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【短編】風が吹いて儲かった桶屋が出版した自己啓発本は誰も帯書いてくれない

カフェで並んでるときの話なんですけど、前のおしゃれな紳士っぽい男の人が注文してて

「686円になります。」

「1000円からで。」

「あっ。」

チャリン

「す、すみません!」

「ははは、気にしないでください。」

そしたらおつりを手に取るやいなや途端にお手玉みたいになって

「おっとっとっと!」

ってその場にすっ転んだから店員さん

「大丈夫ですか!!」

って声かけたら

「よくこうなっちゃうんですよ」

って笑ってて。これが?と思いまして。こんなことしょっちゅう起こるか?って。まあでもそんときは、見た目紳士っぽいのにおっちょこちょいなのギャップだなってぐらいにしか思ってなかったんですけど、その男性のコーヒーができて、

「お待たせしましたブレンドです」

って渡されたコーヒーをすごい勢いでがッと持ったんですよ。

もうなんか、一回盗まれたやつですか?ってぐらい力入ってて。

それをこう、サイドに引けばまだよかったんですけど、まっすぐ正中線に向かってがッとやるもんだから一瞬人種が変わるくらいの量が顔面にぶちまけられたんですよ。

この時点でもう、何かそういう能力かなんかですか?って思い始めてました。で、

「ぷあちちち!!」

って床に転がり始めて、そしたらまた店員さんが

「大丈夫ですか!?」

って寄って来たら

「いいんです!よくあるんで。」

ってまた笑うんですよ。でその男性は席戻ってったんですけど、

さっき一緒にパスタも注文してるんですよ。

……なんか、もう嫌な予感しかしなくて。

ただ今回に限っては店員さんが席に運んでくるから、いくらあの人でも大丈夫だと思ってたんです。

しばらくして新人っぽい女の子の店員さんがパスタを運んできて、何も起こすなよ……席から立つなよってずっと心の中で思ってたら、

女の子がつまずいて持ってたパスタがはるか上空に舞ったんですよ。

いやそっち!!!!!??

まさかの展開にもほどがあると思ってパっと男性の方見たら、

「大丈夫ですか!!」

って席立つんですよ。

そしたら案の定テーブルに足思い切りガン!ってぶつけてそのまま自分の足に躓いて倒れてる女の子の上にどさーっと覆いかぶさったんですよ!

最悪なタイミングで能力発動したああ!!!

そしたら二人が倒れこんだ後、天から降ってきた濃厚なカルボナーラが男性の身体にびっちゃーかかって、男性のおかげで女の子は汚れずにすんだんですよ。……え?何この展開?

そしたら女の子がむくっと起きて(え!?私転んだのに汚れてない!)って感じで男性の様子見て、いろんな感情が混ざった感じで言葉に詰まってしばらく何秒か沈黙が続いたんですよね。男性も見かねて女の子がなんか言うの待ってる感じで。そしたら最初に女の子の口から出た言葉が

「転ぶのわかってたんですか?」

だったんですよ。あまりにも咄嗟のできごとだったんで、信じられないぐらい判断速くなきゃ助けられなかったですからね。そしたらその男性が爽やかな顔で

「言ったでしょ。よくあるんで。」

って笑うんですよ。

あれ?ひょっとしてこの状況をバネにしようとしてない?

我に返った店員さんが

「申し訳ございません大丈夫ですか!?」

「いいよいいよ。」

まあそらいけるでしょ。お前は慣れてるもんな。

店員さんまたちょっとポーッと赤くなってて、このままイイ感じになりそうだったんですけど、ちょっと待ってと。これは勘違いじゃないですか。すごいノーコンなピッチャーが投げた球が隣のサッカーゴールに入っただけなんですよ。ノーカンです。認めるわけにはいきません。

それに勘違いさしたまま付き合ったら後々大変なるなと思って、これは一切嫉妬とかじゃないんですけど、なんかボロ出せよと、何ならうんこ漏らせと祈って見てました。そしたら

「え!?キモイYシャツ屋さん好きなんですか!?私もです!!」

「実はライブのチケット取ってるんだけど今度いかない?」

「行きます!連絡先交換しましょう!」

「いいよ!ってあれ?ひょっとして○○さん!?ホラ、高校で一個違いだった××だよ!覚えてる?」

「えー!?嘘!!××先輩だったんですか!?ってことは家この近くじゃありません!?」

「良かったらバイト終わったらウチ寄ってかない?一人暮らしで寂しかったんだよね~。」

ものすごい速さで愛が育まれてる

奇跡の連続がミルフィーユになって、明日には籍入れてもおかしくなくなってました。

ていうかホントにやめといたほうがいいって!とんでもない事故物件が巧みなカメラアングルでイイ感じに見えてるだけだから!

うんこ漏らせ!!!!!!!!!!!

そう心が叫んだ瞬間、—————願いが届きました。

「びえええええええええええええ!!」

わけじゃなかった。

「あ!赤ちゃんが!!」

が、もっとヤバい事態が起きてたんです。

ベビーカーのひもが緩く、癇癪と同時に大きく倒れようとしていました。

店中の全員が(ヤバい!!)と感じた時にはもう遅く、床に倒れようとしていました。

(間に合わない……!!)

ガシャーン!!!

ベビーカーは何か大きなクッションに支えられ、いや、説明するまでもなく、あの男性が下敷きになったおかげで助かりました。

店中から大きな拍手が沸き起こりました。

この人のおっちょこちょいは被とのトラブルにも反応しているようでした。言わば「もらいおっちょこちょい」というやつです。何それ?とにかく、故意じゃないにしろ、「もらおちょ」するのなら、トラブルから助けてくれそうですね。これなら安心ですね。

そんなこんなで店を後にした男性、その背中の真っ白なソースはまるで僕たち観衆に欠点は研ぎ澄ませば武器になると語り掛けていたようだとかなかったとか……それはまた別のお話。

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