見出し画像

山梨県の湯之奥集落の話(その2)

 「夜学舎」では、三崎の左官、左菊の鈴木一史さんをはじめとするたくさんの方々の力を借りてワークショップ形式で再生をスタートしました。まず最初に手揉み製茶用の焙炉(ほいろ)と手摘みした茶葉を蒸すための竈門(かまど)を、今年の11月と12月の2回のワークショップで作りました。

 ここでは、実際に、どうやって焙炉の再生を行なったかという制作のプロセスやワークショップの様子について書いてみたいと思っていたのですが、筆の遅い私がぼやぼやしている間に、講師の方々の方が早々にnoteに投稿してくださいました。それがあまりによく書けているので、私が書くまでもない、という状況となりました(汗)。

ちなみに、
第1回目のワークショップは2023年の以下の日程で開催しました
11月19日(日)10:00-15:00 「枠作り・土の下ごしらえ」
11月20日(月)10:00-15:00 「日干しレンガづくり」

 左菊の鈴木一史さん(親方)と一緒にワークショップを盛り上げてくださっている素敵な弟子(?)のNAOさんが、ワークショップの様子をとても丁寧にレポートしてくださっています。

 また、NAOさんとは別に、親方鈴木一史さんも、ワークショップの様子を書いてくださっています。
 とにかく、おかげさまでとても面白いワークショップになったのですが、それぞれの方のレポートの仕方も、視点が違っていて、勉強になります。

ということで、路線変更。

 ワークショップの内容にはあとで少し触れることにして、まずは、私たちがどうしてお茶畑の世話や製茶に興味を持つようになったかを書いてみたいと思います。

はじめに、製茶について。

 今われわれが飲んでいる日本茶は、ほぼ間違いなく機械で製茶されたものです。一方で、製茶が機械化される以前は、どこでも、お茶は農家さんなどが手で揉んでつくる、手揉み製茶で作られていました。焙炉は、この手揉み製茶のための道具です。

南西向きの斜面にお茶畑が広がる湯之奥の集落

 2021年の3月に湯之奥に通い始め、集落の周囲にはお茶畑が広がっていることに気づきました。元は、養蚕用の桑畑だったそうですが、戦後の生糸生産の衰退とともに、桑畑からお茶畑に切り替わっていったというこということです。現在では桑はポツリポツリとしか残っておらず、あとは全て、畑作用の畑とお茶畑になっています。別天地のような山奥の風景も、時代の変化や経済活動の影響を受けて、大きく変わっていくものなのだなぁと感じます。

 湯之奥ではいくつかのお宅で、自家用のお茶を作っていますが、販売はしていません。お宅に呼んでいただくと、必ず、自家製のとても美味しいお茶を出してくださいます。年間の生産量もそれぞれの家庭で飲む分だけ作っているので、ごくわずかです。昔は手揉み製茶をやっていたようですが、今では自分たちで摘み取った茶葉をその日のうちに製茶工場に持っていき、機械製茶をしてもらっています。
 集落内では、ありがたいことに皆さん農薬を使っておらず、集落全体が無農薬の農産物しか生産していません。よく、都市部の畑で無農薬栽培で頑張っている農家さんから、隣の畑で撒く農薬が風で自分の畑にも飛んできてしまうという悩みを聞かされていました。自家消費用だからできる事なのかもしれませんが、受動喫煙にも似た、農薬のドリフトについての心配がないのは本当にありがたいことです。
 集落全体が無農薬栽培、湯之奥、凄くないですか?

 集落内に空き家が多いのと同様に、お茶畑にも、使われていない耕作放棄地がみられます。しかし、お茶の木は強く、耕作放棄されても元気いっぱいに茂っています。私たちが最初に空き家再生をスタートした「ニイエ」にも耕作放棄されたお茶畑が広がっていました。

「ニイエ」の前に広がる、長年耕作放棄された伸び放題のお茶畑
湯之奥に通い始めた2021年の初夏、6月の様子

 耕作放棄地のイメージがある方は少ないかもしれません。田んぼや畑の耕作放棄地は、だいたいが草ボーボーで、元の作物である稲や野菜は影も形もないのが当たり前です。しかし、お茶畑は上の写真のように、伸び放題のお茶の木(手前に緑に写っているのはほぼ全てお茶の木)の間に、雑草がこれも伸び放題という状況で、お茶の木も雑草と同じくらいの生命力で頑張っています。ほとんどの雑草は一年草なので冬になると枯れてしまうのに対し、お茶の木は葉を付けたまま冬を越すので、そこにもアドバンテージがあるのかもしれません。
 雑草に負けてお茶の木が無くなってしまうということが有るのか無いのか分かりませんが、少なくとも湯之奥ではそうした耕作放棄地はないようです。つまり、綺麗なカマボコ型に整えられているのが手入れされたお茶畑で、伸び放題が耕作放棄されたお茶畑。それだけの差です。

 だから、耕作放棄地といえども、お茶畑の再生はわりと簡単で、雑草と共に、伸び放題のお茶の木を剪定していくだけで良いのです。つまり、農業初心者の私たちには、お茶という植物はとても有難い存在です。植物によっては、剪定にもいろいろなやり方があり、難しい場合が多いのですが、お茶の木は生命力が強く、強剪定という、かなり大胆に剪定する方法で大丈夫なようです。こんなに切って大丈夫?と思うくらい、思い切って大胆めに剪定した方が、結果として春になると小さな芽がたくさん出てきてくれる印象があります。

 お茶の木や雑草の剪定をやりながら、次に着手したのは、農家さんから製茶を学ぶということでした。私たちの製茶の師匠は、静岡県焼津市で自然農法をやっていらっしゃる、「いきものちきゅう」の石井剛さん、駒井緑さんです。石井さんは、有名な自然農法の川口由一さんのお弟子さんで、ご先祖は静岡県にお茶を広めたお一人としても歴史に名を残していらっしゃいます。そんな方達が実践されている自然農法。最低限の雑草の選定だけを行い、無農薬は当然ですが、無肥料で手摘み、手揉みのお茶を作っていらっしゃいます。

 私たちが逗子市で運営するカフェ「南町テラス」では、友人のご紹介で以前から「いきものちきゅう」の手摘み手揉み紅茶をご提供し、販売もさせていただいています。その紅茶があまりにも美味しいので、お願いして焼津で、手摘み、手揉みによる紅茶の製茶を体験させていただきました。

静岡県にあるいきものちきゅうのお茶畑
自然脳なのであまり剪定されていません。
下に見えるカマボコ型の畑が通常のお茶畑です。

 これがその時撮った畑のお茶の木です。自然農のお茶畑は、殆ど、耕作放棄されたお茶畑と一緒に見えます。雑草は、年に数回、刈っていらっしゃるということでしたが、お茶の木は自由奔放に伸びています。太陽の光を浴びてとても気持ちよさそうに茂っています。

ニイエの茶摘み(2022年5月末撮影)

 そんないきものちきゅうさんの自然農を見習って、私たちの畑も雑草や伸び過ぎたお茶の枝の剪定だけにし、無肥料で手入れを続けています。自然農の方式では、カマボコ型の剪定をしないので、機械で効率的にお茶をお茶を摘むことができません。手摘みだからこそできる自由奔放なお茶の木の育て方。手摘みは、手間はかかりますが、一芯二葉(いっしんによう)と呼ばれる一番柔らかい新芽だけを摘みますので、最高級のの茶ができます。それに対して機会で摘むと、枝や硬めの葉も入ってしまうため、素材としては全く別物になります。

ニイエの茶摘み(2023年5月撮影)
一芯二葉と呼ばれる若芽の部分が日の光を受けて光っています
高い木はタラの木で、この時期はタラの芽とお茶の新芽の天ぷらが楽しめます

 5月の爽やかな風の吹く中でお茶の芽を摘む作業は、静かでとても贅沢な時間です。
 2024年からは、お茶摘みと製茶もワークショップ形式で実験的にスタートしてみる予定です。

 詳細については、noteのコメントや、南町テラスのHPまでお問い合わせください。


いいなと思ったら応援しよう!