ひだまり

大切な日が近づいていた

カレンダーに記さずとも
忘れない
待ち続けた日

ミニョが帰ってくる日

再会したらまず
人目も憚らず抱きしめる

助手席にミニョを乗せて
ちょっとからかったりもしてみる

ミニョはどんな反応をするだろう
そんな事を考えるだけで
テギョンの顔には思わず笑みが浮かぶ


離れ離れの3年という長い年月
時折思い出したように届くメール

短い
頑張ります!宣言だけのそれは

ミニョらしいと言えばミニョらしい

一つ事に一生懸命になれば
その事にまい進する彼女

遠く離れた恋人へのメールなのに
かなり理不尽ではあるけれど


一方で
そんな淡泊な距離感は
この3年のテギョンにとっては
ありがたくもあった


自分の苦しみを
知られずに済んだから


ミニョがアフリカへ発ってから
A.NJELLには重大な問題が次々に起こっていた

アン社長が後押ししたミナムとヘイの関係は
本人たちにとってはとても順調なものだったけれど

ファンに大きな誤解を与えてしまう事になった

ベストカップルだったテギョンとヘイの関係を
応援していたファンにとっては
テギョンを振って直ぐにミナムがヘイと恋仲になった事は
受け入れられなかったし

ミナムがテギョンからヘイを奪った
略奪愛だとの憶測も生んでしまった

こと恋愛事でのゴシップは事実かどうかではなく
ファンにとっては心離れる重大問題で
かなりのファンが離れていってしまった


その上
あれから頻繁に母と会うようになった
テギョンとモ・ファランの関係も
隠し撮りされた画像が続々とUPされ
あり得ないゴシップとなって広がった


だけれども
それよりも
テギョンを一番苦しめたのは
メンバーの不仲だった

不器用だけれど
一生懸命だったミナムは

要領のいい
生意気な奴へと変わってしまい

それに一番反発を示したのは
ジェルミだった
誰に対しても人懐っこいムードメーカーが
ミナムを受け入れない空気を作り続け
不協和音は日に日に大きくなっていった

もちろんプロである
そんな事は微塵も感じさせない
活動を続けてはいたが

リーダーであるテギョンは
マ室長や
アン社長でさえ
修復困難な状況を
何とか変えようと
力を尽くしていた

それでも
ジェルミが
天才肌であるがゆえの
ミナムの過剰に見える自信を理解し
本当の意味で理解を示したのは
つい最近の事だった

そんな中でも
新生A.NJELLのカムバックからの
さらなる飛躍のために
3年のうちに5枚のアルバムを発表するという
ハードな活動もテギョンの創作活動が無ければ
叶わない事だった


「韓国に戻る事になりました」


そんな苦しい状況の中届いた
ミニョからのその短いメールが
テギョンにどれほどの喜びと安らぎを
与えてくれた事か


その約束の日まで
そろそろ1週間

テギョンはいつもの様に
凝り固まった肩を押さえながら
首を左右に振ってみる

眠っても取れない疲労には
慣れっこだったが

全てがうまく回り始め
ようやく少しホッと緩んだ心とは逆に
身体は妙に重かった



それからまた数日が経ち
ミニョが戻る日まで1週間を切った頃

テギョンの不調は一層ひどくなっていた


「どうしたのテギョンさん
顔色悪いけど
大丈夫?」

いつもの様に朝食は取らず
冷蔵庫のミネラルウォーターを取ろうと
ジェルミの脇をすり抜けた時
そう声をかけられ振り向いた

瞬間
視界が歪み暗転し
身体が揺れる

咄嗟にカウンターにつかまり
何とか体制を保った

「問題ない
大丈夫だ」

そう答えながら
テギョンは動揺していた


一体何なんだ

これは・・・


まだまだやる事は山積みで

さらに新しい仕事の打ち合わせも
始まろうとしていた


そして何より
大切な日が近づいている



あの苦しい中
多忙な中を
乗り切れた自分が
こんなところで
倒れるわけがない


倒れるわけにはいかなかった


心配して
ジェルミに押し付けられた
ライムジュースは

どれくらいぶりなのかさえ
わからない程
久しぶりの朝食だった


さらに数日

大切な日の朝


テギョンは
ベッドから起き上がる事すらできずにいた

気持ちは逸るのに
腕一つ
動かす事も出来ない程
身体は重かった


低体温な自分にとっては
あり得ない程
体温が上昇している事を感じていた


室長と社長から渋々ながらも
もぎ取ったオフ

テギョンが起きて来ない事に
違和感すら感じず

メンバーはそれぞれに
個々の仕事に
既に出掛けている時間だった


時計を見る

そろそろ出かけなければ
迎えの時間に間に合わない


重い身体をようやく少し動かし
テギョンが携帯を捜すと

意外にも少し手を動かした場所にあった
それに触れる


タップすると
いきなりメール画面が開く
ミニョ宛のメール
何も書かずに
そのまま眠ってしまっていた事を思い出す


「悪い
迎えには行けない」


文字を綴り終え
送信ボタンを押した確信も無いまま
テギョンは深い眠りに落ちて行った




涙が一粒頬を伝う

苦しい

夢の中

幼い自分

それを一人で耐えていた

気遣う声も
温かい手のぬくもりも
無い

求めても無駄だと知っていた

それでもこんなに
苦しい時には

そばにいて欲しかった


身体が丈夫な方ではないから
もう数えきれないくらい
こんな経験をしているのに


心細くて
苦しくて
辛い時には
経験なんて
何の役にも立たなくて

ただじっと苦しみに耐えるしかない

こぼれる涙さえ
誰も知らない孤独の中で



そう諦めかけた時

フッと誰かの手が
額に触れた

程なく
心地良い
冷たさが額を覆う


誰かが自分に気付いてくれた


その安堵


目覚めたくない


夢の中で
多重の自分に都合のいい
夢を見ているのかも知れない


目が覚めて
現実に戻って
また孤独に戻るのは
もうたくさんだった


身体は相変わらず重い

身体にまとわりつく
熱いのに震える
最悪な不快感も変わらない


それでもせめて
この微かな安堵に
ずっと浸っていられたらと
テギョンはその幻想にすがっていた


けれども幻想は
目覚めたくないテギョンの髪を撫でる

愛おしいと告げる様に優しく

新たな冷たさが
心地良く額を包み
今度はひんやりした手が
自分の手を包んだ


テギョンの意識が少しずつ覚醒していく


確かめたい


幻想ではないと
信じたい


いくつもの
愛しみ深い感覚が
テギョンにそう思わせた


瞼すら重く
上手く開けられない

薄っすらと

何とか光を取り戻した視界


心配そうに見つめていた愛しい瞳が
安堵したように微笑みをたたえた


会いたくてたまらなかった
かけがえのない人

幻想ではない
ひだまりのような
本当の愛がテギョンを包み込んでいた


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久しぶりのテギョンさんとミニョちゃんのお話
ミナムだったミニョちゃんを献身的に看病する
テギョンさんはとても印象的で大好きなシーン
看病シチュエーション結構好きなので今度は
テギョンさんを・・・と妄想
弱ってるテギョンさんという意味では
プールでの一件があったけど・・・でしたから^^

苦しむテギョンさんのイメージは
TEAM Hの「Like a zombie」のMVの
苦悩するグンちゃんの表情が妄想を後押しして
くれました

でもグンちゃんにはいつも元気で幸せでいて欲しい
それはいつも変わらない想いです
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