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教室のアリ 第33話 「5月12日」②〜「5月13日」〈憧れの人と変な癖〉

オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組で名前はコタロー。仲間は頭のいいポンタと食いしん坊のまるお

〈蝶のように舞い、蜂のように…〉
困った顔で蝶々さんは言った。
「ワタシが飛んでいるところを見たことある?」
「もちろんだよ」オレは答えた。
「なら、無理だってわかるでしょ、ワタシは蝶なのよ。ひらひらと飛んで、急に左右に曲がったり上がったり、落ちたりするでしょ。羽につかまって海まで行ける?行けないでしょ」
「うん」蝶のように舞う、か…。
「じゃ、またね!ここの家の男の子はすごい頑張り屋さんだからよろしく〜」そう言い残してどっかに行ってしまった。オレは時計を見た。そろそろ集合の時間だ。まるおのいるキッチンに向かった。ドアの隙間から中に入るともう帰ってきていたポンタが腹を抱えて笑っていた。
「どうしたの?」
「コタロー、あれ見てよ!」オレはポンタが足差した方向を見ると…まるおは、寝ていた。それも「あきらかに食べ過ぎました」って感じでお腹を上にして寝ていた。もし、こんな体勢を公園でとったら…危険を察知できない。オレは改めて家が、屋根がある幸せ、敵がいない場所っていいなぁと思った。
「ただいまぁ!!」ダイキくんの声だ。
「ダイキ、誰もいないよ」パパが言った。3匹のアリがいますけど…と心の中で思いつつ、
「ただいま」と言った。後ろからママも帰ってきた。どうやら野球は午前中で終わったみたいだ。ダイキくんはお風呂場にダッシュしながら言った。
「1時半からカープの試合があるからそれまでにご飯食べる!ご飯、何?」
「昨日の残りをご飯にかけたら牛丼になるけどそれでいい?」
「いいよ!ご飯大盛りでよろしクリアレン!」パパとママは笑ったけど、オレたちは意味がわからなかった。

〈スズキセイヤとは?〉
ダイキくんはシャワーを浴びて、牛丼を食べ(ありえないくらいの量だった)、少し自分の部屋で勉強をして1時半にパパとテレビの前に座った。テレビでは赤いユニフォームと青いユニフォームが野球をしていた。
「このテレビをいっしょに観たら、『野球』がわかる!」ポンタが言ったので、オレとまるおは賛成して2人と2匹でテレビの前に座った(オレたちは厳密に座ったわけではない、雰囲気の表現)。最初、青がバットを持ってかっとばす番。それはすぐに終わった。次、赤がかっとばす番。いろいろな人がかっとばしたあと、ダイキくんが大声を出した。
「スズキセイヤ!かっとばせ!ホームランだ!」ダイキくんはテレビに祈った。セイヤがバットを振った。「ガキーーーン!!!」ありえない音(オレたちが観た河川敷の野球とは比較にならない)がして、ボールは人がたくさんいるところに入った。ダイキくんは飛び跳ねてガッツポーズをした。
「さすがセイヤ!スリーランホームランだぜ!」セイヤはゆっくりと板を一周して帰ってきて、仲間とタッチした。【カープ3―0ベイスターズ】と画面に書いてある。
「これはカープが3点だ!」ポンタは理解した。テレビの人が説明してくれるからよくわかった。その後も、カープがたくさん点数を取って8対1で勝った(みたいだ)。
「ボクは絶対にプロ野球選手になる!スズキセイヤみたいにたくさんかっとばすんだ」聞いたまるおは頷いた。夜になった。パパはビールを飲んで、ママは晩御飯を食べたあとぶどうジュースの濃いのを飲んでいた。ダイキくんはトドウフケンの紙の一ヶ所を赤く塗った。コタポンまるの『ダイキくん元気復活プロジェクト』は成功に向かっている。3匹はそう思った。

〈変なクセ〉
翌朝、激し過ぎるブランコみたいなランドセルに揺られ教室に戻った。運動会まで2週間を切り、その1週間後には中間テスト(※この学校は前期後期制を採用)がある。算数の授業中ポンタが言った。
「この前、ダイキくんの部屋に行ったときに気づいたことがあるんだ」
「なに?」オレが聞き返すと、
「クセがあるんだよ。今もそう。紙に『点』があると、それを○で囲むんだ。印刷の時についた関係のない『点』でもそうする。もちろん、全部じゃないけど、考えている時とかそういう時にするみたい」
「変なクセだ、パンの半分をランドセルに入れるのと同じくらい変だ」まるおはすぐに食べものの話にする。このクセがのちにダイキくんを救うことになるのだが…それはまた、別の話。(ごめん、三谷幸喜さん)


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