達を達成したOishii Farm 古賀大貴が使命を見つけられたワケ


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