現代対遮、あるいは HyperLydian、解析“的”接続【終】
前回のあらすじ:前回の記事見ろ
何の話かっつったら、G△7/F△7 みたいな構造の「増8度の対遮」を含む音響体の話でした。
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そして今回、数学ガチ勢の方に怒られないように、頑張って
なぜ「Lydian要素を拾えるあのコードよりも、さらにやり過ぎちゃってる」のだと考え得るのか
なぜ私が、数学(複素解析)の「解析接続」を連想したのか
記事のサムネは何なのか
を釈明して、このシリーズを終わる予定です。
というわけで今回の内容は、8割くらい「プロ音楽理論アンチ(自称)が数学を調べてみた」です。
↑ 関係の無い動画。
△m△m△m△
そもそも G△7/F△7 、前回「HyperLydianコード」と仮に呼ぶことにしたコレですが、どういう特徴を持っているのか。
察しの良い方なら(てか Jacob Collier 氏の奴を知ってる方なら)、サムネとかこの見出しとかから分かっていたかと思いますが、
この積み上げ方、結構 顕著に法則的です。
「ダイアトニック音組織から1音はみ出す」という点を除けば、形式的には非常に綺麗な法則性を保っています。
(今 “除いた” 点は、一般には非常に大きな問題なのだという話が前回。)
それで、
「🍋△7(9, +11, 13) コードよりも、さらにやり過ぎちゃってる」の感覚を説明するために、いよいよここから数学の話を説明しなければなりません。
キーワードは、“滑らかさ(smoothness)” です。
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「微分とは、接線の傾きを求めることだ」
「積分とは、面積を求めることだ」
みたいなのよく聞きますけれども、正直 私はこの言説には不満があります。
初対面の人(特に数学の門外漢)に対して、いきなりこう言いたいならば、
である必要があると思うからです。
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微分
飽くまで数学素人の私が思うにですが、微分の「核心」は、
だと思っています。
これをWikipediaの記事から、より玄人な文で抜き出すなら、
用語が玄人すぎて難しいので、私が具体例を示してみます。
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関数 𝒚=𝒙² について考えます。
𝒙² の挙動を、「𝒙²」という以上に、何か掴むために出来ること。
「𝒙 が 1、2、3… と1ずつ増える間に、𝒙² は どう増えているか」見ます。
すなわち、変化率(に相当する情報)を調べました。
「二次関数の変化率は、一次関数で充分 表せる挙動をする」のです。
同じ手法(公式使わない&“定義に従って微分” もしない)で、三次関数の変化率ならば、二次関数の挙動になります。
「変化率」という道具を認めれば、次数を一つ下げて理解・観察することができます。
私はこれこそが、「微分」からイメージすべき事柄だと思っています。
積分、そして「微分積分学の基本定理」
一方、積分の方に関しては、本当に歴史上の最初の動機が「面積や体積を求めること(求積)」だったため、比較的 先の言説に文句がありません。
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以上と一緒に押さえておきたいことは、
「元々 微分学と積分学は、全く別々の動機により、全く別々の分野から生えて来たモノ同士だった」という事実です。
現代でこそ高校数学の時点で「微分と積分は逆の操作」であるということを即・知らされてしまいますが、当初は驚きの発見だったのですね。
しかも数学の教科書では、動機(欲求)に基づかずに抽象的な問題だけを解かされ続けるから、この「世紀の発見」の本来の有難みも実感しづらい。
「微分可能」「滑らかさ」
もういくつか事前準備に付き合って下さい。
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ここで・この記事で、私が流用したかった「“滑らか”」のニュアンスは、「予定調和的である」「前触れなく、急に予想外の挙動をしない」というような感じです。
絶対値関数のように急に折り返したり、ルインズスターみたいな動きする関数は、「その点に於いて微分不可能」であり、"滑らか" でない。
(まぁ実際の所、私が本題の音楽の話の方で言っていることは、「法則性を破らない」程度の、非常にライトなニュアンスではあります。)
解析接続
目的の「解析接続」を説明するために、「リーマン球面」「有理型関数」「定義域」の説明が必要です。
この内「有理型関数」は
ですので、次項に「正則関数」を説明して片付きます。
「定義域」も次項に説明します。
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リーマン球面(※気にならないならこの項は飛ばしても良い)
ということで、あの虚軸と実軸がある「複素平面」に +α した存在です。
「拡張複素平面」とも呼ぶそうです。
“球面” というのは、幾何学的(≒図形的)に考える場合はある意味その通りの、図形を考えず純代数的に(数字達のみを)扱う場合、ある種の概念的な比喩です。
複素数の数体系に「無限遠点を追加する」とは、∞ にまつわるいくつかの特別な計算結果を、数体系のルールとして追加する、ことを意味します。
列挙はしませんが、具体的には「𝔃 + ∞ = ∞」「𝔃/0 = ∞」などです。
(𝔃 は任意の複素数)
一方で 0/0 や ∞/∞ は未定義のままなど、早とちりは禁物です(調べろ)。
また、「無限遠点」と「無限大」が同じモノ、とは言えません。
一般的な複素数ではなくこの「拡張複素数」をマッピングすることを念頭に置いた時の座標系が、リーマン球面です。それは別に、地球儀みたいなのを用意して、実際に球面に書き込むわけではありません。
(多分そうしても良いけど)
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正則関数
「この関数は、〇〇の範囲で正則である」というような言い方をします。
今度こそ解析接続
以降も “私の説明” が続きます。不正確だったりしたらごめんなさい。
解析接続は、まず「複素関数」の世界にしか無い概念です。
(とは言っても、実数は複素数に含まれる一部なので、私は「複素数の世界でしか成り立たない」の真の意味合いが、よく理解できていません。)
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「特定の数値範囲内でしか定義されない関数」というものがあります。
いま言った数値範囲のことを「定義域」と言います。
入力値 𝔃 が定義域をはみ出ると、出力値 𝒇(𝔃) が∞になったりして、あまり考察の余地が無くなる、というような感じです。
「解析接続」というのが・その言葉が何を意味しているか。
誤解を恐れず、まずイメージだけしてもらうために言いますが、
それは「関数のグラフ(もとい数値の挙動)に注目してみて、本来なら定義域外であるエリアにも、想像でグラフを延長してみちゃおう」というようなことです。
当然「想像で」は、「自由に」ということではなく、「こう伸びるとしか考えられないよね」という空気読み…(たとえ話でしかありませんが)理想的な画像拡張AI、のような伸ばし方だけが許されます。
具体的な条件は「複素平面に於いて、微分可能な関数のグラフを、同じく “至るところ微分可能” なように(=“滑らか” に)延長する」ことだけが許されます。
「許されるってなんだよ」ですが、上記の条件つまり「正則」は、非っ常に厳しい条件で、その伸ばし方、「もしあり得るとしたら一通りしか無い」のだそうです。これが「一致の定理」(の一側面)です。
ゆえに、その「延長してみちゃおう」による結果物は、できたのならば、それが唯一の(妥当な)拡張の可能性なのです。
その「あり得る唯一の拡張形」には、時に数学的に意味がある。から考察する。というのが、私が現時点で理解している解析接続です。
大雑把な言い方ですが、やっていることはある種の「水平思考ゲーム」だと思って良いのでは、と私は思います。科学の探求って概ね水平思考です。(数学は特に顕著だよね)
お疲れさまでした。
△13(+11) の “滑らかな” 拡張 = HyperLydian
ここまで根気強く読んで下さった方には、「解析 “的” 接続」という造表現の意図が、既に伝わっているかもしれません。
「長3・短3・長3・短3…って発想で重ねていったらどうなるの?」という水平思考のアイデアの産物です。
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で「どうして HyperLydianコード は、増8度対遮なのにギリ聴けるの?」については、無論「唯一の答え」なんて見つかりっこないわけですが、
完全5度を形成しながらだと、調性感があちこちで確立してくれて、複調の音響がマイルド(適当)に聴かれやすいやつ の親戚じゃないですかね?
好き好き大好き~