Advent calendar (12/19)

●12月19日●

テギョンにしては
早めに目覚め
いつものようにキッチンに向かう

シヌが優雅にお茶を入れている

それは見慣れた光景だった

ただ
部屋は静まり返っている

コポコポと注がれるお湯の音さえ聞こえ
立ち上る湯気が朝日を浴びて
その揺らぎの軌跡を見せている


ミニョがここを去り
ミナムもここで暮らす事を選ばず
あの一番の賑やかさの原因だった
ミナムのおばさんも
ミナムと暮らすべく
ここを出て行き

シヌと
ジェルミと
テギョン
三人での生活
あの
毎日がお祭り騒ぎの様な日々の
さらにその前の生活に戻っていた

シヌの脇を抜け
テギョンは
ピッチャとカップを
手に取る

カップに注ぎ入れた水を
一口含むと
シヌが言った

「たまには
飲まないか?
お茶」

テギョンの嗜好を知っているシヌが
そんな風に声をかけるのは珍しかった

かと言って
別に断っても
シヌは気にしないだろう

テギョンもシヌをわかっている

けれど
「いや、俺はいい」

そうやり過ごす事をテギョンはしなかった

カップの水を
さらに一口飲みながら
シヌの誘いに乗る

ティーセットの傍には
テギョンの返事を待たずに
既にカップが二つ並べられていて

一つのカップに
淡い黄色の澄んだお茶が注がれる

シヌに手渡されたそのカップを
テギョンは鼻に近づけ香りを嗅ぐ
疑問の表情で一旦離すと
もう一度カップに鼻を近づける

「レモンティーなのか?」

けれど
レモンティーにしては
淡い黄色に澄んでいる

シヌが自分の分を注ぎ分けて
そっと置いたティーポットの蓋を開けると
草の様な枝の様なものしか入っていなかった

この草の様なものに
レモンの香りをつけてあるのだろうか

平素お茶をほとんど飲まないテギョンにとっては
疑問だらけだった

シヌはそんなテギョンの表情を読み
フッと笑った

「レモングラス
ハーブなんだ
レモンは使ってない」

「そうなのか」

香りは全くレモンのそれだった

テギョンが
澄んだ黄色を微かに揺らし
口に含むと
やはり
レモンの風味がふわりと広がった

それは一瞬のとてもはかない香り
けれどホッとする優しさがあった


シヌも香りを嗅いでから
一口
口に含む

そして

静かにカップをテーブルに戻すと


「彼女の
お気に入りだった」

懐かしい昔話をするように
小さく呟いた

カップに視線を落とす
シヌは微笑んでいる

その笑顔に
微かな切なさが
滲んている気がするのは
思い違いだろうか
そんな事を考えながら

「そうか」

テギョンは
それだけ言うと
カップを手に
朝日が差し込む窓辺に寄る

昨日の雪が
朝日を反射して
きらきらと輝いている

クリスマスイブまで
あと5日

むしろ好ましいはずの静寂に
ほんの少し
淋しさを感じ
テギョンは
もう一度
レモンの香りを飲み込んだ

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